第649話:宝箱、ああ宝箱、宝箱
フイィィーンシュパパパッ。
「宝箱、ああ宝箱、宝箱!」
「姐御。その感想はいくら何でもお粗末過ぎやしやせんか?」
「人は真の感動を表現する術を持たないんだよ。なーんちゃって」
本日最大のテーマであった、緑の民長老連にラルフ君を合わせるところまでは無事に達成。
どうやら長老連の孫娘の一人ヒルデちゃんとラルフ君が結ばれることになりそう。
思ったより愉快な決着になりそうなので、あたしとしては大満足だニヤニヤ。
そして今日もまた日課のザクザク宝箱クエストに来た。
が?
「……あれ、変だな?」
「ワッツ?」
「見てごらんよ。床の斜めストライプにどことなく覇気がないでしょ?」
「……わかりません」
この宝箱部屋は、初めて見た時無機質な感じがすると思ったものだ。
ところが今日は焦り気味というか諦めというか、荒んだ雰囲気を感じる。
これは主催者の心情を表してるんじゃないかな?
本当に微細な感覚なので、クララだけじゃなく、うちの子達皆わからないみたいだが。
「どうしたんだろうな? 部屋がこんな調子だとあたしも心配だよ」
「ええと、要するに宝箱の中身が心配なんですよね?」
「直訳してくれなくていいけれども」
笑い。
ぶっちゃけくれるものをくれるのなら、少々雰囲気なんか悪くてもいい。
でも何か可哀そうだな。
あたしは慈悲深いので、つい気になってしまう。
「ガンガンすればいいね! メイビーハッピーね!」
「ダンテいいこと言った! その通りだ!」
銅鑼の前に立つ。
何故この銅鑼は叩かれたい願望を剥き出しにするのか。
「いくぞお!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
うん、今日もいい音だ。
素晴らしい。
「姐御、宝箱開けやしょうぜ」
「アトムの言う通りだな。飽きないいい音だから、もう一度ガンガンしようかと思ったけど、楽しみを残しとく手もあったわ」
「今楽しんでさらにあとで楽しむ手もありますよ」
「これが天才の発想か」
再びガンガンしてしまった、アハハ。
さて、今日は四個ずつ三列に宝箱が並んでおり、合わせて一二個だ。
「ユー様、立札の裏面の注意書きに追加があります」
「何て書いてあるかな?」
注:お宝が入っている宝箱に罠はありません。
注二:銅鑼を鳴らさないでください。
注三:鳴らした場合、ハズレ宝箱での罰則が強化されます。
注四:鳴らした場合、ハズレ宝箱での罰則が本当にひどいことになります!
注五:もういいです。
「ははあ、諦めたから元気がないのか」
「宝箱の中身さえ元気があればいいんでやしょう?」
「だから直訳しなくていいってば」
思えば昨日は鳴らし過ぎだったかもしれない。
「今日は宝箱開けるたびにガンガンはやめておこうかな」
「「「ええっ!」」」
驚くなよ。
あんた達はあたしを何だと思ってるんだ。
寛容と節制の美少女精霊使いだぞ?
こんな事初めて考えたけれども。
「ラルフ君イベントでラブい空気を一杯吸ってきたから、満ち足りた感じがするんだ」
「ボスがラビングメイデンなことセイしてるね」
まあ今は宝箱の中身が気になる。
「じゃあ開けちゃって! ジャンケンで負けた人が三個、勝った二人が四個ね」
「トゥデイはどれがヒットね?」
「前列右隅が大ヒットだよ。フリじゃないから開けんなよ?」
今日はアトムが負けか。
でも昨日勝ったからいいよね。
「よーし、開けちゃってください!」
「いきます! 絵です! 人物画……おそらく宗教画だと思われます!」
「鎧だぜ! 完全に全身を覆うやつ!」
「キャッシュ! 五〇〇〇ゴールドね!」
「レア素材です! 『逆鱗』!」
「薬草! 凄草以外のステータスアップ薬草一揃い!」
「ベルね! マジックアイテム!」
「お面です!」
「絵だぜ! 踊り子の絵!」
「ピクチャーね! ミニアチュアなものね!」
「クララとダンテはもう一個ずつだね。開き終わったら最後にアトムがガンガンして!」
「「「了解!」」」
「お金です! 五〇〇〇ゴールド!」
「ドッグの像ね! あっ、コクヨーセキに彫ってあるね!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「しゅ~りょ~! 宝箱よ、今日もありがとう!」
宝箱じゃなくて主催者に感謝すべきだったか?
感謝の言葉で元気出してくれるといいが。
「さて、お宝をチェックしよう」
また絵が三枚か。
どんどん溜まっていくなあ。
イシュトバーンさんのところに持っていくからいいけれども。
「現金は確実にありがとう、と。『逆鱗』はあんまりお宝って感じがしないなあ」
「ミー達だからね」
「一般的には手に入りづらい素材でやすぜ?」
「まあね。このお面は何なの? 妙な迫力を感じるような感じないような」
四角い木製のお面だ。
何となく造形が鳥を思わせる。
「魔法のアイテムではありませんね。美術品の一種じゃないでしょうか?」
どうってことないものにしては気になるな?
まあいい、問題はこの鐘だ。
片手で持てるくらいの所謂ハンドベルで、意匠は何てことないんだが。
「これはまた、えらく禍々しい感じがするね。見るからに怪しいマジックアイテムだわ」
「何でやすかね?」
「ベルは鳴らすものね」
「よし、鳴らしてみよう。一応注意しててね」
「「「了解!」」」
鐘を大きく振って鳴らす。
割と重いな。
クワーンクワーンという乾いた悲しげな音がして……。
「魔物です! ワイバーン!」
魔物を呼び寄せる召喚系のアイテムかっ!
だけどまあワイバーン程度ならどうってことないか。
天井高くてよかったわ。
ドラゴンだったら部屋壊れてたぞ?
かるーく倒してと、あ、卵落とした。
ラッキー、いいお土産ができた。
イシュトバーンさん家に持っていこ。
「……ベルのストレンジセンスが消えたね」
「本当だ。一回だけ魔物を呼び出せる鐘みたいだね」
「姐御、これ柄の部分が『ファントマイト』製でやすぜ?」
「道理で重いと思ったわ。……とゆーことは、周りから魔力を集めて鳴らすと、またワイバーンを呼び出せる?」
うちの子達が頷く。
事故の起きやすい面倒なアイテムだな。
「ま、いいや。鳴らないように布巻いて置けばいい」
「そうですね」
「帰る前にガンガン鳴らしてく人!」
「「「はい!」」」
考えてみれば、部屋に気を使って遠慮するなんて、まったくもってあたしらしくなかったわ。
ガンガンしちゃお。
皆で銅鑼を満足するまで鳴らし、転移の玉を起動し帰宅した。




