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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第647話:『威厳』効き過ぎじゃね?

「ささ、こちらへ」

「失礼します」


 緑の民族長宅、いつもの広い部屋に通される。


「おお、君がラルフ君か!」

「素晴らしい!」

「さすがにヨハンの息子だけはある!」


 オイゲンさんと長老ズが手放しの褒めようだ。

 食いつきがいいというより、前のめり過ぎだろ。

 ラルフ君本人も引いてるだろうが。

 大体何でヨハンさんの息子であることが評価されてるのよ?

 ヨハンさんは緑の民族長家にとって要警戒人物じゃなかったの?


 サイナスさんとこっそり話す。


「どゆこと?」

「知らんよ」


 まるでわけがわからん。

 どうしてこんなことになってる?


「えーと、そろそろ説明をしていただけると嬉しいんだけど?」

「ああ、うむ」


 あたしのこと見ちゃいねえ。

 直球でぶっ込め!


「そもそもヨハンさんは緑の民にとって忌むべき存在じゃなかったの? 息子のラルフ君が歓迎されるのはどーして?」

「見てもらった方が早いの。ヒルデ、カミラ、ハイジ、出ておいで!」


 三人の女の子が出てくる。


「わしらの孫じゃ。オイゲンに子がない以上、この三人の内誰かが族長家を継ぐことになるのだが」

「うん」


 先代族長を争った長男家の子は、確か娘という話だった。

 緑の民は女の子だから跡継ぎになれないってことはないはずだが?


「髪色がの……」

「髪色?」


 言われてみれば三人ともグレーから薄青系だ。

 で、髪色が何?


「緑の民は文字通り緑を尊ぶ。こういう髪色で民をまとめられるとは思えぬのじゃ」

「ははあ?」


 そんなわけあるか。

 能力主義どこ行ったって言うのは簡単だけど、緩衝地帯にいた緑のショップ店員の反応見ると納得はできる。

 あれはラルフ君の鮮やかな髪色に注目していたのか。

 以前マルーさんが、緑の民は族長の方を向くものだって言っていた。

 族長家に特有の髪色に惹きつけられるという側面もあったようだ。


「ラルフ君。君がこの三人の内の誰かの婿に入ってくれれば、その後見で緑の民を治めることができるのだ。い、いや君が族長でもよい。娶ってやってくれんか?」


 『威厳』効き過ぎじゃね?

 族長でもいいなんて話になったぞ?

 どーなってんだ?


「いいんじゃない? ヒルデちゃんをもらってあげなよ」

「し、師匠!」


 ラルフ君がチラチラ一番可愛いヒルデちゃん見てたのに気付かないほど、あたしのラブセンサーの感度は低くない。

 ハハッ、ラルフ君は面食いだな。

 ヒルデちゃんもラルフ君の『威厳』と髪色に当てられてポーッとしてるし、何の問題もない。


「でも自分は、緑の民のことは何も知りませんが……」

「だよね。長老さん達いいかな? ラルフ君は商売人ヨハンさんの跡取りだよ。レイノス東の流通を一手に担っている重要な一家だから、ラルフ君が緑の民の族長になることはできない」


 暗にヨハンさんが族長になることもないという意味を含ませたった。

 通じるかな?


「でもヒルデちゃんと結婚して、族長のお仕事を助けてあげることはできるんじゃないの? ラルフ君のレベルなら、二〇分ちょいでレイノスからここまで飛んでこられるし」

「師匠……」

「もちろんラルフ君だけの意向で決めることはできないよ。これ以上話を進めたいなら、ヨハンさんと一度話し合ってみることが必要だと思う」

「う、うむ」

「しかし……」

「……」


 まだ不安か?

 ならば……。


「ついでだから、交易の話も含めちゃえばいいんじゃないかな。ヨハンさんが緑の民族長家に関わらないことを誓約させた上で」

「誓約?」

「ヨハンさんは真面目な人だよ? ラルフ君の父親だもん」

「う、うむ」


 よーし、長老ズが頷いているぞ。

 オイゲンさん小さくガッツポーズしてるし。


「じゃあ、あたし達はヨハンさんの都合聞いてくるね」

「あっ? ちょっと待って! 昼餉を召し上がっていってくだされ」

「ゴチになりまーす!」


 全て計算通りだ。


          ◇


「うん、いいねえ」


 昼御飯をごちそーになったあと、版画屋さんとこに寄っている。

 イシュトバーンさんが描いたクララの絵の版画がかなりいい感じ。

 あの溢れ出るえっちさが完璧に表現されている。

 このくらい再現できるならバッチリ合格点。

 売れちゃうわ。


「この紙は? 厚手で高級感あっていいんだけど、高くちゃ使えないよ? たっくさん売るつもりだから、量産できないようじゃやっぱり使えないんだけど」

「おう、わかってるぜ。帝国にまで売るんだろ? これ別に高級紙じゃねえんだ」


 繊維の太い植物を混ぜ込んでいるのだという。

 細かい工夫をしてる人がいるんだなあ。


「細かいところは企業秘密だが、この紙はザラつきがあるんで、今まであまり用途がなかったらしいんだ。でも画集にはピッタリだろう?」

「いい感じだね。これ紙の価格は?」

「ショップで売ってるやつと同じ、三枚一ゴールドだ」

「二〇枚くらいの絵を載せて五〇ゴールドくらいで売りたいんだよね」

「五〇ゴールド? 正気かい? 版代抜きの刷り賃だけで、一冊当たり二〇ゴールドにはなるぜ?」

「製本するといくらになるかな?」

「ノウハウがねえ。が、糊で固めて糸綴じし、表紙をつけるということなら、一〇ゴールドプラス表紙代だな」


 刷り賃二〇ゴールド、紙で七ゴールド、綴じ賃一〇ゴールド、表紙が三ゴールドで最低四〇ゴールドか。

 イシュトバーンさんへ販売価格の一割で五ゴールドだから、輸送費考えると良くてトントン下手すりゃ赤字だな。

 版代が出ない。


「しょうがない、五〇ゴールドで売るのはムリだ。販売価格は六〇ゴールドだな。ねえ、最低一〇〇〇部注文するならさっきの条件でやってくれる?」

「一〇〇〇部以上かよ! 大口注文だな。刷り賃一枚一ゴールドは変わらねえが、綴じ賃を八ゴールドにしてやろう。表紙裏表紙で二ゴールド、どうだ?」

「よーし、とりあえずその条件で。ちょっとあたしもあちこちで了解を得なきゃいけないんだ。一〇日以内にもっと詳しい話持ってくるね」

「ハハッ、楽しみにしてるぜ」


 サイナスさんが話しかけてくる。


「どうだい? 良さげかい?」

「良さげだよ。ほら、クララの絵」

「……どうしてクララの絵がこんなエロティックになるんだ?」

「その辺がイシュトバーンさんの天才的謎技術で、売れる理由だと思うんだ」

「もう売れることに決めてるけれども」

「絶対に売れるなー」


 何故なら見たいし安いし話題になるから。

 勝利の条件が揃ってるわ。

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