第68話:全てはお肉のために
本のダンジョンでしばらく戦い、またアイテムの採取を行う。
正直探索するにはちょっと魔物が強いけど、回復魔法陣があるので全力で戦える。
ここで採取できるアイテムは素材ばかりのようだ。
「出てくる魔物はコブタマンとコブタマンとコブタマンだね」
「重要性から言うとそうですね」
「他にも出やすぜ。クララまで姐御に追随してちゃパーティーが崩壊しちまう」
アトムがメッチャ失礼だな。
ダンテはダンテでインポータンスとはって顔してるし。
コブタマンは食用資源として重要なんだよ。
ざっつ、おにーく!
「コブタマンの他には、氷の魔女、赤ずきん邪々、石食いオオカミ、笑う悪魔の四種と、レアの経験値君ことおなじみの踊る人形だね」
「石食いオオカミの『惑わし拳』が混乱付与、笑う悪魔の『哄笑』がスタン付与です。注意する魔物の技としては、それくらいですか」
「幸い石食いオオカミは二匹以上一度に出ないようだから、三人で集中して倒しちゃってくれる? あとはあたしの『雑魚は往ね』でイケる。笑う悪魔が群れで出た時はオーソドックスに倒そう。まあスタンはすぐ解けるから、状態異常の中ではさほど怖くないけどね。いいかな?」
「「「了解!」」」
「よーし、次のフロアを確認したら今日は帰ろうか」
うちの子達は理解が早いから助かるなあ。
探索が捗るよ。
さて、回復魔法陣の隣の机と本は、おそらく最初の部屋へ戻るものだろう。
最初の部屋からの転送先に近いしな。
その後奥に進んだところで、もう一冊青い本を見つけた。
「回復魔法陣の側にも青い本はありましたけど」
「青い本はめくると転送される本だと仮定しようか。普通に考えれば、回復魔法陣の側にあった本が最初のフロアに戻るやつ。新たに見つけたこっちが次のフロア行きだよねえ?」
「……まあそうでやしょうね」
「オープンしてみればいいね」
結局開いてみないと結論は出ないわな。
本を開き、魔力の奔流に身を任せる。
うん、やはり青い本は転送で間違いないな。
「このフロアは……」
赤黒チェックの床は同じだが、どうやら魔物はいないようだ。
「食用資源の確保には向かないな」
「コブタマンはもういいでやすぜ」
「うん。今日はもう幸せに包まれてるくらいお肉をゲットしたから、勘弁しといてやるか」
ダンテがカンベンとはって顔してる。
勘弁は勘弁だよ。
お腹一杯ってこと。
見渡すとこのフロアには、岩だのぬいぐるみだの様々なオブジェがあちらこちらに置いてあった。
目の前の机に二冊の本がある。
「青の本は今までと同じ、魔力を感じやす」
「戻る転送の本だろうね」
「赤の本は魔力を感じませんね……あ、表紙に『トリセツ』って書いてあります」
「トリセツ……鳥になったセツコかな?」
「誰だセツコ」
アトムのツッコミがシャープになってきた。
ボケが甘かったかという、あたしの逡巡を打ち消すいいテンポだ。
これからもどうぞよろしくね。
「ディスイズ、フツーのブックね」
赤の本を開くと、二言だけ書かれている。
正しく辿れ。
左上の本から。
ははあ。
オブジェを正しい順番に触っていくと、次のフロアが出現するとかいうカラクリだな?
面倒くさげな仕掛けだ。
「じゃあ帰ろうか」
「えっ? ユー様はこの先がどうなっているか気にならないんですか?」
「なるけど、コブタ肉の鮮度はもっと気になる」
正直こんなところで引き返すのは、後ろ髪引かれるなんてもんじゃない。
とはゆーものの魔物のチェックや大まかなエリアの把握など、既に今日の目的は達成している。
切り上げ時を決めるのもリーダーの務めだ。
特に今日は午後からのクエストだったので、時間に余裕があるわけじゃないしな。
これだけ大掛かりな仕掛けがあるのなら、次のフロアは最終なんじゃないかって気もする。
ボス戦の可能性も考慮し、しっかり準備を整えてからチャレンジだ。
転移の玉を起動してホームに戻る。
◇
「クララはお肉頼むね。アトムとダンテはクララの手伝い。ダンテは今日食べない分を冷凍しといて」
「「「了解!」」」
「あたしは海行ってくる!」
まだギリギリ明るい。
急いで海岸へ行って素材を回収、食べられる野草を摘んで帰ってきた。
必殺料理人クララの包丁捌きの見事なこと。
コブタマンがもうあらかた解体されているじゃないか。
骨を煮込んでスープを作る火の番をアトムに任せ、ダンテがゴミ捨てと冷凍係を担当している。
あたしは今摘んできた野草を洗って刻んどくか。
「「「「いただきます!」」」」
夕御飯の完成だ。
お肉と野草たっぷり栄養もたっぷりのスープをいただく。
今日はかなり盛りだくさんな一日だったので、御飯食べたらゆっくり休みたいな。
クララが言う。
「コブタマンサイズの魔物を捌こうと思うと、もっと大きな包丁が欲しいですねえ」
あたしも思った。
だけど大きな包丁ったって簡単に手に入るもんじゃない。
灰の民の村にはなさそう。
やはり大きな町じゃないと売ってないだろうから……。
「レイノス行こうか」
「「「え……」」」
不安げなうちの子達。
まあそーゆー反応になるだろうなあ。
何だかんだでレイノスはドーラ最大の町だ。
賑わう町は人嫌いの精霊にとってちとツラい。
おまけにレイノスはノーマル人以外に対する差別が激しいとも聞くしな?
「クララだけ連れてく。アトムとダンテは森で食べられる木の実なってないか、チェックしといてくれる?」
「ラジャー。いつ行くね?」
「明日。本のクエストは明後日に延期だな」
デカ包丁ないままコブタたくさん狩ったら、またクララが苦労するもんな。
「ダンテ、明日の天気わかる?」
「こっちは晴れね。レイノスはわからないけど、メイビーオーケーね」
家と灰の民の村でほぼ用は足りるので、冒険者になるまでほとんど他所には行ったことがなかった。
一度レイノスへは行ってみたいと思ってはいたんだ。
コモさんはロクでもない町って言ってたし、他でもいい話はあまり聞かない。
けどドーラ大陸一の都会であることは間違いないからね。
アンセリの話だと、ドリフターズギルドから東へ歩いて二〇分くらいってことだったな。
「姐御、気いつけてくだせえやし」
「あたしは大丈夫だとゆーのに」
この時はあたしも全然心配してなかったのだ。
まさかあんなことになっちゃうとはなー。




