第661話:新任在ドーラ大使プリンスルキウスに会いに行く
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村にやって来た。
リリーは起きてるだろうか?
「あっ、おーい、じっちゃーん!」
デス爺の輝く頭部は偉大だな。
すぐどこにいるかわかる。
真昼でも通用する灯台みたいなもんだ。
「ユーラシアか。まったくいつも騒々しいの」
「あたしはドーラのヒロインとして、皆に元気を分け与えているんだよ。じっちゃんもあたしの恩恵に浴すといいよ」
「まあ元気なのはいいことか……持っているのは何じゃ?」
「これは帝国への輸出品として考えてる超すごいお茶だよ。帝国の在ドーラ大使が赴任したから、挨拶代わりに飲ませてあげようかと思って」
「ふむ?」
よくわかってないな?
これは飲めばビックリする世界一のお茶だとゆーのに。
「つまり輸出品の紹介ということじゃな?」
「売り込みだね。せっかくだから、じっちゃんも付き合いなよ。今から行政府に会いに行くんだ」
「新任大使は皇子という話ではなかったか?」
パラキアスさんに聞いてるのかな。
あるいはサイナスさんからか?
「だからリリー連れていこうと思って。リリーと新任大使ルキウス第四皇子は仲いいんだってさ。もう起きてるかな?」
「まだ今日は見とらんな。もうそろそろ起き出すのではないか?」
お、来た来た。
グッドタイミング!
「ユーラシアではないか! ん、何だ、それは?」
「これは世界で一番おいしいお茶だよ」
「以前言っていた、枝変わりで出たすげえおいしいお茶というやつか?」
「それそれ。今からルキウス皇子のとこ行くから、お土産にしようと思って」
「ルキウス兄様? どういうことだの?」
リリーも黒服も、第四皇子が帝国の新任在ドーラ大使として来たことは聞いてないみたいだな。
当然ではある。
デス爺がかろうじて皇子だって知ってた程度なんだから。
ただ今後帝国との関係は深くしていかなきゃいけないのに、ドーラが新任大使に対して無関心てのは困るなあ。
「新任の在ドーラ大使としてドーラに来たんだよ。一昨日」
「「えっ!」」
「会いに行こうと思ってさ。リリーを誘いに来たんだ。行くでしょ?」
「うむ、もちろんだ!」
「じっちゃんはレイノスのどこに転移できるの?」
デス爺が頷きながら言う。
「総督……行政府前か西門じゃな」
「行政府前に飛んでよ。四人一緒で大丈夫だよね?」
「うむ。では早速だが構わぬか?」
「うん」「おお」「お願いします」
行政府前に転移する。
◇
「こんにちはー。リリー皇女と仲のいい美少女冒険者が遊びに来ましたよって、ルキウス新大使に伝えてくれる?」
「はい、少々お待ちください」
行政府の受付で待っていると、デス爺が文句を言ってくる。
「これ、ユーラシア! 何じゃ今のは!」
「あたしに文句言われても困るぞ? パラキアスさんが新大使にそう吹き込んどくってことなんだもん。違うこと言ったら混乱するじゃん。あたしのせいじゃないわ」
「パラキアス殿が? 悪ふざけもいい加減にして欲しいものじゃ!」
インパクトは大事だと思うけどね。
あれ、いつも忙しいはずのオルムスさんがすっ飛んできたぞ?
何事?
「ユーラシア君、待ってたよ!」
「待たれてたぞー。とゆーかどうしたの? そんなに慌てて」
「ルキウス殿下が大使として赴任した」
「知ってる。だからリリー連れて遊びに……挨拶しに来たんだよ」
「それが予想外の事態で」
「え?」
知事職にあるオルムスさんが慌てるような事態ってどーゆーこと?
不穏な事態なの?
ドーラって円満独立したんでしょ?
で、あたしを待ってたとゆーのがよくわからんのだけど?
「まあまあ、プリンスに会わせてちょうだい。超すごいお茶持ってきたから、皆でいただきましょ」
このお茶は飲んだ者の気を落ち着かせる効果が抜群だよ。
二階の知事室のさらに奥、『大使室』のプレートが張ってある部屋に案内される。
元々は総督室だったのかなあ?
「オルムスです。リリー皇女と精霊使いユーラシアを連れてまいりました」
「どうぞ、御自由に入って下さい」
低いがよく通るいい声だな。
「失礼します」
ダークグリーンの帝国風スーツに身を包んだ、ややぽっちゃりめの物腰の柔らかそうな人だ。
クセのある黒髪が自由っぽい、あたしに似た髪型をしている。
「兄様、お久しぶりです」
「やあリリー。しばらく見ない間に、ちょっと眉毛が逞しくなったかな?」
「何のモーションもなしで、いきなり眉毛弄りにいくのがすげえ! プリンス只者じゃないね」
「これ、ユーラシア!」
デス爺が声を上げる。
あんまりビックリしたからタメ口になってしまった。
ビックリしなくてもどうせタメ口だったわ。
でも別にいいだろ。
あたしはプリンスの家来じゃないし。
「君が噂の精霊使いユーラシアだね?」
「うん。ところで聞いたのはいい噂だった? 悪い噂だった? そーゆーの気になっちゃうお年頃なんだ」
「……どちらかと言うといい噂かな?」
どーして一〇〇%いい噂じゃないんだろ?
あ、オルムスさん目を逸らしてやがる。
「これ、お土産だよ。お茶でもどーです?」
「あっ、楽しみにしていたのだ! オススメなのだな?」
食いついてくるリリーに一言。
「控えめに言って最高だよ」
まあ飲んでみてよ。
コップに注いで皆に渡す。
「「「「!」」」」
以前飲んだことのあるオルムスさん以外は驚いて声も出ない。
どーだ、これは至高のお茶なのだ。
「……素晴らしい」
「教えろ! どこへ行けば手に入るのだ?」
「今手に入る分はあたしが買い占めたから、どこへ行っても買えないわ」
意地悪はお終いとして。
「これ数が少ない上に淹れ方が難しいの。普通の水じゃこの味出ないから、魔法の水が必要」
「ふむ、純粋な水が必要ということじゃの?」
「うん」
黒服が言う。
「水魔法の使い手が淹れないとということですか。かなり条件が厳しいですね」
「でしょ? それからお湯で煮ると成分飛んじゃうから、水出しじゃないとダメ。あとで温めてもダメ。冷やすのは大丈夫だから、夏の飲み物としてはメッチャ向いてると思う。ちなみにこれは一二時間の水出し。これ以上になると渋みが強くなるよ」
「ふむふむ」
「器も選ぶんだ。ガラス製が最高。金属だとダメだな、雑味が出ちゃう」
ハハッ、皆がすげえ真剣に聞いてんの。
ところでオルムスさんでさえ予想外の、とんでもない事態はどーなっちゃったのかな?




