第635話:また会おう、若人達よ
ふむふむ、白の民の子供達が皆、読み書き計算を習う気になってきた。
何事も本人がやる気になってないと効率が悪いしな。
あたしみたいな賢い子は、勉強が嫌で逃げ回ってても覚えられるけど。
えっ? 賢いなら覚える時に重要性を把握してやる気出せって?
ちっちゃい時は読み書き計算の重要性なんてさすがにわからんわ。
教える側の問題だわ。
「でも字を覚えるったってどうすれば……」
「知ってる人に教えてもらうのが一番だけど、一人でも覚えられるよ。今、そのためのゲームをケス達が作っていまーす」
「「「「「「「「ゲーム?」」」」」」」」
「こういうものでーす」
ケスアレクハヤテ、出番だよ。
あ、ハヤテは人間相手だからムリか。
「書いてあるのが何の絵だかはわかるよね?」
「わかるわかる、タマネギ!」
「そうそう、で、こっちが『た』『ま』『ね』『ぎ』の字になってる」
「あっ、じゃあ絵がわかれば……」
「字も読めるようになるよ」
「すげえ!」
いい感じの盛り上がりだね。
でも白の民の識字率はかなり低いっぽいな。
札取りゲームが導入できれば効果は大きそうだが。
ケスがゲームについて説明する。
「ちょっとやってみるぞ。これは?」
「「「魚!」」」
「字は覚えたか? じゃあ絵札は伏せるぞ。『さ』『か』『な』の字札を取ってみろ」
食いつきがいいじゃないか。
遊べない子ごめんよ。
試作品一個しかないんだ。
しばらく遊んでもらった。
「いいかなー? 遠くない未来にこの札取りゲーム販売開始するよ。ルカ族長に買ってもらって、皆で字を覚えるぞーっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「本格的な商売にも、おゼゼを誤魔化されないようにするためにも計算は大事だ。いずれ覚えるぞーっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「今やれることをやるのだ! 未来を掴み取るぞーっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
よーし、こんなもんだ。
皆やる気のあるいい子達!
「今日は自分の世界を広げる方法の一つの例として、字を覚えるってことを紹介したけど、それだけじゃないんだぞ? 自分ができないことをできる人っているでしょ? 教えてもらうんだよ、話を聞くんだよ。いいね?」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「知識や得意技なんて、どれだけあったって困ることなんかないんだ。しかも自分にピッタリなら、必殺技にまで育つかもしれないよ」
「必殺技か!」
「カッコいい!」
必殺技はツボみたいだな。
今日来てるの男の子ばっかりだからかな?
「今日は女の子ほとんどいないけど、あとで教えてあげてね。本日のイベントはこれにておしまいっ!」
◇
子供達が帰った後、族長ルカさんと立ち話になった。
「いや、精霊使い殿、ありがとうございました。子供達の目が輝いておりましたぞ」
「お役に立てて嬉しいよ」
ルカさんが聞いてくる。
「……やはり読み書きは必要と思われますか?」
「必要だねえ」
必要というか必須のレベル。
あたしも冒険者としてあちこち行ってなかったら、本当の意味では理解できてなかったかもしれないけど。
「わしもそう思うのですが、なかなか納得させることができませなんだな。教えることのできる人材も少ない」
少ない、か。
やはりかなり白の民の識字率は低いようだ。
カラーズ全体の課題として、考えるのがいいかもしれないな。
「村にいれば食に困ることはありませんのでな。のんびりしておりました。白の民の村のいいところではあるのですが……」
「交易の開始とケスの活躍で状況が変わってきたと」
頷くルカ族長。
「交易開始は早いか遅いかだけだったよ。どの村も今以上に発展したいという思いで一杯だった」
「仰る通りですな。白の民が変わる、よい機会でした」
飢えることのなかった白の民と灰の民は、カラーズの中でも上昇志向が少ない。
もっとも灰の民の村は精霊が人嫌いだという事情もあるのだが。
「革はいいねえ。帝国への輸出品に考えてもいいかもしれない」
「品質には自信がありますが、輸出品ですか?」
「うん。ドーラからって魔宝玉とコショウくらいしか輸出品がないらしいんだ。なるべく品目を増やしたいの。でないとドーラがビンボーになっちゃう」
でもあたしだってどんな革製品に需要があるかなんてわかんないしな?
カル帝国の様子を知りたいもんだ。
「移民が大勢来て、海外事情を知ることができるようになってからかなあ? ルカさんも考えといてよ」
「ハハハ、精霊使い殿の視野は大変に広いですな」
具体的な意見がない以上、心に留めておいてもらうだけでいいだろう。
「じゃあ、あたし達は帰るね」
「少々お待ちを。これをお持ちくだされ」
何だろ?
「あっ、素材?」
「些少な礼ではありますが、精霊使い殿は素材を欲しているとのことでしたのでな。ありふれたものばかりで申し訳ありませぬ」
「いやいや、とても嬉しいよ!」
かなりの数だぞ?
今後パワーカードを輸出ってことになると、明らかに素材が足りなくなりそうなのだ。
そーゆー含みもあってアレク達に素材売ってと頼んだこともある。
「ありがとうございまーす。失礼しまーす!」
「またおいでくだされ」
族長宅を辞し、緩衝地帯へ。
◇
「あんた達は午後、緑の民の村へ行くんだっけ?」
昼にお弁当を食べながらアレク達と話をする。
「行く。昨日の札取りゲームの見本ができあがってくるから」
「直すべきところあったら指摘して、金属版製作をスタートさせちゃってね」
「わかっただ!」
「姐さん、商人に確認取る前に金属版製作を始めちゃっていいのか?」
「いいよ、もう代金は払ってあるんだし。金属版の完成だって時間かかるでしょ? 明後日、商人さんの息子が緑の村に来るんだ。その時に見本を持ってきてよ。説明しとくから。いい具合なら黄の民に札部分を発注して、金属版ができ上がり次第生産開始だよ」
あたしとしては、クララの絵の版画がどんな具合になるかも楽しみなのだ。
「いよいよ動き出すんだなあ」
「おっ、アレクも楽しみ?」
「もちろんだよ」
ケスもハヤテも頷く。
うんうん、頑張って売らないとな。
今日みたいなデモンストレーションすれば、札取りゲームは絶対に売れるからね。
「ごちそーさま。さらばまた会おう、若人達よ!」
返事を待たずに転移の玉を起動し帰宅する。




