第674話:あたしの自慢話
メキスさんの疑問には素直に答える。
「昨日、プリンスのレベルを五〇まで上げてきたんだ」
「五〇? どうやって?」
「あたしの得意技だよ。魔境で高級人形系レア魔物を倒しまくると、三時間くらいでレベル五〇になるの」
「魔境? 何とまあ……高級人形系レア魔物を簡単に倒せるものなのか? というか滅多に出会わないからレアなんだろう?」
「その辺は経験の賜物だなー」
皆黙っちゃったぞ?
この辺はあたしの自慢話なんだから。もうちょっと盛り上げてくれないと。
「……君のレベルがバカげて高いのも、高級人形系を倒してるからか?」
「うん。人形系がドロップする黄金皇珠よりお高い魔宝玉を、可能な限り持ってこいっていうクエスト請けてたんだ。依頼主は破産したとゆーもっぱらの噂」
マルーさん破産はしてないけど。
「そんな常軌を逸した依頼を請けられるのはユーラシアだけじゃ」
「……ドーラの冒険者の常識なのかと勘違いするところだった」
呆れるメキスさん、達観するデス爺、頷く黒服。
同じようにあたしを尊敬してても、反応は違うもんだ。
「待てよ? ルキウス皇子は確か、『威厳』の固有能力持ちだったはず……」
「ラッキーだよねえ。五〇までレベル上がると、町歩いてるだけで歓迎されるよ。きっと帝国へ帰れば大人気だぞ?」
「な、るほど。逆転はなくもない……」
そお?
プリンスがいくらドーラで頑張っても、ドミティウス第二皇子殿下がコケてくれないと逆転はないんじゃないかな?
「いえ、巧みなリカバリーだったとはいえ、ドーラ遠征の不成功は明らかに主席執政官ドミティウス殿下の失点です。挽回するためにおそらく何かを企てていると思います」
「オレも同感だ。内政は地味で結果の出るのが遅過ぎる。情報不足から人気取り政策は打ち出せない。派閥の調整で失点を回復することもできない。となると……」
「外征?」
「悪魔バアルの思惑とも合う」
またドーラにちょっかいかけてくると困るんだけど。
いや、友好独立した端からまたドーラ戦なんて、指導力自体を疑われるのか。
じゃあどこへ?
デス爺が聞き返す。
「悪魔バアルじゃと?」
「帝国がドーラに攻めて来ようとした事件の裏にいたやつだよ。第二皇子とつるんでるの。戦争大好き」
「あやつはまた人間にちょっかいをかけておるのか!」
「じっちゃん知ってるの?」
ビックリだ。
デス爺とバアルの間にどんな因縁が?
「……昔、目の前に現れたことがある。おそらくはやつの気まぐれじゃったのだろう。妙に格式張った口調で、悪感情を得るために諍いを起こすことが好きだとぬけぬけと言い放った。思えばワシが転移術の研究をしておるのも、やつに対抗する手段を得るためという動機もその一つじゃ」
「バアルは多分、『抑圧者』っていう厄介な固有能力を持ってるんだ。マジックポイントを使用する魔法やバトルスキル、マジックアイテムが使用できなくなるってやつ。転移術でどうにかするのは難しいかもしれないよ」
何かマジックポイントとは違うコスト使ったマジックアイテムを、あらかじめ用意しとくんだったら別だけど。
デス爺ならヒントあげたら何か作りそう。
「この前クー川のちょっと上の方まで魔物掃討してたら、三つ首のヒドラだのイビルドラゴンよりでっかい黒いドラゴンだの、色々召喚されるっていう事件があったんだよ。あれ多分バアルのおかげだな」
他にそんなことやりそうでやれそうなやつ出てきてないし。
「イビルドラゴンよりでっかい? まさかブラックデモンズドラゴンか?」
「あっ、それだ。クララが言ってた」
「事件についてはサイナスに聞いたが、おかげってどういうことじゃ!」
「すごい儲かったんだよ。ヒドラなんか首落とすたびに生えてくるもんだから、牙七〇本以上も取れたの。でっかいドラゴンもドロップ幽玄浮島珠に『逆鱗』五枚だよ。見物人も大喜びだったし、あんな楽しい見世物はなかなかないなー」
口あんぐりの三人。
ナイスパフォーマンス。
「……ブラックデモンズドラゴンは、帝国本土で『黒い災厄』って言われてるんだ」
「帝国本土にヴォルヴァヘイムと呼ばれる未踏の秘境があるんですよ。ブラックデモンズドラゴンはその近辺に稀に現れて、大災害を引き起こすとされていますね」
「一体倒すだけで『逆鱗』五枚は効率いいな。あれ残念なことに、ドーラにはいないみたいなんだよね」
「残念なのか」
メキスさんが笑い、つられてデス爺と黒服も笑う。
「バアルはあたしに拘ってるみたいだから、目の前に現れたら痛い目に遭わせるところまでは約束しとく。でも能力が面倒で、やっつけることはできなさそうなんだよね」
「仕方あるまいの」
ま、バアルなんてのは割とどうでもいいことなんだな。
あたしとドーラにはもっと大事なことがあるから。
「やっぱ移民に食わせることが何より大事なんだよ。受け入れの主力はドーラのノーマル人居住域の東端になるんだ。今一生懸命水路掘ってもらってるから、移民が来るまでに間に合いそう。メキスさんは塔の村の畑よろしく頼むね」
「了解だ。しかし種がないぞ? やはりイモか?」
「春までに穀物の種一杯持ってこられる人、優先的に移民として受け入れてって頼んであるから、そっちが間に合うと思う。ダメならサツマイモで」
メキスさんが頷く。
「どー考えても帝国との貿易が生命線なんだよなー。じっちゃんは輸出できそうなもの探しといてよ。近隣の自由開拓民集落含めてさ」
「うむ。ルキウス皇子殿下に得点を稼がせたいということじゃな?」
「うん、プリンスルキウス推しの意味合いもある。同時にドーラもガンガン儲けたい」
デス爺も頷く。
「黒服さんはリリーのことよろしくね。何か事件あったら知らせに来るから」
「はい」
黒服も頷く。
嫌な予想になるが、帝国に関する何か事件ってのは、リリーの父親である皇帝陛下逝去の報になる可能性が高い。
「そろそろリリーが起きてくる時間かな。じゃ、あたし行くね」
「帰るのか?」
「いや、コルム兄んとこに顔出してくるの。来月の貿易正常化に間に合いそうな魔宝玉とコショウ以外の目ぼしい輸出品って、あったかパワーカードしかないんだよね。コルム兄をこき使って、できるだけ数を揃えないと」
三人が苦笑する。
いざ、パワーカード屋へ。




