第651話:散々惚気るラルフ君
「このお面は何だろ?」
お宝の中でもちょっと気になっているブツなのだ。
何の変哲もないものなのにあたしが気になるってことは、割と重要なんじゃないかって気がする。
「……帝国のものじゃねえな。マジックアイテムでもないが、えらく大切にされていた形跡がある。おそらくどこかの部族が信仰の対象にしてたんじゃねえか?」
「ふーん? 困ったものが手に入ったね」
「楽しみの種だぜ」
どこでどう役立つものだか見当がつかないな。
今後のクエストでだろうか?
イシュトバーンさんが楽しみの種と見ているし、要注意のアイテムだな。
イシュトバーンさんはニヤニヤしてる。
いくらあたしが笑いの神に贔屓されてるからって、面白いことばっかり量産できるもんじゃないぞ?
「宝物については片付いたな。ヨハンと緑の民と交易の方はどうなんだ?」
「じゃあまずあたしから。ラルフ君は固有能力『威厳』持ちだからさ。自然にラルフ君を緑の民長老ズに会わせる展開にできれば決着だなとは、前々から思ってはいたの」
「何でとっとと終えなかったか当ててやろうか? クライマックスが地味で見栄えがしねえからだろ?」
ズバッと真実を突くなよ。
あたしの行動原理はわかりやすいのかなあ?
ヨハンさんもいるんだから、もうちょっと大人しく喋っておくれよ。
「タイミングが悪かったんだよ。対帝国戦の結末が見えてなかったこともあるし」
「まあそういうことでもいいが」
ニヤニヤすんな。
やりにくいなあ。
「で、今回ラルフ君を連れていっていいかって話を、緑の民オイゲン族長と長老ズに振ったんだ。オイゲンさんに話したのが四日前、長老ズに話したのが三日前」
「状況の膠着に飽きたのか、あんたの利益とバッティングしたのか、どっちだ?」
「両方だよ! もーうるさいなあ。黙っててよ!」
「黙ってるぬ!」
大笑い。
ヴィルの芸も磨かれてきたなあ。
間が最高だ。
「オイゲン族長と長老ズも乗り気で、ぜひラルフ君連れてきてくれってことになったんだ。ヨハンさんのことはえっらい拒否してるのに、ラルフ君を歓迎する理由がわかんなかったのは不気味だったんだけど……続きはラルフ君どーぞ」
「えっ!」
しどろもどろすんな。
今日の主役はラルフ君だぞニヤニヤ。
「あの、ヒルデさんという方が大変可愛らしい方で……」
そんなことは聞いてねえ。
でも面白いから続けて?
「長い睫毛といい肌の白さといい、自分の好みでして、あ、声もとても綺麗なんです」
ふむふむニヤニヤ。
確かにヒルデちゃんはあの三人の中で一番可愛かった。
「ちなみにヒルデちゃんはあたしよりちょっと年下だと思う」
「また来てくださいと言われたので、師匠の助言通り『遊歩』のカードを注文してきました」
ありがとう。
でももういいや。
「ハハッ。まあ精霊使いから大体の話は聞いてる。緑の民は鮮やかな緑の髪色が、一種のカリスマ性を発揮するということなんだな? 族長候補である三人の娘は、典型的な緑髪を持たないと」
「そ、そういうことです」
散々惚気てたことに気付いたらしい。
今更赤くなったって遅いってばよ。
緑髪と赤顔の対比は目に悪いしな。
「ヨハンはどう思ってるんだ?」
「はい。結構な話だと考えております」
うむ、ラルフ君を取られてしまうという話ではない。
貸しを押しつけて決着って、あたしの一番好きなやつ。
ヨハンさんにとって長年の懸念であった緑の民族長家との確執を、最良の方法で解消できるということだ。
今後移民でアルハーン平原の人口が増えることを考えると、絶好のタイミングでカラーズとのパイプが太くなったという言い方もできる。
「ヨハンよ。大方、精霊使いをラルフの嫁にって考えてたんだろう?」
「おわかりになりますか?」
「あたしも残念だけど、ヒルデちゃんはいい子だよ」
「お、残念なのかよ? オレんとこへ嫁に来るのはどうだ?」
「年齢考えろ、色ボケジジイが。どこかに捨ててくるぞ?」
大笑い。
「ヨハン、精霊使いに縁談があるって話は知ってるか?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
皆驚いてるけど。
「いや、違くて。自分の縁談を壊したくて、あたしに振ってきてるんだよ」
「どういうことです?」
黄の民族長家の事情について説明する。
「ははあ、あのフェイ殿ですか。現在は族長となりましたか。ひとかどの人物と見ましたが」
「カラーズで一番できる男だねえ。かつ一番悪いやつ」
「精霊使いを除けばな。自分の窮地さえ楽しめる、余裕のあるやつだと見たぜ」
「あたしの裁量で動いていいって言ってたから、好みのオチをつけるんだ」
「終わったら話聞かせろよ」
「明日か明後日には大団円だと思うんだよなー。毎日ごちそーになってると、舌が贅沢になっちゃうんだけど?」
アハハと笑い合う。
「これねえ、緑の民の版画なんだ」
イシュトバーンさんのクララの絵を元にした版画を、皆に見せる。
「ほう、いいじゃねえか。紙もいい」
「でしょ?」
「これは?」
ヨハンさんが聞いてくる。
「イシュトバーンさんの描いた女性画の画集を出版したいんだよ。低価格ならば爆発的に売れると思うの」
「なるほど! 出版に強いヘリオス・トニックという商人がおります。紹介いたしましょう」
「精霊使いはヘリオス知ってるぜ?」
「ヘリオスさんの息子も冒険者なんだ。その関係で知ってるんだけど、ヨハンさんに話通してもらった方がいいなあ」
イシュトバーンさんがえっちな目を向けてくる。
この画集は間違いなく売れる。
ドーラの独自コンテンツとして帝国にも輸出するつもりなので、ヨハンさんにもヘリオスさんにも関わってもらいたい。
輸出は今後のドーラ発展の生命線になるから、貿易の視点を持った商人が多くなって欲しいのだ。
「ギルドのおっぱいさんにオーケーもらったら、いよいよ企画スタートするね」
「おう、楽しみにしてるぜ」
「おっぱいさんというと、依頼受付所のサクラさんですか?」
「うん。おっぱいさんなしの画集じゃ片手落ちだよねえ?」
大いに頷くラルフ君パーティーの様子を見て、イシュトバーンさんの期待感が高まってるみたい。
「本当に楽しみだぜ!」
「あたしがオーケーもらっても、イシュトバーンさんの視線セクハラで断られるかもしれないぞ?」
「勘弁だぜ!」
笑い声の中解散、転移の玉を起動し帰宅する。




