第646話:謎のプリンス
「師匠はカールさんとサフランさんをくっつけようとしているのですか?」
あたしん家から灰の民の村に行く途中、ラルフ君パーティーの魔法剣士ムオリス君の遠慮のない質問だ。
今日はうちの子達はお留守番。
「とゆーわけでもないんだけど、お似合いだからね。それにサフラン側がラブでしょ? 協力してやりたいじゃん」
頷く四人。
もっともピンクマン側がラブでも協力してやりたいがニヤニヤ。
「カールさんはいわゆる幼女好きと伺いましたが」
「うん。うちのクララやヴィルにも反応するくらいの掛け値なし。でもサフランだってピンクマン好みの素質あるよ? 身長はあるけど童顔だし、あたしよりおっぱいないし」
おっぱいが話に出たくらいで赤くなるなよ。
気まずいだろうが。
湧き水が小川に流れ込んでいるところまで来た。
気まずいから話題を変えるわけじゃないけど。
「ここに生えてるのが魔境で取ってきたクレソン。冬でも成長するんだよねえ。食糧不足の助けになるかと思って期待してるんだ。試験的にあちこちで増やそうかと思ってる」
「いろんなことをしてらっしゃるんですねえ」
「ラルフ君達も協力しておくれよ。しくじるとマジで移民に餓死者が出ちゃう」
移民の食料はかなり深刻な問題なんだぞ?
掃討戦跡地でも、水路さえ通ったらクレソンを移植しまくらなくては。
「ユーラシアペナルティの件ですけど」
「話が飛んだね。その名前定着してるの? 嫌だなあ」
犯罪者に対する、魔法の葉青汁を飲ませる刑罰のことだ。
誰だ、あたしに断りもなくおかしな名前をつけたのは。
「刑を執行された者に嘔吐者失神者が続出。見かけの緩さと実際の残虐さにあまりにもギャップがあるということで、問題になっていると聞いたのですが」
「あちゃー」
もう導入されてるんだな。
ただの冗談がえらいことに。
しかしこうかはばつぐんだ!
「じゃあ新聞に協力してもらうといいよ。どれだけ極悪非道な罰か、読んだ人が震え上がるくらいの記事を書いてくれるとバッチリだな。表現が甘かったら、実際に記者さんにも少し飲んでもらえばいい」
「えっ? 廃止とかではなくてですか?」
何でこんなにエンターテインメント性に溢れた刑罰を廃止するんだよ。
とゆーかあたしの名前つけといて廃止するとか、どんな了見だ。
「悪人に反省を促すほど厳しくてすぐに施行できて肉体的後遺症を残さなくて見物人が笑える安価な刑罰を他に用意できれば廃止でもいいけど」
「最後の見物人が笑える刑罰というのは何なんですか!」
「犯罪は人々の顔を曇らせるからだよ。刑罰の時に借りを返してくれないとフェアじゃないじゃん」
「師匠の取立てはハード過ぎる!」
笑いながら灰の民の村へ到着。
「こんにちはー。お肉お土産だよ」
「やあ、いらっしゃい。お土産ありがとう」
「灰の民の族長サイナスさんだよ。こちらは順にラルフ君、ゴール君、ムオリス君、ウスマン君ね」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「こちらこそよろしく」
あ、来た来た。
グッドタイミングだ。
アレクとケスとハヤテだ。
「皆さん、こんにちは。ユー姉。これ」
「ん、ありがと」
札取りゲームを受け取る。
どらどら?
うん、絵も字も綺麗に出てる。
「えーと、あんた達はラルフ君と面識あるんだっけ?」
「輸送隊の方で会ってるから。ハヤテだけは初対面だよ」
「そっちの羽の生えた精霊がハヤテ。アレク、ケスと一緒に識字率向上のためのゲームを作ってるの。これが完成版に近い試作品なんだ」
「へえ?」
興味を持つラルフ君パーティー。
「こちらが絵札で……」
「なるほど、絵が何なのか理解できれば、対応する文字も……」
「おいおい、そろそろ行くよ」
「いいよ。どうせラルフ君が顔を見せれば、すぐ決着つくからね。少し待たせておこう。お昼に近くなれば御飯も食べさせてくれるだろうし」
「ユーラシアは本当にずうずうしい!」
失礼だな。
食事の確保は重要だとゆーのに。
アレク達三人がルールを説明し終わった頃。
「これは面白いですね」
「白の民の子供達に遊んでもらったテストプレイでも評判良かったんだ」
「ははあ、既に実験済みなんですね」
「まあね。ただこれも並べといて売れるものじゃないから、仕掛けがいるんだ。今日、ヨハンさんに会わせてよ。緑の民の経過報告兼ねて売り込みに行くから」
「わかりました」
「出発するよー」
サイナスさんとあたし、ラルフ君パーティーの総勢六人で出撃。
◇
「アレク達は連れてきても良かったんじゃないか?」
金属板の進捗がどうかってのもあるんだが。
「確かになー。でもいいよ。今日はラルフ君の存在感を高めたいんだよね」
「ヨハン氏と緑の民族長家の仲裁、加えて緑の民の交易開始の重要性が高いということか」
「まあねえ。あんまり大量の昼御飯を用意させちゃっても悪いし」
「完全に昼御飯を御馳走になるモードだな」
アハハ、ごちそーになるモードだよ。
皆で緩衝地帯に出る。
緑のショップも出てるね。
「こんにちはー。商売はどう?」
「ボチボチだな。ん?」
緑の民の視線がラルフ君に釘付けになる。
えっ? 何だ何だ?
「お、おい、精霊使いよ。そこのボンは誰だ?」
緑髪が目立つからかな?
緑の民っぽい髪色なのに、知らん顔だもんな。
まだ正体を明かすのは良くなさそうだから……。
「謎のプリンスだよ」
こら笑うな。
あれ? でも緑の民達は真剣ですね?
「そ、そうか。いずれ紹介してくれよ」
「うん」
「あんた達はこれから緑の民の村へ?」
「謎のプリンスとオイゲン族長の御対面なの」
すげえ興味ありそうですね。
「じゃねー」
「またな」
緑の民の村へ。
大木の門が見えてくる。
「緑の民の村の門も好きだなー。大いなる自然って感じがする」
「こういう門なら、立派で金もかからないだろう」
「おゼゼの話か。サイナスさんは夢がないなー」
「ユーラシアが言いそうなことを代弁してるだけだぞ?」
笑いながら族長宅へ。
……ショップの店員の反応からして、やはりラルフ君の注目度は高い。
見慣れぬ同族で、しかもイケメンだから当然といえば当然か。
しかし?
「こんにちはー」
「はいよ、おお、これは何と見事な若者!」
迎えに出た長老ズの一人の食いつきのいいこと。
お土産のお肉渡す暇も、『精霊使いユーラシアとその他五名です』って言う暇すらなかったぞ?




