第644話:画集をスタートできそう
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「眠いよ」
『寝なよ』
そーゆーダイレクトな答えを期待したわけじゃないんだけど。
サイナスさんが笑う、が?
「何かあったの?」
『どうしてわかった?』
「『寝なよ』のテンポが良過ぎた。被せ気味だったじゃん。サイナスさんにしては珍しいことだから、興奮するようなことがあったのかなーと思って」
『ユーラシアは異常に鋭いなあ』
あたしのエンターテインメントに関する感覚は敏感だと思うよ。
言ってみなさい、ほれほれ。
『ちょっと大変だったんだ。この前水を引くのに北の方まで魔物を駆逐した地区があっただろう?』
「クー川沿いのところね」
あたしも手伝って魔物退治したところだ。
魔物は素敵なアイテム落としていくし、焼き肉はおいしかったし、素晴らしい一日だったが?
『大柵が一部破られてな、魔物が侵入してきたんだ』
「えっ? 大丈夫だった?」
『非番の輸送隊メンバーに緊急招集がかかって、フェイ族長指揮下に現地に急行して事なきを得た。アレクとケスも駆り出されていったぞ。柵の一部に魔物除けをつけ忘れたところがあったらしい』
「確認するけど、大型魔物とか召喚とかは関係ないんだよね?」
『関係ない。人為的なミスだ』
「大事にならなくてよかったねえ」
『まったくだ。しかし移民が来る地区でもある。高レベル者は必須と感じたな』
独立戦争が終わって、高レベル者の必要性は減ったと思ってたんだけどなー。
油断はいけないわ。
ドーラは魔物が多い国だから、常に危険性は認識していないと。
「帝国からの移民は、魔物との戦闘経験なんかない人達じゃん? ある程度自衛できる対策は必要かもね」
『例えば?』
「各家に聖火教徒の聖水を一ビンは備えておくとか」
今聖火教徒との関係はいい。
繋がりを強化するために聖水を購入するのはありだと思う。
『……ユーラシアにしてはまともな提案だったな。将来はそうあるべきかもしれない。でも最初はカツカツだ。聖水に払う金も惜しいだろう』
うーん、まあ仕方ない。
となるとやはり高レベル者の育成が先か。
「今度緑の民が交易に参加することになると、当然緑の民からも輸送隊メンバーが選ばれるじゃん? レベル上げしといた方がいいね」
『もちろんだ。頼めるか?』
「うん、任された。最近あんまり魔境行かなくなっちゃったからさ。行ける用事ができるのは嬉しいな」
『君の嬉しがるポイントがわからない』
「簡単でしょ。あたしを褒め称えろ、おゼゼを貢げ!」
『要求がダイレクト過ぎてひどい』
アハハと笑い合う。
「アレクとケスは実戦初めてかな? この前出番あったんだっけ?」
『この前が初めてだな。突進熊の首を風魔法で刎ねると、毛皮を丸々使えると気付いたのはアレクだ』
「調理班の仕事を増やして泣かせた犯人が、まさかアレクだったとは。なかなかやるじゃないか。優秀な弟分で嬉しい」
『君の嬉しがるポイントは本当にわからない』
いや、もちろん冗談なんだけど。
『ユーラシアの方は何かあったのか?』
「特に変わったことはなかったかな。マルーさんの孫娘連れてレイノス行ったくらい」
『ほう?』
「イシュトバーンさんが昼御飯御馳走してくれるって言うから寄ってきた」
『どうしてそこでイシュトバーン氏が関係してくる?』
うむ、これは説明せねばわかるまい。
「あたしんとこにあるレイノス行きの転送魔法陣って、イシュトバーンさんの家に繋がるやつなんだよ。で、あたしが行ったら、用がなくても飯食わせてやるから引き止めておけってことになってるみたい」
『完全に餌付けされてるじゃないか』
「だってごちそーには勝てないんだもん。サイナスさんだって昼飯食わせてやるから、面白い話しろって言われたらするでしょ?」
『面白い話とバーターなのか? ハードルが高いなあ』
あれ? サイナスさんの感想はそーなのか。
あたしは日々エンターテインメントなので、面白い話のネタが尽きることはないんだよな。
今日はニルエを連れてたからしょうがないが、うちの子達も連れてってごちそーになればよかったと後悔してるだけだ。
……イシュトバーンさんが待ち構えてるとわかったから、次からはなるべくうちの子達も同伴にするか。
「前話したイシュトバーンさんの画集だけどさ」
『お、イシュトバーン氏の了承が取れたのかい?』
「イシュトバーンさんには前からオーケーもらってたから大丈夫」
『君、そんなこと言ってなかったじゃないか』
「当たり前過ぎて言うの忘れてたかも。こんな美女美少女大集合な企画に、イシュトバーンさんが乗ってこないなんて考えられないからなー」
問題はモデル調達の方なのだ。
「モデルも六、七人に声かけてオーケーもらってるんだ。今日のニルエも含めて」
『ほう、いよいよ実現しそうなのか?』
「明日試しに刷ってもらってる版画の出来が良かったらスタートしたいね。残りの難関はただ一つだよ」
『何だ? コストか?』
コストは最悪販売価格を引き上げればすむことだ。
「いや、モデルの方で。ギルドの職員におっぱいさんって人がいるんだけど」
『一言でどんな女性かわかるけれども、情報量それだけだからな?』
「うちのヴィルがおっぱいさんに初めて会った時に『すごいぬ!』って言ってた。その後は『すごいお姉さん』って呼んでる人だけれども」
『つまりおっぱいさんの協力を得られないと、企画自体の魅力が減じると?』
この企画におけるおっぱいさんの重要性をよく理解しているなー。
「とゆーかボツだな。おっぱいさんナシの美人画集は考えられない」
『それほどか?』
それほどなんだな。
『画集の期待度は高い』
「新産業だもんねえ」
『ユーラシアの説得力に期待する』
「おっぱいさんは色々無敵だから、説得は難しいんだぞ?」
流れるように参加してもらえるようにしないと。
『とりあえずは明日、ということか』
「目の前のことから片付けないとね。朝ラルフ君パーティーを迎えに行って、カラーズへ行くよ」
緑の民長老ズとラルフ君の顔合わせだ。
ついでにクララがモデルの版画をもらってくると。
「サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は朝からギルドだな。




