第664話:プリンスのレベル上げ完了
――――――――――二時間後。
「君は帝国の皇位継承にまで詳しそうだが、どこまで知ってるんだい?」
「うーんと、今からあたしの言うことは、ドーラ政府の共通見解だと思って聞いててね」
「君、一般人だって言ってたじゃないか」
「一般人だって政府の高官と、帝国の皇帝について語ったりするわ。世間話の範囲内だわ」
「世間話……」
プリンスルキウスが変な顔しとるわ。
ドーラの世間話は帝国と違うのかな?
帝国の事情はよく知らんけれども
「第三皇子は重臣や貴族の支持がないから、現カレンシー皇妃系の皇子は若いから、皇位継承順位は高くとも次代の皇帝のセンは難しいんじゃないか。順当に行くと皇位継承権一位の第一皇子が皇帝になるだろうけど、病弱だから第二皇子が摂政になるだろうと思ってる。現在でも事実上帝国最大の権力者である主席執政官第二皇子の、政治上のライバルは誰かってことになるとプリンスなんだなー。だからドーラに飛ばされたんでしょ? 随員つけずに露骨に島流ししてくることまでは読めなかったけど」
プリンスが苦笑する。
「ドーラの諜報力もなかなかどうして大したものじゃないか。皇室の状況が筒抜けになってるとは思わなかったよ」
「まー情報くらいちゃんと得られるルートがないと、犠牲もなしで独立するなんて不可能なんだなー」
「ハハッ、違いない」
「で、ここからはドーラの思惑だよ。植民地時代の生活も悪くなかったって人は多いんだ。でもせっかく独立したんだから、ちょっとはマシな国にしたいじゃん?」
「ふむ、植民地時代の方がよかったなんてことになると、政府首脳の指導力が疑われてしまうな」
それなー。
元々帝国の植民地統治がいい加減だったもんだから、住民が中央政府に統治されることに慣れていない。
だからバルバロスさんみたいに、地方で勝手してればいいやんって考え方が出てくる。
住民からあまねく税金取り立てるなんてこともできない。
「ドーラは脆弱な国だからさ。どー考えてもカル帝国とうまくやっていかないと、早期の発展は望めないんだよね」
「うむ、その通りだな」
「とすると帝国政府のドーラに対する姿勢ってのは重要なわけで。ドーラに攻めてこようとした第二皇子が帝国の最大権力者であり続ける未来は、あんまり面白くないじゃん? だから対立候補であるプリンスを応援しようぜってことなの」
「よく理解はできたが、島流しの身は変わらないぞ? 予には何もできそうにないんだが」
「ところがそうでもないんだよ。第二皇子の政治における辣腕ぶりは影を潜めるだろうっていう予測があるの」
「何故?」
「第二皇子の下で情報収集を行ってた隊は、先の独立騒動の時、ドーラで潜入工作していて壊滅したんだ。今後第二皇子は情報の優位性を失う」
「メキス中佐がドーラに?」
あ、プリンスはメキスさんのこと知ってるんだな。
「道理で連絡が取れないわけだ……」
「プリンスができる男だって聞いたのはメキスさんからだよ」
「中佐は生きているのか?」
「うん。メキスさん以下二五名は、リリーの住んでる村にいるんだ。畑作ってもらってるけど、今どうしてるかはリリーの方が知ってると思う」
「畑? 捕虜ではなく?」
「ドーラには優秀な人材を遊ばせておく余裕はないんだよね」
「ハハッ」
乾いたような笑いを漏らすプリンス。
いや、これ比喩じゃなくて、マジで余裕がないんだぞ?
「……メキス中佐と随分話したようだが、すると帝国がドーラに攻め寄せたその裏に何がいたかも聞いているか?」
「悪魔バアルのこと?」
鋭い目であたしを見ながらも、口元が緩むプリンス。
「ドミティウス兄がバアルと結託していることも?」
「もちろん知ってる」
「……君も悪魔を手下にしているようだが」
「うちのヴィルと一緒にしないで欲しいなー。ヴィルは好感情が好きないい子だよ。あとで会わせるから、自分で判断してよ」
「……」
◇
――――――――――三時間後。
「しかし、こんなに簡単に魔宝玉が手に入るとは」
「うん。冒険者になって良かったことは、おゼゼとお肉に困らなくなったことだね」
「ハハハ。ドーラから帝国に献上された聖地母神珠も君が?」
「そうだけど、あれ美少女地母神珠の方がいいと思わない? 語呂が悪いから聖地母神珠にしたんだって」
「地母神ユーラシアから名を取ったのか」
美少女地母神珠についてはスルーか。
地母神ユーラシアは帝国に多い汎神教では主要な神様の一人らしいけど、よくは知らない。
「聖地母神珠は未知の人形系レア魔物のドロップでさ。倒せたのは偶然なんだ。もう一個持ってこいって言われると難しいなー」
「ふむ、面白い」
「でも鳳凰双眸珠持ってこいって言われたら取ってくるから、プリンスも依頼があったらあたしに出してよ」
「え? 鳳凰双眸珠って、皇室の宝物庫に一個だけあるっていう?」
「らしいね。でもドーラにはいくつかあるの。相場壊れちゃうから市場には出回ってないけど。年に一個くらいなら帝国に輸出しても構わないんじゃないかってことになってるんだ。よろしくね」
「やはり魔宝玉の本場はドーラだな」
プリンスが頷く。
ドーラは魔物が多いってことの裏返しではあるけどね。
「うーん、でも魔宝玉に頼った貿易は買い叩かれそーでよろしくないじゃん? いろんな産業を興したいの。さっきのお茶もそうだけど」
「ドーラからの輸入品というと、魔宝玉の他にすぐ思いつくのはせいぜいコショウくらいか? 他は何があるんだ?」
「素材くらいかな。他にはマジで何もなかったなー。今、服とか画集とかゲームとかを輸出しようと考えてるんだ。ちょっとこれ口で言っただけじゃ伝わらないから、またいつか説明するよ」
「期待している」
「さて、あそこのデカダンス三体倒したら帰ろうか」
◇
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
クララの『フライ』でベースキャンプまで戻ってきた。
「殿下、いかがでした?」
「いやあ、驚いた。世界は広いな」
「そうでしょうとも!」
何でオニオンさんが得意げなんだ。
魔境ツアーは世界に自慢できるアトラクションだからか?
「転移には人数制限があるんだ。先にうちの子達置いてくるから、プリンスはオニオンさんと話しててよ。すぐ戻るね」
「うむ、わかった」
転移の玉を起動し帰宅する。




