第653話:黄の民の村へ乗り込め!
――――――――――一三五日目。
「ね? かなり育ってるよ」
「本当ですねえ」
湧き水のところに植えた魔境クレソンのことだ。
冬なのに生育する性質は、葉を食用にする植物としてかなりありがたい。
「あたしの名前ついた村に植えたやつ、どうなってるかなあ? あそこ水が温かいから、もっと育つの早いかもしれない」
「はい。適当に洞窟コウモリの糞が溶けているので、肥料分も豊富だと思うんですよ。かなりクレソンの生育に適していると思います」
「なるほど? 肥料分豊富で温かい水って使えるな。あ、でもあそこ街道から外れると斜面だったわ。果樹なら育てられそう?」
「姐御はこういうの熱心でやすねえ」
「言うまでもないね。食は全ての基本だから」
「「「……」」」
「こら、食い意地が張ってるなんて褒めなくていいんだよ?」
わかるからな?
あたしはカンがいいから。
「褒めてないね」
「またまたダンテは照れちゃって」
笑いながら道を進む。
今日は灰の民の村を経由せず、若干遠回りになるが直接緩衝地帯に行こうとしている。
あたしん家と灰の民の村の真ん中辺りを横切る、移民が来ると掃討戦跡地まで行くために通ることになる道だ。
掃討戦後に即席に作られた通路だが、今のところほとんど誰も通らないので荒れ放題なのだ。
「ワイドでフラットね」
「ええ、人さえ通るようになれば、踏み固められて道らしくなると思います」
でも移民が来たら転移石碑で飛んでもらい、クー川近くに住んでもらうことになるだろう。
水路が完成するのは、クー川沿いの方が早いはずだから。
となると当面この道は使われなくて、いよいよボロボロになっちゃうか?
あたし達もほぼ通らない道だし、春以降は草木が生えるしなー。
ま、今心配しても仕方ないことか。
ぐるっと回って緩衝地帯へ着く。
「おーい、フェイさーん! おっはよー」
「よく来た。精霊使いユーラシアよ」
黄の民の新族長、モヒカン頭の大男に挨拶する。
……雰囲気が若干ピリピリしてるな。
フェイさんがあたしを嫁に考えていると言ったこと、黄の民の多くが知るところとなっているようだ。
当たり障りのないところから入るか。
「この前の札取りゲーム木札の注文に来たよ」
「ふむ、どっちだ?」
大きさ違いで二種類の試作品を作ってもらっていたのだ。
「間伐材を使った小さい方を六〇〇セットで」
「六〇〇か。一セット当たり九ゴールド、箱付きなら一〇ゴールドでどうだ?」
あ、箱付きの方がしまいやすくていいわ。
とゆーか最初からフェイさんもそのつもりでいたみたい。
真剣に考えてくれているようだ。
これヒットすれば黄の民も儲かるしな。
「じゃ、箱付きで。六〇〇〇ゴールド払っとくね」
「すぐ生産に取りかかろう。納期はあるか?」
「印刷の版に時間かかりそうだから、急ぎじゃないよ。逆にムリなく作るならどれだけかかるかな?」
「一〇日だな。印刷を早く始められるようなら、半量三〇〇セット分を五日後に引き渡そう」
「ありがとう、お願いしまーす。この前のやつの大きさとかわかるかな?」
「大丈夫だ。どうせ注文が来るだろうと思っていたのでな。大きさ・分量は控えてある」
フェイさんがニヤッと笑う。
さて、注文は終わった。
ぶっ込む頃合いだろう。
「で、フェイさんの方の用件だな。今日あたしは何したらいいのかな?」
あたしの問いには答えず、うちの子達を見るフェイさん。
「フルメンバーで来てくれたのだな」
「押し出しが利きそうだからね」
「まさしく。インウェンに黄の民の村の中を案内させよう」
思った通りインウェンが案内役か。
つまり今日これからあたしのやることをインウェンはよく理解してろ、っていうフェイさんの意図だから……。
「ユーラシアはどこまで話を把握している?」
「何かフェイさんがあたしを嫁にするらしいと聞いた」
「ハハハ、その通りだ。俺が認めた女としての本領を見せつけてくれ」
「おお、格好いいセリフだね」
……ははーん、聞き耳を立てている黄の民達に、考えを知らせたくないんだな?
どうやら思ったより親族の両派閥が強硬で、綱引きが苛烈なんだろう。
嫁候補とされている二人の令嬢のどちらかを選んでも、問題が残るということかもしれないな。
となるとおそらくフェイさんの心中を察している者はいない。
インウェンからの情報で、あたしがどう判断し動くかに賭けているってことか。
任せろ、あたし好みのエンディングにしたる。
「じゃ、行ってくる」
「おう、任せた。インウェン、頼むぞ」
「は、はい」
インウェン、不安な顔しなくていいんだぞ?
あたしはインウェン推しだからね。
黄の民の村内部へ。
◇
「なるほど。植林もしてるんだ」
「はい。木を切り出すと当然減るので、資源として考えた時、再生産を計るのは当然だろうとのことです」
「やるなあ。確かに必要なことだわ。黄の民偉い」
「フェイ様のアイデアですよ」
「やっぱフェイさんは大したもんだなー。発展して規模が大きくなることを考えなきゃ、今まで通りでいいんだもんねえ」
道々インウェンと話しながら行く。
「ユーラシアさんから見て、気付くことはありますか?」
「木の切れ端とか木くずとかをどう利用できるかが問題だねえ」
「現状、燃やすか埋めるかしか方法がないんですが……」
「最近よく緑の民の村行く機会があるんだけどさ。細かい木くずは紙にできるかもしれないとは思ったな」
「紙ですか?」
「うん。紙の需要自体が小さいから、今はあんまり意味がないけどね。将来的には考えた方がいいと思うよ」
インウェンが感心してるけど。
「あとはあれ、黄の民の小さい子は、小さい木の切れ端を積んだり組んだりして遊んでるじゃん? メッチャ楽しそうだね。大きさ揃えて積みやすくしたらさ、玩具として売れるんじゃないかな」
「あんなものがですか?」
「例えばレイノスだと、木の切れ端なんか手に入りづらいでしょ? ウケると思うんだ」
「なるほど……」
「一見価値がなさそうと思っちゃうものでも、手に入らない場所なら売れちゃうぞ? きっと」
黄の民が作るなら、角や縁を丸くして安全度高くしてくれるだろう。
何げにポイント高い。
いろんな形のを組み合わせてセット売りしといて、車輪パーツを別売りするとかしたら、欲しがる子供は多いんじゃないかな。




