第658話:正解はいらない
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームにやって来た。
一見しただけで例の新人がいないことがわかる。
今日もハズレか。
「あっ、ユーちゃん、いらっしゃい」
「合言葉行くぞー。新人!」
「来なかった!」
「お肉!」
「やったあ!」
クルクルクネクネするバエちゃん。
何が合言葉なんだって?
細けえことはいーんだよ。
芸術とはなかなか理解されづらいもんだ。
お土産のお肉をバエちゃんに渡す。
「なかなか新人さんに会えないなー。ここまで焦らすからには相当面白いイベントが待ち構えてるに違いない」
「あはは、それって面白くないフラグにならないの?」
「あれ? バエちゃん変なこと言わないでよ」
一つ二つイベントが潰れたところで、あたしの人生はエンターテインメントに満ち溢れているけれども。
「新人さんが来たのって、まだ一回だけなんだっけ?」
「ええ。五日前に来たっきり」
もう転移の玉の有用性はとっくにわかってるはずだ。
支給武器を持って帰ってないならクエストに行ってはいないだろ。
とゆーかテストモンスターと戦ってないから、まだ石板クエスト出てないのか。
「ねえ、ユーちゃんどう思う?」
「バエちゃんの話聞く限りしっかりした子みたい。武器もらい損ねたり『アトラスの冒険者』から脱落して転移の玉を使う権利をなくしたりはしないな」
「つまりいつかはまたチュートリアルルームに来る?」
「来るね」
何を複雑そーな顔をしているのだ。
「悪い子は来なくていいのに」
「言うほど悪い子じゃないと思うぞ? じゃねー」
楽しみはまだ先だ。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ざっくざざくざくざくざくざくざ、青い蓋など吹きとばせ」
「姐御。今日のはわかりづらいでやすね?」
「宝箱に出会えた感動を言葉に表すのは、意外と難解なのかもしれないねえ」
今日もまた日課のザクザク宝箱クエストに来た。
その前にフェイさんに空箱を五つ届け、アルアさんのところで素材を換金(残り交換ポイント四四二)してきている。
何だかんだであたしは働き者だ。
「トゥデイの縁談デストロイイベントは、ミー達必要だったね?」
「縁談デストロイイベントって字面がすごいな。あたしは縁談クラッシュイベントと考えてたわ」
「変わらないですよ?」
「今日のはあんた達が必要というより、あたしの精霊使いとしての存在感がものを言うんだよね。あたしが向こうを圧倒できないと、皆が不幸になっちゃうから」
「昼飯が全員分浮くとかいう理由じゃなかったんで?」
「せっかく格好よく決まったのに、正解はいらないってばよ」
笑い合う。
「うーん、今日もやっぱり部屋の元気がないね」
「そうなんですか?」
「昨日より荒んでるから、何日かするとあんた達にもわかると思う」
どうしたんだろうなあ?
このクエスト毎日楽しみだから、なくなるとつまらんのだが。
「まあでも宝箱の中身には影響ないみたいだから」
「だといいですねえ」
ぶっちゃけお宝くれれば元気なんかどうでもいいんだった。
「さて、精神統一するか」
「あっしもガンガンしやすぜ!」
「私も鳴らします!」
「ミーもね!」
「アハハハハ、あんた達銅鑼大好きだねえ」
「ユー様もですよね?」
「当然だな」
『グオングオングオングオングオングオーン』の音が四回響く。
「これでよし。宝箱だぞー!」
今日は前列から四、四、五個、合わせて一三個の宝箱が並んでいる。
「ユー様、今日は立て札の記述に、特に変化ありません」
「よし。今日は後ろの列の真ん中が当たりだよ。四つずつ開けてきなさい」
「「「了解!」」」
よーしいくぞお!
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「ええと石板です! 『地図の石板』より二周りくらい大きいです!」
石板?
変なもの出てきたな。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「こっちも石板だぜ!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「ストーンボードね!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「また石板です!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「こっちも石板!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「ストーンボード!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「石板です!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「石板!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「ストーンボード!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「石板です!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「石板!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「ストーンボード!」
「しゅ~りょ~。本日は一二個もお宝を手に入れることができました。このクエストを主催してくれている人ありがとう! このクエストを振ってくれたギルドもありがとう! ふう、ガンガン鳴らしてすっかり心が洗われたよ。帰ろうか」
「「「いやいや」」」
あれ、うちの子達の聞きわけが悪いぞ?
「どうしたの? 反抗期?」
「いえ、そうでなくてですね……」
「トレジャーが全部ストーンボードね。ストレンジね」
「姐御。これはぜひとも検証が必要だぜ。謎があるのかもしれねえ」
謎だって?
石板をじっと見る。
力強く何かが彫ってある。
これは精霊モチーフじゃないかな?
だけど特にどうってことない、何の変哲もないものに思える。
「マジックアイテムじゃないよね?」
「魔力は感じられないです。美術品の類かと思いますが」
「美術品か。価値がよくわからんからなー」
「それぞれのレリーフデザインが違うね」
「あっ、これはあれだぜ。一年一二の月を彫りつけたものだぜ!」
本当だ。
小舟とか鏡とか草笛とかが描かれている。
あたしの持ってたやつは精霊の月の石板だったか。
「アトムよく気付いたねえ。とゆーことは、一二個一組の美術品かな?」
「おそらくは」
「ははーん、これは一つ二つ足りなかったりすると、売るとき安くなっちゃう罠だな? 毎回全部宝箱開けてくあたし達には通用しないわ」
苦笑するうちの子達。
イシュトバーンさんに見てもらえば価値はわかるな。
「問題解決! 帰る前にガンガン鳴らしてく人!」
「「「はい!」」」
皆が満足するまで銅鑼をガンガン鳴らし、心地良い陶酔感に浸ったあと、転移の玉を起動し帰宅した。




