第656話:眼帯男の成長
出てきた大男に声をかける。
「眼帯君、こんにちはー!」
「あァ、姐さん。いらっしゃいィ」
眼帯男ズシェンが駆け寄ってくる。
おお、地響きがするわ。
「話聞いてる? あたしと妹さんが、フェイさんを巡るライバルみたいだよ」
あれ? 困ったような顔だね?
ビックリするほど似合わねえ。
「オレッチはァ、姐さんがフェイの嫁になるのは文句ねェ。しかし妹じゃムリなんだァ。務まらねェ」
「どゆこと?」
「認めたくはねェが、フェイはこれまでの族長の誰よりもよォくやってる。オレッチの妹じゃァ、足引っ張っちまうんだ。民のためにならねェ」
「眼帯君やるねえ。皆のことを考えられるようになったんだ」
輸送隊の隊長としてレイノスや自由開拓民集落を知るようになり、黄の民のありようを考えるようになってきたんだろうなあ。
眼帯男だって黄の民のナンバーツー候補なのだ。
成長が嬉しい。
インウェンも切れ長の目をしばしばしてるぞ?
「御家族の様子はどーなん? 結構喜んでるんだ?」
「オヤジもオフクロも舞い上がっちィまってるんだァ。オレッチの言うことなんか、耳ィ貸しゃァしねェ」
「妹さん本人は?」
「ちょっとォわからねェ。戸惑ってるんじゃァないかと思うゥ」
「大体了解だよ。とりあえず御両親と妹さんに会わせてくれる?」
「へェい!」
家の中、広い部屋に通される。
少なくとも御両親はフェイさんとの縁談に乗り気と。
妹さん、イーチィって名前だったか。
本人の希望はどうなんだろうな?
そして妹じゃムリだと判断した、眼帯男の理由も知りたい。
「こんにちはー。噂の精霊使いがやって来ましたよ」
「「「いらっしゃいませ!」」」
おお、元気だね?
とゆーかあたしに対して興味津々だね?
わかりやすく歓迎してもらえるのはやりやすいけれども。
「カラーズ~レイノス間の交易は、精霊使い殿が計画されたそうで」
「計画したというとちょっと違うんだ。どこの村も発展したいという気持ちはあったんだよ。ドーラ全体の状況を鑑みると、どーしても相対的にお金持ちで人口の多いレイノスと取り引きせにゃならんってのも、全ての村の共通認識で。輸送隊では眼帯君にお世話になってまーす」
お父さんも満足げだ。
イーチィが黄の民には珍しい、クリッとした目を向けてくる。
年齢はどーだろ?
背は高いけど、あたしより一つ二つ下じゃないかな?
「ユーラシア姉様は思ったより小柄な方ですのね? 兄様を投げ飛ばしたと聞きましたが」
「初対面の時弾みでね。思ったより掴みかかってくるのが鋭かったから」
あ、信じてないな?
眼帯男よ、こっちおいで。
「具体的にはこんな感じ」
眼帯男をお姫様抱っこして、三回ほど高く放り上げる。
天井の高い家は気持ちいいなあ。
まあ『ファントマイト』よりはずっと軽い。
目を丸くする御両親とイーチィ。
「「えっ……」」
「すごーい!」
眼帯男が宙に舞うってのは信じ難い現象だったか。
固まる御両親とウケるイーチィ。
うむ、イーチィはなかなかやる子。
しかし……。
「いやァ、姐さんには敵いませんわァ」
眼帯男が笑う。
「……息子は幼い頃からなりは大きくて」
「ええ、ほんの小さい頃しか抱っこしてあげられなかったものですけれど……」
よーし、ペース握ったな。
「いや、こんなのはレベルが高くなれば誰にでもできることなんだよ。それよりもカラーズと黄の民の現状だけど……」
「……ってことなんだ。だから移民が来れば来るほど、輸送隊の価値は高まるよ。隊員を増やすことは必須で、眼帯君の統率力に期待するところ大でーす」
「「なるほど、ありがとうございます」」
「……というわけで、農作物は難しいんですけど米は別だよ。族長のフェイさんはクー川の水を使っての米作を考えているんだ」
「「ふむふむ」」
「……製塩も黄の民にお願いしたいね。これは魔道の装置を使って、一番キツい海水を運ぶ作業を自動化しようという案もあるんだよ」
「「はあ……」」
「……大工ないし工務店は、黄の民主体のカラーズ合同事業にした方が効率的だと思うんだ。十中八九、他色の村の大工が失業しちゃうし、一方で黄の民にはわからない風習とか技術もあるだろうから、上手に取り込んでもらいたい」
「「……」」
矢継ぎ早にまくし立てる。
御両親喋んなくなってコクコク頷くだけになっちゃった。
けどイーチィは割と頑張って聞いてるな?
「……だから輸出品の拡大と識字率の向上を当面目指したいねえ」
お父さんがふっと息を吐く。
「……よく理解できました。新族長の欲する伴侶とは、こうした智勇兼ね備えた才女であったのかと……。我が娘では少々才覚が足りないようで……」
「オレッチの言った通りだったろォ?」
「ええ、ええ。精霊使いさんがフェイ君のお嫁さんになること、何の異存もありません」
残念そうだねイーチィ。
「いや、足りないのは経験と見聞じゃないかな? あたしの見たところ、イーチィはフェイさんの嫁が務まるだけの才覚はあるよ」
「「「「えっ?」」」」
素っ頓狂な声を上げる御両親と眼帯男、そしてインウェン。
「実のところ、あたしがフェイさんの嫁になるってセンはないんだよ。今のカラーズはフェイさんがまとめてるようなものなんで、ここに憚りながらあたしが与すると強くなり過ぎる。他の村の反発を招きそう、という意味で」
パワーバランス的な話は理解しやすいだろ。
頷く御両親。
「だからイーチィがフェイさんの嫁というのはなくはないんだけど……ま、数年早いかな。ねえイーチィ。あんたは自分のやりたいようにしたいでしょ? フェイさんに必要なのは、フェイさんを手助けできる能力のある人間なんだよ」
「はい、姉様」
姉様呼び定着かよ。
イーチィは悪くないけれども、フェイさんの嫁にはちょっと若過ぎる。
不安定な代替わり直後を支えるという意味なら、むしろシーハンさんのが上だろ。
「あたしが推してるのはインウェンなんだ。輸送隊の副隊長を任されてるくらい、補佐的な力量があるし、インウェン自身フェイさん好きそうだしさ」
赤くなるインウェン。
「で、ここから相談なんだけど、イーチィ、あんた輸送隊に入る気ない? 兄ちゃんから面白いって聞いてない?」
「入ります!」
「「「「えっ?」」」」
再び素っ頓狂な声を上げる四人。
うん、イーチィの決断力や良し。




