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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第628話:支払いだけ押しつけたなら

 案内してもらった版画屋さんで、札取りゲームの印刷についてアレクケスハヤテが交渉している。

 頑張ってみろ。

 これも経験だ。


「……ということなのです」

「なるほど、木製の札の表面に絵ないし字を入れると」

「はい」

「数が出るなら断然金属版をお勧めするぜ。丈夫さが違う。一組一万五〇〇〇ゴールドだ。版さえできてしまえば、一セットの印刷は三ゴールドでいい。どうだい?」


 五〇〇セット作って完売したとすると、一セット当たり木の部分の値段含めて一三ゴールド強か。

 一セット五〇ゴールド以上で売るのは正直厳しいから、輸送費かかるとほぼ儲けがない。

 それ以上売れて初めて儲けが出る計算だな。

 札取りゲームはいずれ帝国にも輸出してやろうと思ってるくらいの戦略商品だから、楽勝でチャレンジの案件だ。

 しかし……。


「見本分は直接絵と字を書きつけた方が早いな。二五〇ゴールドで引き受けよう。明日昼までにできる。どうだ?」

「見本のクオリティのものが、実際の印刷でも可能と考えていいか?」


 お、いい質問だ。

 ケス偉い、が……。


「ああ、もちろんだ」

「じゃ、一万五二五〇ゴールドね。払っとくから金属版と見本よろしく」

「「「えっ!」」」


 アレクケスハヤテが驚く。


「見本ができ上がってからのがいいんじゃねえべか?」

「ん? まあいいよ。早い方が」


 その辺に置いてある、刷り上った印刷物の状態が良かったからね。

 活字も奇麗だし。


「緑の民の識字率はさほど高くないって聞いてたんだけどな。どうしてこんな美しい字が刷れるの?」

「いや、うちは本業が看板屋なんだよ。確かに緑の民はあまり字の読める人多くないが、表札とかで見栄は張りたいんだな。美意識は高いんだぜ」

「へー。肝心の印刷や版画の技術はどこに使われてるの?」

「絵やポスターだな。顔役連中はさすがに読み書きできるから、その連絡用の印刷物が割と頻繁に出る。見てみるかい?」


 あっ、かなりいい感じの絵じゃないか。

 イシュトバーンさんの画集イケそうだ。

 連絡事項なんかも、印刷物として皆取ってあるんだな。


「緑の民の文化が独特だってことはわかってるよ。他でウケないだろうってこともな」

「いやいや、格好いいよ。これ原画にして刷ったらどんな感じになるか、試しにやってみてくれない?」


 以前、イシュトバーンさんが描いたクララの絵を取り出す。

 怪訝な顔をする版画屋さん。


「一枚だけ写しが欲しいってことか? それなら絵師に模写させた方が安上がりだが」

「いや、違うんだ。画集を出したいんだよ。だから実際に刷るとどんな感じに仕上がるかが知りたいの」

「ほう、画集ね?」


 イシュトバーンさんの絵の謎えっち成分が、印刷すると表現されないことだってあり得るしな。

 あの絵を表紙に持ってきた新聞が売れたから大丈夫だと思うけど、緑の民の印刷技術でどうなるかは知っておきたい。


「帝国に輸出してさ。たくさん売って大儲けしたいんだなー」

「帝国に? ハハッ、夢のある話だな」


 あたしは本気だぞ?

 版画屋さんが絵を見ながら言う。


「……妙な魅力のある絵だな。確かにこれなら売れるかもしれない。よし、原画ありなら二〇〇ゴールドでいい。刷り賃一枚分はサービスでどうだ?」

「よーし、任せた! じゃあ合計一万五四五〇ゴールドね」


 金額を支払う。


「明日札取りゲームの見本ができたらこの三人が来るから、細かい調整をして金属版にかかってくれる? で、クララの絵の方はいつできるかな?」

「まあ三日あれば十分だ」


 思ったより早い。

 熟練の技術と見た。

 暇なだけかな?


「じゃ、お願いしまーす。どーゆー紙に刷ると高級感あるとか見栄えがいいとかあったら、また教えてよ」

「おう、画集だもんな。じゃあな」


 版画屋を後にする。


「良かったのかい? 結局ユーラシアが交渉しちゃったけど」


 灰の民の村への道中、サイナスさんが気遣わしげに聞いてくる。

 言いたいことはわかる。

 アレクケスハヤテに経験させたかったのに、途中からあたしが横取りした格好になったから。


「うーん、良くはないんだけど」

「……」

「どうしてユーラシアさんは邪魔しただ!」


 ハヤテが怒る。

 でもなあ。


「仕方ない。ボクらに決定権がなかった」

「ああ。おいら達に出せる金額を超えてた」


 アレクとケスは理解してるみたいだな。


「ごめんよ。ああいう交渉で最初に足元を見られると、あとで挽回するのが難しいんだ」


 他人に対する印象というのはなかなか変わらないもんだ。

 一度商売相手として相応しくないやつと見下されると、後々まで悪い影響がある。


「今、あんたらが舐められちゃうと、製品の品質にケチがつくかもしれないでしょ? もー流れるように商談を終えるしかなかった。あれならあんたらが挙動不審だったことはバレてないよ。札取りゲームが大ヒットしたらかなりの収入になるからさ。それから頑張んなさい」


 頷くアレクケスハヤテ。

 金属版が結構なお値段だったんでビビっちゃったんだろうな。


「あそこでしれっと話し合い続けて、支払いだけサイナスさんに押しつけたなら、あたしも安心して見ていられたんだけど」

「おいこらユーラシア! オレを巻き込もうとするな!」

「サイナスさんは商売向きじゃないなー」


 皆で大笑いする。


「ユー姉、余計な出費させてすまなかったね」

「いや、これは出すつもりだったからいいんだよ。あんた達は皆できる子だけど、おゼゼがないと進まない話もあるからね」


 悔しそうに頷く三人。

 動かせるお金の大事さがわかったろう。

 行動力に直結するのだ。


「姐さんはこれからどうするんだ?」

「あたしもちょっと懐が寂しくなったから、稼いでこようかな」


 稼ぐと言ったら魔境だ。

 いや、ギルド行ってラルフ君に緑の民の村行きの確認取るのが先か?

 でも会えるとは限らないし。


「あんた達は図書室?」

「んだ」

「勉強家だねえ」

「もうケスもハヤテも、大体書く方まで大丈夫なんだ。簡単な計算を始めてるところ」

「うんうん、計算は商売に必須だからねえ」


 確実に成長してるじゃないか。

 書くことに慣れるって案外大変なのにな。


「今日はお金が必要だということを、嫌というほど理解したよ」

「素材や薬草を採取して売ればいいじゃん。輸送の迷惑にならない程度に拾えないの? 掃討戦跡地でも案外落ちてそうだけど」

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