第636話:パワーカード『四不像』
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、こんにちはー」
「はいよ。アンタはいつも威勢がいいね」
昨日今日でかなり素材を手に入れたので、アルアさんのところへやって来た。
「お肉お土産だよ。冷凍ものだけど」
「おやおや、すまないね。素材を換金していくかい?」
「うん、お願いしまーす」
交換ポイントは四一九となる。
「アンタしばらく交換レート表持っていってないだろう? 今日は見ていきな」
「はーい」
戦争があったし、この前来た時は『遊歩』手に入れて浮かれてたわ。
あ、アトムが嬉しそうだな。
新しく交換対象となったのは『四不像』『韋駄天』『セイフティローブ』『遊歩』の四枚だ。
『四不像』[騎]攻撃力/防御力+二〇%、敏捷性+一五%、スタン無効
『韋駄天』敏捷性+三〇%、攻撃力/防御力/魔法力/魔法防御/敏捷性弱体無効
『セイフティローブ』防御力/魔法力/魔法防御+一〇%、狙われ率-二〇%
『遊歩』常時『ソロフライ』状態
『四不像』と『韋駄天』はともに限定一枚で、交換に一五〇ポイント必要。
『セイフティローブ』は一〇〇ポイント、『遊歩』は一二〇ポイントだ。
限定一枚の『四不像』『韋駄天』は、レア素材『ファントマイト』『埋没コイン』で交換対象となったものだろう。
『遊歩』は人気があるからレギュラー化したんだろうな。
でも『セイフティローブ』って何だったかな?
記憶にないパワーカードだけど。
今まで交換レート表に載ってなかったと思う。
「ああ、『セイフティローブ』はエルマの発案なんだよ」
「エルマの?」
「考えてくれってギルドに頼まれたらしくてね」
要望の多かった後衛用のカードの開発を、ギルドの武器・防具屋ベルさんに依頼されたらしい。
エルマやるなあ。
「明らかな後衛魔法職向けの守備的なパワーカードってなかったわ。強いて言えば沈黙無効付きの『光の幕』くらい?」
「後衛の防御カードは、あまり注目されない部分ではあるけれども」
「いいカードだよ。エルマの冒険者としての成長も見て取れる」
「エルマはよくやっているよ。パワーカードも使い手が増えているから、いろんな要望も出てくるね」
アルアさん嬉しそうだ。
狙われ率という、注目されにくい部分にスポットを当てたのはエルマのセンスだな。
ひょっとするとうちのダンテも持つ固有能力『陽炎』のことをどこかで聞いて、狙われ率を下げるアイデアを思いついたのかもしれない。
さて、本日の問題作だ。
「この『四不像』ってカード、地味に性能おかしくない? いや、お得なことに文句言ってるわけじゃないんだけど」
単純に攻撃力と防御力が+二〇%されるだけでも、攻防に優れた前衛向きのいいカードだと思う。
それが敏捷性まで+一五%されて、しかもスタン無効だぞ?
何なの、この性能のインフレは。
「ああ、アンタは[騎]のパワーカードは初めてだね」
「初めてだなあ。[騎]ってのは特殊なの?」
「パワーカードの始祖ロブロ師の一番弟子ココの傑作シリーズだよ。性能は強力だけど、装備するのに条件があるんだ」
「どんな条件?」
「説明しておこうかね」
[騎]のカードは一人一枚しか装備できないんだそうな。
今までも同じカード二枚も装備することほとんどなかったけどな?
「えーと、今日『四不像』を交換して手に入れるとするじゃん? 他にどこかでもう一枚『四不像』を手に入れたとしても、あたしは二枚の『四不像』を同時に装備することができない。ってこと?」
「それだけじゃない。他にも[騎]のカードはあるんだ。例えばうちで交換対象となり得るものだと『ニンバス』とかね。全部ひっくるめて一人一枚までの装備だよ」
「……つまり『四不像』と『ニンバス』を両方持っていても、片方しか装備できないと」
「ああ。もう片方は他の誰かが装備すべきだね」
なるほど、[騎]の一枚縛りについては理解した。
代わりに大きな補正がついていると。
「お得なカードであることは間違いないな。アトム、『四不像』一枚もらっていこうか?」
「そうでやすね。使わないカードかもしれやせんが」
うむ、攻撃順の変わる可能性のある敏捷性強化のカードは、うちのパーティーでは使いづらいのだ。
しかし常用できる強いカードではあるし、話の種にもなる。
『韋駄天』の方は、あたし達には必要ないカードだな。
「『四不像』ちょうだい」
「あいよ」
これで残り交換ポイントは二六九。
「じゃ、あたし達帰りまーす」
「またおいで」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「パラキアスさん、こんにちはー」
パワーカード工房から帰宅後、ヴィルを飛ばして連絡を取る。
『ちょうどよかった。こっちからギルドへ一報入れようかと思ってたんだ』
「何事?」
『新大使が着任する。明後日にドーラ到着予定だ』
帝国の新任在ドーラ大使は、ルキウスとかいう第四皇子だ。
モブの名前を覚えられないあたしが、会ったこともないのに名前を憶えているくらいなので、重要人物に違いない。
「わかった。あたしが新大使に会う時はどうしたらいいかな?」
『着任二日目からはどうせ暇なはずだ。リリー皇女と仲のいい美少女冒険者がいるって吹き込んでおくから、受付に言えばいつでも会えると思う』
「パラキアスさんは、あたしの働かせ方をわかってるねえ」
根回しはしておいてくれるらしい。
でも『どうせ暇なはず』ってのは何でだ?
今までのドーラ総督も実務的な仕事はなかったってことかな?
『ところで君の方の用は何だ?』
「例の輸出用に考えてる超すごいお茶だけど、生産地の方に気合いは入れたんだ。でもあたしだけが言ってるのと、政府の大物が姿を見せるのとでは本気度が違うと思うからさ。パラキアスさんにも行って欲しいの」
『なるほど、ザバンだな? 君も来るんだろう? いつにする?』
「うーん、新大使とリリーにあのお茶を飲ませて太鼓判もらってからの方が、土産話が増えるから……」
おそらく輸送隊が帰ってきてすぐ、フェイさんの縁談話関係で愉快になるぞと、あたしのカンが告げている。
その辺りは外したいしな。
「展開次第だけど五~七日後になりそう」
『わかった。また連絡をくれ』
「じゃあね、パラキアスさん。ヴィルありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
ザバンはこれでよし。
クエスト行くか。




