第655話:一丁上がり
笑いも一段落だ。
「いやあ、ありがとうございました。大変楽しかったです」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「いえいえ、どーいたしまして」
さて、本題に入らなければ。
「ところで今日、あたしが来た用件なんだけど。新族長フェイさんとの縁談について」
正面から問題提起するあたしの得意技だ。
あ、一家四人固まった。
この反応は……。
「そもそもフェイさんとシーハンさんの縁談って、どこから出た話なのかな?」
お母さんが説明してくれる。
「歳が近いこともありまして、昔から、もう本当に子供の頃から話はあったんです。だけど話が具体化したのは、ほんのこの一ヶ月くらいのことですのよ」
「よーするにフェイさんが族長を継ぐから?」
「はい。激変の時代に入った、妻としてシーハンをいただけまいかと族長家の方から打診がありまして」
ははあ、どうもフェイさんを除く族長家一族は、族長としての権限強化を図りたいって思惑があったみたいだな。
他色の民から見るとフェイさんの指導力なんか突出してるから、そーゆー観点はなかったわ。
あたしの盲点だったと同時に、二人の嫁候補を押しつけてくる族長家一族連中も現実が見えてないんじゃないか?
フェイさんは今やカラーズのトップと言ってもいいくらいだぞ?
フェイさんも自信があるから、あたしが好き勝手状況を弄っていいということのようだ。
お母さんとお父さんが顔を見合わせる。
「いい話です。こちらから断るべくもありませんでな」
「でもシーハンさん、後ろの人とラブラブだよね?」
使用人の男を指差す。
「「「「「「!」」」」」」
ビックリするなってばよ。
あたしの乙女チックラブセンサーは優秀なのだ。
うちの子達なんか平然としてるわ。
「お、おわかりになりますか?」
「わかっちゃうねえ」
フェイさんが断るのはシーハンさんに不満があるようだし、シーハンさん側から断るのも族長家を信用してないような格好になる。
つまりシーハンさんを推した族長家一族の独走で、破談にするのがうまくない状況ができてしまったのだ。
しかも結ばれたとしても幸せになれないという。
あの使用人の男の人は、正直で優しい人だ。
シーハンさんとこの一家を本当に大事に思っていることが窺える。
相性もいいと思うよ。
「シーハンさんはどうしたい?」
「……やはり、フェイさんとの縁談はお断りすべきかと思います」
「お父さんもお母さんも同じ考えかな?」
黙ったまま頷く。
意志はわかった。
さて、シーハンさんが文句言われないよう、上手にけりをつけないとな。
「いや精霊使い殿がどういう方か、よく理解できました。あなたが族長夫人たること、私どもには何の異存もありません」
「ところがフェイさんがあたしを嫁にするっていうの、方便なんだよ」
「「「えっ?」」」
わけがわからなそうなシーハンさんと御両親。
「おそらくフェイさんは御当家の事情を知っていて、自然に断る理由を作れるようにあたしを放り込んだんだと思う」
「フェイ族長は私どものことを考えて……」
何か感動してるけど、悪いやつの思考だぞ?
「フェイさんも黄の民をまとめるために、言えることと言えないことがあるじゃん? 一応内緒にしといてね、これ」
「ではフェイ族長の本命というのは?」
「インウェンだよ」
こら、インウェン驚くな。
ここからはあたし好みの味付けだ。
「聞いてるかもしれないけど、族長家内部が二つの派閥に割れてるんだ。御当家のシーハンさんを推す派と眼帯君の妹さんを推す派ね。正直自分で何でも物事を進められるフェイさんには、インウェンのような補佐官タイプの女性が合ってるんだけど、それを口に出すと家格の問題で両派から反対を食らってしまうの。族長家自体が分裂しちゃう」
状況的にある程度のことはわかっていたのだろう、頷く三人。
あ、弟さん寝ちゃったな。
「で、あたしの名前を出して、伝統に反するぞー認められんぞーって親族連をヒートアップさせとくという」
「ははあ」
「思ったより親族連の頭に血が上ったから、面白くなったんじゃないかな? あたしを働かせてうまいこと縁談を潰してくれと」
シーハンさんが聞いてくる。
「それはフェイさんがお話になったんですの?」
「いや、フェイさんも何か言うと影響出ちゃう立場だから何も。でも要するにあたしを悪者にして事を納める腹に間違いないから、シーハンさんもあたしをダシに断れば角が立たないよ」
「ユーラシアさんに悪いでしょう?」
「いいのいいの。所詮あたしは他所の人間だから、痛くもかゆくもないし」
あたしはフェイさんの暗黙の了解の下動いているのだ。
黄の民族長家のモブどもがギャアギャア騒ごうと、マジで何とも思わん。
「代わりにインウェン嫁の話が出たら賛成してやってよ」
「「「わかりました」」」
◇
「よーし、こっちは片付いたなー」
「ユーラシアさん……」
眼帯男の家へ急ぐ。
一つ縁談を潰して、有力一家をフェイさんとインウェンの味方にできた。
大成功と言っていい。
「でもフェイさんがあたしに暴れろって言うのは、やっぱ何か理由があるみたいだねえ」
暴れろとは言ってなかったか。
察するにシーハンさんとの縁談は潰しても構わないとゆーニュアンスを感じ取った。
おそらく次のもムリがある話なのだろう。
「ユーラシアさんは、どうして私の味方をしてくれるんですか?」
「インウェンが可愛いからだよ」
「えゅ?」
言葉遣いおかしくなってやがる。
インウェン可愛いよインウェン。
「とゆーかインウェン嫁が一番丸く収まるんだよ。ビルカも言ってたでしょ? 灰の民のサイナス族長も、フェイさんにはインウェンがお似合いだろうって言ってるの。あたしだけの意見じゃないんだよ。自信持ちなさい」
「……はい」
「フェイさん、あたしの裁量で動いていいって言ってたしなー。面白くなるようにするんだ」
「えっ? ちょっとユーラシアさん!」
うちの子達はどうせ、またあたしがやりたいようにやるぞーって思ってるんだろうが、まあその通りだ。
ジスイズマイエンターテインメント。
「大きい家が見えてきたね。あれかな?」
「はい」
黄の民の家は皆デカいけど、眼帯男の家は族長宅くらいの大きさがあるんじゃないかな。
「眼帯君の妹の名前は?」
「イーチィです」
誰か出てきた。
あの巨体は……。




