第659話:水と移民
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日、黄の民の村行ってきたんだよ」
『だけど君、灰の民の村に来なかったじゃないか』
「緩衝地帯の南から掃討戦跡地に通した道あるじゃん? あそこどうなってるかなと思って、見てきたんだ」
『ああ。誰も使ってないから、荒れ放題だろ?』
「今のところね。人がいつも通るようになれば全然問題ないだろうけど」
掃討戦跡地でもカラーズに近いところは、便利ではあるが水に乏しいのだ。
数人規模ならともかく、千人単位でやって来る移民をどうにかできると思えない。
「これもし移民が来たら、転移石碑で飛んだ先のクー川近くが入植の中心になるよね?」
水路と井戸が何とかなるまで、大人数が暮らしていけるだけの水となると、やはりクー川沿いだろう。
『水の便のいいところから入植にならざるを得ないな』
「水路が完成して西の方まで水が来ればどこでも暮らせるけどねえ」
『いや、もうクー川沿いから計画的に住まわせた方がいいだろう』
「カラーズの都合から考えると、サイナスさんの言う通りだけど」
集落まとまってた方がどう考えたって交流も商売もしやすいしな。
「でも移民にも色々いるんじゃないの?」
『例えば?』
「オレは自由を求めてはるばるドーラにやって来た。だから一人で暮らす、とか」
『捻くれ者はいるかもしれないが、実際難しいことは承知してるだろう。ドーラに魔物が多いことは、帝国では有名らしいぞ?』
「そーなの?」
リリーがドーラに来たのも腕試しのためだったか。
「移民の中心は貧しい人、若い人、聖火教徒だって聞いたな。つまり貧しい人若い人は冒険者になりたいってことかな?」
『どうしてそうなる。一般人は武器なんか持ってないからな?』
「武器持ってる持ってないは、冒険者志望とは関係なくない?」
『世の中戦闘民族ばかりじゃないから』
あたしだって戦闘民族じゃないわ。
ともかくサイナスさんの見解では、ふつーの農民や開拓民みたいな人が来るっぽい。
農業生産力が上がるのはありがたいな。
土地が肥えてるのはオーケーとして、やはり問題は水。
「水路ってどれくらい掘れてるのかな?」
『沢の水を溜めてる貯水池あるだろう? もう堰を開ければあそこまでは水引っ張れるんだ』
「あっ、すごいね」
思ったよりメッチャ早いぞ?
『ただ水が溢れてしまうから、貯水池からクー川に平行な水路を海まで掘ってる最中だ。天気が良ければ二、三日中に終わり、まず第一の水路が開通だな』
「おー順調だね」
『西に水を引くのは、うんと大変なんだけどな』
第一の水路だけでおそらく移民第一陣の一〇〇〇人は十分暮らせる。
聖火教徒やレイノス近郊に住みたがる人は除かれるから余裕だな。
「第一の水路が通ったら、魔境のクレソン植えに行くよ」
『ああ、よろしく頼む』
楽しみだなー。
『輸送隊のお団子副隊長が一人女の子を連れてきたんだが』
「何か展開あったって?」
インウェンが連れてきた女の子とは、おそらく眼帯男の妹イーチィだろう。
『いや、オレ自身が状況わかってないから話が繋がらないんだ。まずユーラシアが今日あったことを話してくれないか?』
「えーと、簡単に言うと縁談デストロイ(ダンテ風)してきた」
『縁談デストロイしたことしかわからない』
さもありなん。
「フェイさんの嫁候補の内、まず行ったのがかなりの美人さんの家だったんだ。画集のモデルになってくれるかって頼んだら断られた」
『何しに行ったんだ』
「いや、そっちの美人さんはいい人がいるんだよ。でも族長家から来た話で断りづらいってことだったから、あたしをダシに断っときゃいいよって」
『ふむ。もう一人候補がいるんだったか?』
「そうそう。インウェンが連れてきた子だと思うんだけど」
『え? ユーラシアより年下じゃなかったか?』
「年齢聞いてないけど、あたしを『姉様』って呼ぶから多分」
エルマに続き、二人目の妹分だ。
イーチィも好奇心旺盛そうないい子だよ。
『イーチィと名乗ってた。間違いないか?』
「うん、間違いない。輸送隊の眼帯隊長の妹なんだよ」
『……全然似てなくないか?』
「結構衝撃だよねえ。眼帯君のこと『兄様』って呼ぶからおかしくて」
『ハハハ。『姉様』と同格だな』
あれっ? 微妙にモヤモヤするな。
「で、イーチィも悪くないんだけど、フェイさんの嫁には五年早いかなって感じでしょ? もっといろんなことやりたそうだったし」
『うん、確かにな。これからカラーズも急激に変わらざるを得ない。フェイ族長の配偶者に相応しいのは即戦力だ』
「だから輸送隊誘っといた」
『君の発想はその辺が……いや、わからんでもないか』
「レイノス行けると楽しいと思うよ」
サイナスさんが得心したように言う。
『だからか。『白魔法』の固有能力持ちだったって、君に言っといてくれと』
「やたっ! 輸送隊に一人白魔法使い欲しかったんだよね」
輸送隊は魔物退治も請け負うことになりそう。
白魔法の使い手がいるといないのとでは、安全度が全然違うもんな。
緑の民からの新入隊員入ったら、一緒にレベル上げしよっと。
「あたしが縁談二つ壊したから、族長家親族としては、あたしだけは絶対に嫁に迎えないって話になってると思うんだよね。となれば自動的にインウェンのところへ、縁談が転がり込むはずなんだ」
『大正解。お団子副隊長のところへ話が行ったそうだぞ?』
「マジで早いな。インウェン喜んでたでしょ?」
『ああ。しかし君、族長家親族に恨まれるんじゃないか?』
「族長家親族なんて今後あんまり関わりなさそーだもん。フェイさんとインウェンがうまくいくなら、どうにでも言いくるめられるし」
『オレもユーラシアのような図太い神経を持ってたら、人生楽しいだろうなあ』
「ヘタレた神経は捨てておしまいよ」
アハハと笑い合う。
「明日皇女リリーを連れて、新大使の第四皇子に会ってこようと思うんだ」
『ほう、一大イベントだな』
「一大イベントと見るか。今日もかなり面白かったんだよ」
面白さで決まるイベントの重要性。
『今日も眠いんだろう?』
「うん。サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日は行政府!




