第639話:ニルエとともに
――――――――――一三三日目。
「おっはよー」
「おや、アンタかい。いらっしゃい」
今日は朝からカトマスのマルーさんの家へ来た。
うちの子達は留守番だ。
「お肉お土産だよ」
「おうおう、ありがとうよ」
ばっちゃんも相当お肉が好きのようだ。
「今日はどうしたんだい?」
「ニルエとレイノス行こうかなーと思って誘いに来たの。この前レイノス行った時、案内してあげられなかったじゃん?」
「そうだったかい。律儀なことだねい」
律儀とゆーか、約束だからね。
宿題残した気分でいるのはあんまり好きじゃないだけだ。
「アンタはいつも忙しそうにしてるけどねい。今日は時間があるのかい?」
「んー、用がないことはないけど、午前中は大丈夫」
ザクザク宝箱のクエストはさほど時間はかからないしな。
あとチュートリアルルームにちょっと顔出すけど、新人さんに会えないならすぐ帰るし。
「ばっちゃんもレイノス行く?」
「いいよいいよ。寒いからねい。二人で行っといで。アタシは肉でも煮てるよ」
「あっ、ばっちゃんは煮て食べる派だったか」
「とろけるほど柔らかく煮て食べるのが好きだねい」
コブタマンのお肉は煮ても焼いてもおいしい。
特に今は冬だから、汁物は身体が温まるよなあ。
コッカーのお肉なんか煮て食べるとおいしいんだけど、山の集落へは行けなくなっちゃったしな。
もっといろんなお肉を狩れる転送魔法陣が欲しいもんだ。
あたしはまだまだ駆け出し冒険者だなあと感じる。
「煮てスープやシチューだと骨がある方がいいよねえ? 結構うまーいダシが取れるんだ」
「そうかい? じゃああった方が嬉しいねえ」
「今度来る時持ってくるね」
ニルエが奥から出てきた。
「あっ、ユーラシアさんでしたか。いらっしゃい」
「約束通り迎えに来たぞー。レイノス遊びに行かない?」
「いいんですか?」
おーおー嬉しそうに。
「もちろん。じゃあ行こうか。昼過ぎくらいに帰ってくるね」
転移の玉を起動し、一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「これは精霊使い殿」
「こんにちはー」
ニルエとともにイシュトバーンさん家に飛んだ。
レイノスへの転送先、ここだけなんだよな。
ギルドから歩く手もあるっちゃあるんだが、ちょっと距離あるし。
イシュトバーンさん家はレイノスの中心部に近いので都合がいいのだ。
「今日はイシュトバーンさんに用があるんじゃないんだ。この子とレイノスに遊びに来ただけで」
「さようでしたか。では昼御飯時に当家へお立ち寄りくだされ」
「え?」
警備員さん達、そんなこと言い含められてんの?
昼飯食わせてやるから面白え話してくれ、とゆー幻聴が聞こえたような気がする。
一食浮くのはありがたいので甘えさせてもらいたいけれども。
「お昼御飯食べさせてくれるみたい。ニルエ、いいかな?」
「私はもちろん」
「じゃあ、昼前になったら戻ってくるね」
「では、主人に伝えておきます」
「イシュトバーンさんによろしく」
変なことになった。
いや、変ではないか。
美少女を侍らせたいというのは、スケベジジイの当然の欲求だった。
しかしイシュトバーンさん、よっぽど退屈なんだろうか?
大きな屋敷を出てレイノス市街へ。
◇
「レイノスは人も店もものも多いですねえ」
「カトマスとは違ったタイプの賑わいだねえ」
レイノスのあちこちを見ながら歩き回る。
あたしもじっくり見たことなかったから、この際楽しんでこ。
ニルエも物珍しそうだ。
「カトマスに比べて物価は高いけど、治安はいいよ。警備兵がいるからだと思う」
警備兵で思い出したわ。
「カトマスの自宅警備員ことヨブ君は、やっぱり自宅警備に専念してる?」
「はい、極めて熱心に」
「やっぱりなー。ヨブ君は『アトラスの冒険者』じゃなくなっちゃうかもしれないんだ」
「才能がおありなのに、残念ですねえ」
やる気のある子に才能を分けてやって欲しいわ。
「でもねえ、弟のノブ君はやる気あるじゃん? だからノブ君の方に『アトラスの冒険者』の資格を移そうかって案が出てるんだ。ヨブ君がこのままニートで、御家族の許可があればだけどね」
「その方がいいかもしませんね。ヨブさん、せっかく才能あるのに、もったいないですけど」
「いや、ノブ君にヨブ君がついてく形になるだけで、パーティー変わんないんだけどね。ノブ君は自分の行きたい時にクエスト行けるようになるし、逆にヨブ君は行きたい時だけクエスト行けばいいから、ウィンウィンなんじゃないかな」
こーゆーのもウィンウィンって言うのかな?
ヨブ君はただの負け犬のような気がする。
「『アトラスの冒険者』って、随分細かく面倒をみるんですね」
「ちょっと前はそーでもなかったんだけど、新人が脱落するとあちこちで損が出るの。あたし損するの嫌いだからさー」
「うちのお婆様と同じです」
アハハと笑いながら大階段のところまで来る。
「昇って真っ直ぐ行くと、この前の行政府のところに出るんだ。港を見下ろす感じで綺麗だから、見に行こうか」
「はい!」
中町だけど、今日は精霊連れじゃないし、問題ないだろ。
「ユーラシアさん、お久しぶりです!」
「あっ、セレシアさん」
青の民の服屋、そろそろ開店の時間なのか。
「カトマスに住んでる友達のニルエだよ。レイノスを案内してるんだ。こちらはカラーズ青の民の族長セレシアさん。服屋の店長さんでもある」
「初めまして」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
「もうすぐ開店ですので、見ていらしてはいかがです?」
「せっかくだから見物しようか」
「はい!」
ニルエも嬉しそうだし。
小物を珍しそうに見てる。
ふんふん、開店時の喧騒はないけど、朝から店内に入ってくる人もいるじゃないか。
「最近商売はどうなの?」
「おかげさまで順調よ」
「結構なことだねえ。何か問題が起きたら早めに相談してよ」
「でも最近、弟のディオゲネスが変にやる気を出していると報告があったのです。正月に会った時に問い質したら、ユーラシアさんに言われて二号店について考えてると……」
あっ、ディオ君何であたしの名前出すんだ!
とゆーか、案外セレシアさんのアンテナは敏感だな?
さすがに感性で生きてる人だけのことはある。
もーしょうがないなー。
「針子、増やしてるでしょ?」
「!」
ビックリ面晒してもダメだとゆーのに。




