第64話:誰も寝てはならぬ&寝てる人
――――――――――二〇日目。
家の仕事を終えてギルドに行く。
勤労少女に御褒美とかないかしらん?
ギルドに行くのは何だかんだで昨日、アイテムを換金し損なったから。
単に忘れてたとゆーか、タイミングが悪かったのだ。
マウ爺達と連携戦闘訓練があったしな?
昨日は大変ためになった一日でした。
換金後、武器・防具屋さんに呼び止められる。
「精霊使いさん、パワーカードが入荷してますよ」
「本当? あたしの名前、ユーラシアね」
「ユーラシアさん、記憶しておきます」
五枚のカードが目の前に出された。
知ってるカードもあるけど……。
「全て一枚一五〇〇ゴールドになります。こちらの『誰も寝てはならぬ』が、アルアさんの扱わないカードです。他のカードはアルアさんのところで交換可能ですが、素材が揃わないけど今欲しいんだという場合には当店でお求めいただければと」
なるほど、アルアさんとこのシステムを知ってるんだな。
ギルドでなら買えるという選択肢も何げに嬉しいじゃないか。
急に欲しくなる時だってあるだろうしな。
初見のカード『誰も寝てはならぬ』の効果は以下の通り。
『誰も寝てはならぬ』防御力+一〇%、睡眠無効、最大HP+一〇%
防御系のカードだな。
睡眠系の技を持ってる危険な魔物には必須になるかも。
装備時に最大ヒットポイントが大きくなるという不思議な効果もユニークだ。
「クララ、アルアさんとこに睡眠無効のカードあったっけ?」
「ありましたけど、かなり交換レート表の下の方でしたよ」
交換レート表は、今のところ上の方からチェックがつく傾向にある。
じゃあしばらく手に入らないと見ていいか。
むーん?
「『誰も寝てはならぬ』もらっていきまーす。これ、もう三枚入らないかなあ?」
「御希望なら仕入れておきますよ。手付金として一割、四五〇ゴールド先払いでいただきますが、よろしいですか?」
「じゃあ合わせて一九五〇ゴールド、払ってくね」
「はい、確かに。半月以内には入荷しますので」
「お願いしまーす」
武器・防具屋さんと別れたあと、アトムがこそっと聞いてくる。
「姐御、何か閃きやしたかい?」
さっきの『誰も寝てはならぬ』のことかな?
アトムはパワーカード好きだなあ。
「状態異常の中でも、睡眠・麻痺・混乱は誰が食らってもちょっとヤバげだから、早めに無効化できるカードが欲しかったんだよね」
クララとダンテが沈黙するのもまずいんだが、『雑魚は往ね』でワンターンキルできるなら危険はない。
ならば睡眠・麻痺・混乱の脅威の方が上なのだ。
少なくともザコ相手の時はね。
加えて防御力一〇%アップと最大ヒットポイント一〇%アップも大きい。
前衛盾役のアトムや最大ヒットポイントの少ないダンテには特に恩恵がありそう。
誰が装備してもムダにならないナイスなカードと見た。
「ボス、次はどうするね?」
「スキル屋で『逆鱗』もらおうと思ったんだけど……寝てるね?」
いつも寝ている見た目一〇歳のオリジナルスキル屋ペペさん。
寝る子は育たない(笑)。
まあやることは決まってるんだが。
目一杯息吸って……。
「たのもう!」
「ふあっ?」
寝ていた見た目少女? 幼女? の大魔道士ペペさんを起こす。
「ペペさん、おっはよー」
「あっ、ユーラシアちゃん。おはよう」
「『逆鱗』もらいに来たけど、今日ある?」
「あるある! はいこれ」
レア素材『逆鱗』を手に入れた。
アルアさんの工房に持ってったら、何のパワーカードと交換できるようになるだろう。
楽しみだなあ。
「ところであれ、どうだった? 使ってみた? 経験値倍増スキル『実りある経験』」
「メッチャ使える、大活躍だよ! ありがとう! 戦闘のたびに『実りある経験』かけて経験値稼いでる」
「え? そういうルーティーンな使い方は想定してなかったかな……」
何かごにょごにょ言ってるが。
「私、あれかけてからあれ撃って、スキルのテストしてたのね?」
通訳します。
『実りある経験』かけてから『デトネートストライク』してたそうです。
魔物たくさん巻き込んで経験値ぼろ儲けだろうなあ。
ペペさんは極めてアバウトな使い方でレベルカンストしたことが判明。
そのペペさんにスキルの使い方について文句言われそうな気配。
「経験上、レア敵やボスの時のロマンかなあと思って。毎回使われるとアートでロマンでドリームじゃなくない?」
「知らんがな」
うちのパーティーでは毎回の戦闘で使うわ。
逆にボス戦で『実りある経験』使えるような余裕があるかはわからんわ。
「ってのはともかく、経験値倍増からネタ魔法してたんだったら、『実りある経験』って結構前からもあったスキルなの?」
「構想だけとか作りかけのスキルがかなりあるの。完成間近なのもいくつか。でも気分が乗らないと完成しないから……」
『デトネートストライク』のネタ魔法呼ばわりはスルーですかそうですか。
作りかけのスキルを完成させないのは気分屋のせいか?
天才特有の習性なのかもな。
以前から感じてた疑問をぶつけてみる。
「あの最強魔法だけど、一発撃って倒れちゃうんじゃテストしにくくない? 魔物いるところだと危ないでしょ」
「テスト段階ではヒットポイントまでコストにしていなかったから」
「え? そっちのが使い勝手いいんじゃない?」
「でもパワーアップの余地があったら最強魔法って呼べないでしょう? 使えるコストを全部パワーに変換してこそ、看板に偽りなき最強魔法」
看板が全てに優先するのかよ!
頭のネジがぶっ飛びそうろう!
いや、ペペさんがヤベーことは薄々感付いてたけど、まさか複数本ネジ飛んでやがるとは……。
尊敬しそうになったわ。
「でもよかった。今日ユーラシアちゃん来てくれて。私は帰るね」
「ペペさんもう帰っちゃうの? 何で?」
「家の方がよく寝られるから」
寝心地を聞いてるんじゃないんだけどなー。
しかもまだようやく昼になるくらいだよ?
ペペさんって一日何時間寝てるんだろ?
「いや、商売はいいの? って言いたかったんだけど」
「だって私の商売相手はユーラシアちゃんだけだし、今は売るものがないんだもの」
本当にあたしだけ相手にスキルを売るんだ。
マジでこの人、趣味でスキル屋やってるんだな。
「……おやすみなさい」
「じゃあね、おやすみ」
挨拶はおやすみでいいらしい。
ペペさんは作中一、二を争う天然のヤバい人です。




