第676話:目論見を話しておく
ギルドの食堂でツンツン銀髪のダンがいつものように話しかけてくる。
ダンはおっぱいさんがいようがいまいが、そう態度の変わらないやつだ。
「よう、今日はサクラさんも一緒か。あの箱何だ?」
「あれは聖風樹製の箱だよ。中にものを入れとくと悪くなりにくいっていう、便利な特性があってさ」
「肉や野菜の鮮度が持つってことか?」
「うん。ギルドの食堂で使ってもらおうと思って持ってきたんだ。あ、ダンの実家の農場でも使わない? まだ家にたくさんあるからあげるよ。サクラさんももらって」
大将に注文を入れる。
あれ、ダンが何故か返事もせずに胡散臭そうな顔だな?
「何で大盤振る舞いなんだよ。裏があんのか?」
「いや、例のザクザク宝箱クエストの空き箱なんだよ。毎日一〇個以上増えてくから、居住空間が圧迫されてくの」
「まだあのクエストやってるのかよ? しかも空箱まで持ってきてるのか。住処が圧迫されるくらいなら持ってくるな」
「うーん、ダンにしてはツッコミが分散して甘いんじゃない?」
「反省すべき点が浮き彫りになったぜ」
アハハ。
おっぱいさんがニコッとして言う。
「私も一ついただいてよろしいですか?」
「どーぞどーぞ。今度持ってくるね」
ダンが言う。
「今日は俺が奢ってやるぜ。臨時収入が入ったんだ。サクラさんもどうだ?」
「ゴチになりまーす!」
「ダンさん、すみません」
でも臨時収入って何?
割のいいクエストでも入ったのかな?
「例の『精霊使いユーラシアのサーガ』の執筆依頼、キャンセルになったんだ。そのキャンセル料だな」
「ちょっと残念だなー」
でもまあ予想の範囲内ではある。
元々あたしが死んだと思われてたから依頼が来たんだろうしな。
「ユーラシアさんの伝説はこれからですよ」
「いいこと言うなあ。さすがサクラさん」
「おい。昨日ギルドに来た皇子、あれどういうことだよ?」
「早いな。もう料理と飲み物が来たよ」
「あんたの言いたいことはわかってる。話はあとでもできるが、料理は温かい方が美味いってことだな?」
「よくわかってるじゃん。いただきまーす!」
◇
「ふー、ごちそうさまっ! 満足です!」
「で、さっきの話せよ。新大使の皇子」
「うん、サクラさんも頭寄せてくれる?」
「はい」
内緒話モード発動。
「……サクラさんの顔が近いとドキドキする」
「同感だ。気が合うな」
苦笑する顔も美しいおっぱいさん。
「今帝国は皇帝が病気で臥せっていて、政治の面では主席執政官の第二皇子が仕切ってるのね? 現皇帝が亡くなると皇位継承権一位の第一皇子が皇位を継ぐだろうけど、第一皇子も病弱だから第二皇子が摂政になって、さらに権力を得るだろうっていうのが自然の流れ。ここまでいいかな?」
ダンとおっぱいさんが小さく頷く。
「帝国政府を仕切ってるのが第二皇子なら、ドーラに攻めてくる計画を立案し発動したのは誰だ?」
「おおう、言いたいのはまさにそのことなの。この前のドーラ独立戦争で帝国軍を主導したのが第二皇子なんだよね。ぶっちゃけドーラに攻めてこようなんて人が帝国の最高権力者って嫌じゃん?」
「当たり前だな」
「本音がわかりづらいのは気味が悪いですね」
「新任在ドーラ大使の第四皇子プリンスルキウスは、次席執政官を務めてたくらいにはできる人なんだ。ドーラ独立戦争で下手打った第二皇子は、プリンスの手堅い政治手腕が煙たい。だから随員ゼロでドーラに飛ばしたってのが真相」
「随員がいないんですか? 一人も?」
おっぱいさんが驚く。
「異例でしょ? 帝国政府のプリンスを敬遠する姿勢が見え見え。なのにドーラ政府がプリンスを大歓迎するわけにはいかないじゃん? 睨まれちゃうもんねえ」
「ははあ、新任大使の皇子はドーラにとって都合がいい。しかし行政府が表立って支援するのは角が立つ……」
「うん、できればプリンスが次期皇帝になるのが望ましい」
「だからユーラシアさんが後押しする?」
「あたしもなんだけど、民間皆で応援するムードにしようよってこと」
おっぱいさんが頷く。
揺れる。
「次期皇帝はムリだろ」
「まあねえ。ドーラで応援してやってプリンスルキウスが結構な成功を収めたとしても、所詮小国での実績だからなー。でも何かの理由で第二皇子がすっ転げるかもしれないじゃん? その時に待望論が出るくらいまで持ち上げることはできると思うよ」
「ギルドに連れてきたのも応援の一環ですか?」
「うん。顔覚えてもらおうと思って」
ダンが聞いてくる。
「皇子かなりの高レベルだったろ。元々か? あんたの無茶レベリングか?」
「あたしの至高のレベリングだよ」
またかよみたいな顔すんな。
ちゃんとした理由があるわ。
「ドーラがつけた護衛の数だけ帝国最大の実力者の覚えが悪くなるんじゃ、本人に強くなってもらうしかないじゃん。プリンスが暗殺されちゃったらこっちの目論見がパーだし、さらにそれをドーラの責任にされたら目も当てられないんだぞ?」
「「!」」
驚愕する二人。
プリンスが一人で送り込まれるのは嫌がらせだけじゃなくて、同時にヤバい事態でもあるんだってばよ。
「……ルキウス殿下には身の危険もあり得ると」
「自己責任で自分の身を守れるくらいにはなっててもらおうと思って、レベル五〇まで上げたんだ」
「……なるほど、ユーラシアのやってることは最善だ」
「でしょ?」
「単なるエンタメ優先の結果じゃねえんだな」
「エンタメは最優先だけれども」
その目はあたしを崇めるものじゃないですね?
あたしがどうしようとも、やってることが正しいと伝わりゃいいのだ。
「これはあたしが勝手にやってる建前ではあるけど、プリンスを第二皇子の対抗馬にまで持ち上げたいのは、行政府の意向でもあるんだよ」
「待てよ。行政府の意向がどうあれ、あんたは勝手にやるんだろうが」
「勝手にやるけれども」
変な茶々入れるなよ。
おっぱいさんが困ったような顔してるだろーが。
「行政府支持のギルドとしては、同様にルキウス殿下も支持でよろしいですね?」
「お願いしまーす」
「具体的に俺達はどうすりゃいいんだ?」
「特に何しろってことはないよ。表向きプリンスはドーラの広告塔だから大事にしようぜーって雰囲気になるのが望ましい」
「「広告塔?」」
ピンと来ないか。
大使の本業に関わることだよ。




