第63話:勇者ユーラシア(笑)
でも『雑魚は往ね』はかなり準備が必要な、特殊なスキルだぞ?
うちは全員がパワーカードを使用しているから、必要な条件を備えることが難しくなかった。
普通じゃかなりの偶然があって必要なマジックアイテムでも手に入れないと、実用にならないんじゃないかと思う。
「『雑魚は往ね』はコスパはいいけど、決して使い勝手は良くないんだってば。隙も大きいし」
「かなりお気楽に使ってるようにしか見えなかったんだが」
「お気楽じゃないわ。うちのパーティーでは、想定外の事態があった時は即逃げることにしてるわ。そのためにクララには、装備してると逃走用のスキルの使えるパワーカードってのを持たせてる」
「実際に逃げなきゃいけなくなったことはねえんだろ?」
「ないけれども」
「嬢が危うさを知っとるなら問題はなかろう。あの経験値稼ぎの技と合わせてレベル上げに最適なのは間違いないしの。しかし……」
マウ爺が考え込む。
「あの『雑魚は往ね』というスキル……昔に聞いた記憶はある。運のステータス値が高い者が会得するのではないかという噂があったな。嬢の運は高い方か?」
「運? どーだろ?」
今まで全然気にしたことなかったな。
チュートリアルルームでステータスを計測した時は、特別どうこう言われた記憶ないけど。
ギルカを起動して皆に見せる。
「この運のパラメーター高いのかな? あたし今、レベル一三だけど」
「た、高いです。我の三倍はあります!」
「ほう、ワシより高いのではないか?」
「えっ、マウさんより?」
上級冒険者のマウ爺より上って大したもんだな。
アンとセリカがビックリしている。
ふーん、あたしの運のパラメーターは高いのか。
「運がいいって言われりゃ悪い気はしないけど、冒険者的に何かいいことある?」
「比較的状態異常にかかりにくい、って聞いたことあるぜ」
「アイテムのドロップ率やレアドロップ率には関係がない、という研究結果は発表されとる。あとは謎じゃ」
「ドロップが多くなるなら冒険者的に助かるのになあ」
「商売人的にの間違いだろ」
皆でアハハと笑い合う。
マウ爺は経験も知識も豊富だな。
ダンも情報屋らしく、案外色々知ってるようだし。
今後も二人には色々教えてもらお。
「比較的でも、状態異常にかかりにくいのは嬉しいかな。『雑魚は往ね』をより安全に使えるってことだし」
ダンがまじまじと見つめてくる。
何だよ、照れるじゃないか。
いくらあたしが可愛いからって、マナー違反だぞ?
「ユーラシア。あんたのステータスおかしくないか? 固有能力は何持ちなんだよ?」
「『精霊使い』の他に『発気術』の固有能力も持っているのじゃろう? それだけか?」
あれ、マウ爺も興味あるみたい?
「そもそもその『発気術』ってどんなやつだよ?」
「『発気術』はえいやでドンみたいな大雑把なスキル覚える固有能力だよ。『雑魚は往ね』以外にも『ハヤブサ斬り』っていう二回攻撃スキルを初期に覚えて重宝してた」
「初期って、あんた冒険者になって何日目だよ?」
「まだ一九日目だな。持ち固有能力は『精霊使い』『発気術』の他に、『自然抵抗』ってやつ。沈黙・麻痺・睡眠に対する状態異常耐性だそーな。その三つって言われた」
驚くダンとアンセリ。
「固有能力三つ持ち? マジかよ、聞いたことねえぞ……」
「いや、魔法系だとセリカのように能力が複数になることはあるらしいが……」
「三つ持ちということ自体が、『精霊使い』よりレアなのでは……」
こらダン、アン、セリカ、ボキャブラリーが貧弱になってんぞ。
「レアかもしれんけど、魔法使える方がよっぽど羨ましいよ? あんたら固有能力に夢持ち過ぎだって」
例えば『精霊使い』はレア固有能力だっていうけど、持ってりゃ便利だ強いぞってわけじゃないしな。
あたしはうちの子達と仲良くなれるから嬉しい。
でも人によっては全く有効活用できないと思う。
「固有能力持ちが優れていると言い切れないのは事実」
マウ爺が重々しく言う。
「しかし、過去『勇者』と呼ばれた者達の中で、固有能力を一つも持たなかったというのは聞いたことがないの」
「勇者ユーラシア……」
冗談ならともかくマジ顔で勇者はやめろ。
本気で冒険者やってる人達に失礼だから。
あたしはお遊びで兼業冒険者やってるだけだとゆーのに。
「ソル君の方があたしなんかよりうんと勇者に近いから」
「ソル君というのはスキルハッカーの名じゃったか?」
マウ爺は興味を持ったようだ。
「うん、そう。アンセリと同い年。あたしより一個下の子」
「スキルハッカーは、嬢から見てそれほどの人物か?」
「かなり。いや、今がすごいっていうんじゃないけど、真面目で決断が早くて取捨選択が的確なの。その上持ってる固有能力が規格外だから」
「嬢の度胸と判断力、合理性は今日でようわかった。その嬢がこう断言するからには確かなのじゃろう」
マウ爺が晴れやかな表情を浮かべる。
「アンとセリカをもう少々、仕上げておかねばならんらしいの。覚悟はよいな?」
「「はい!」」
アンセリが声を揃え、元気良く返事する。
「ダンよ、お主はどうじゃ? 今後どうする?」
冒険者としてソル君達について行く気があるか、ということだろうか?
アンセリがともに後衛だけに、前衛をもう一人というのは十分ありだろう。
けれどもダンは気質としてリーダータイプなんじゃないかな。
情報屋であって、ソル君とはスタンス違うし。
年齢も上だからソル君のパーティーには合わないと思うが。
「俺は……ギルドでダラダラやってる方が性に合うかな」
「そーだそーだ、ダンはギルドでのたくたしてるのが似合う」
「もう少しワードを修飾してくれ」
真面目な顔でダンに言ってやる。
「あんたの持つ、誰とでも隔意なく話せる才能はすごく貴重だよ。あたしはダンのコミュニケーション能力を軽視してはいないし、おかげでギルドにすぐ馴染めたことを感謝してもいる。……同時にそれ以外は軽視してもいいかなと思ってる」
「褒めるなら最後まで頑張れよ!」
うむ、ダンのオチ担当能力は優れているな。
軽視すべきじゃないかもしれない。
「よし、今宵はワシの奢りじゃ。たんと食え」
「わーい! マウさん大好き! 愛してる!」
「俺のことも愛してくれよお」
笑いに包まれて夜は更けてゆく。




