第627話:イケメン万能説?
――――――――――一三一日目。
「サイナスさん、こんにちはー」
「やあ、いらっしゃい」
灰の民の村サイナスさん家にやって来た。
今日は緑の民の村へ印刷技術の視察に行くので、お供を確保するためだ。
もちろん印刷の具合が良さそーならば、札取りゲームの件でそのまま依頼してしまうつもりでもある。
「ユー姉!」
アレク、ケス、ハヤテの三人がやって来た。
準備万端のようだ。
「おお、皆来たね。行こうか」
ユーラシア隊及びその他四名出発。
楽しくお喋りしながら歩を進める。
「じゃ、明日はアレクもケスも輸送隊休みなんだね?」
「そりゃそうだぜ姐さん。でなきゃ姐さんをおいらの村に呼べねえ」
明日は落とし穴大会の後の総括で、白の民の村に呼ばれているのだ。
輸送隊が休みの日でも、ちゃんとお仕事するのが偉いな。
人間行動を起こさなきゃ結果は出ないもんだから。
「明日は明日で楽しみだねえ」
「あまり面白くないと思うぜ?」
「いやいや、こーゆーのはハプニングがつきものだから」
「ユーラシアさんを基準に考えちゃいけないだ」
念入りにフラグ立てたから、どうせ何か起きるわ。
面白い子がいるかもしれないしな。
何だかんだで緩衝地帯にとうちゃーく。
「あれ? 急にお店増えたねえ」
「開拓に行く人達を当て込んだ弁当屋が増えたんだ」
「やるねえ。おゼゼ儲けには貪欲でないといけない」
大分商売がわかってきてるじゃないか。
弁当屋が増えれば当然食材は買われるから、灰の民のショップは潤うな。
増産増産。
「よう、精霊使い」
黒の民に声をかけられる。
フードで表情はわからんけれども。
「昨日は大活躍だったらしいじゃないか。俺達もホクホクなんだ」
「あっ、買い取り屋さんだったか」
「誰だと思ったんだよ」
「いや、黒フード被ってると誰が誰やら」
「ん? ひょっとして他色の民は区別つかないのか?」
むしろどーして区別がつくと思うのか。
黒の民同士はどうやって見分けてるんだろうな?
「少なくともあたしは、ピンクマンとサフラン以外はわかんないんだけど」
「ああ、あの二人の格好は奇抜だからな」
黒フードに奇抜と言い放たれるのも何だかなあ。
「ヒドラの牙は全部買い取ったんだ。でもそれ以上は資金がなくてな。買い取り屋は今休みにしている」
「ちょっと残念だね。買い取り屋に資金が足りないのも問題だな」
休みだと不便だわ。
急に換金したい人もいるだろうし。
「おゼゼができたら出資するよ。でも今あんまりお金ないんだよね」
「あんた、開拓事業にすげえ金出してるんだろ? ムリすんなよ。じゃあな」
慰められたぞ?
「ユー姉が投下したお金で、今カラーズはすごく景気がいいんだ」
「一時的なものだけどね」
おゼゼが回ってる内に新たな産業が育てばいいが。
育った頃には消費者たる多くの移民が来ているだろうし、上手くいけばドーラは飛躍的に発展できる。
あ、緑のショップで変なもの売ってるな?
「姐さん、あれもおいらのアイデアだ」
「へー、クルクル回って面白いねえ」
風車と言うんだそうな。
ケスはやるなあ。
貴重な紙をどんだけ犠牲にしてこんなもんを思いついたんだか。
白の民族長ルカさんの苦労が忍ばれるよ。
「こんにちはー」
「やあ、こんにちは」
「どう? 売れてる?」
「紙は包装用途で少し売れるようになったよ。あとは紙飛行機、風車の玩具だな」
「うん、今はボチボチでいい。本が出るようになると、もっともっと儲かるようになるからね」
「精霊使いが言うと楽しみだな」
喜んでもらえると嬉しいねえ。
「緑の紙は質がいいけど、何から作ってるの?」
「これは草だぜ。しかし木でも竹でもできる。材料の研究してるやつもいるから、訪ねてみるといい」
「ありがとう! 今から緑の民の村へ行くんだよ」
「ん? 族長宅かい?」
「うん。印刷やってる人を紹介してもらうの」
「そうか、じゃあな」
緑の民の村へ。
◇
「こんにちはー」
緑の民族長宅へ到着した。
どこの村に行っても思うけど、族長宅は大きくて立派な建物だなあ。
「はいよ、精霊使いだね?」
「精霊使いユーラシアのパーティーとその他四名でーす」
「……」
族長のはずのサイナスさんが何も言わなくなっちゃったぞ?
従者の心得かな?
「こちらへどうぞ」
「お邪魔しまーす」
奥の広い部屋に通される。
オイゲンさんと長老ズ三人だ。
うんうん、訪問を喜んでもらえているようで何より。
「お待ちしておりましたぞ」
「今日は二つの目的のために来たんだよ。一つは札取りゲームの印刷について」
「識字率向上のための仕掛けですな?」
「そゆこと。あたし自身としてはドーラをお金持ちの国にするために、識字率向上は必須と考えているんだ。緑の民のメリットとしては、単純に紙の消費量に関わってくるね」
「安くて面白い本の需要というやつですな」
「うん」
この前言ったこと覚えててくれてるじゃないか。
よきかな。
「で、もう一つの目的というのが交易について」
表情が硬くなる長老ズ。
やっぱヨハンさんに対して抵抗は強いなあ。
「カラーズの製品をレイノスで売るなり帝国に輸出するなりしようと思うと、現状ヨハンさんに頼らざるを得ないんだよね。でも御当家とヨハンさんの間には何やら確執があるみたい、とゆーのは理解してるよ。だからね、ヨハンさんの息子さんに会ってみるのはどうかなーと考えているんだけど」
「息子?」
意表を突かれたような長老ズ。
「息子がいるのか……」
「会ってみる手もあるな」
「どんな子だい?」
ヨハンさんに対する態度とえらく違うのな?
どーも他色の民には理屈がわからんけれども。
「名はラルフ君。冒険者をしていて、あたしを師匠と慕ってくれているんだ。鮮やかな緑髪で、やや背の高いイケメンだよ」
「「「ぜひ連れてきてくれ!」」」
即乗り気になる長老ズ。
今どこに食いつく要素があった?
イケメン万能説?
まさかなー。
やる気スイッチのポジションがまるでわからない。
オイゲンさんはしてやったりな顔してるが、サイナスさんは解せぬ顔なんですけど?
「わかった。早速ラルフ君に連絡取って、数日以内には連れてくるね」
「うむ!」
「楽しみじゃの」
楽しみなんだ?
まあいいや。
ラルフ君イケメンではあるけど、少々ヘタレが入ってるってことはこの際秘密にしておこう。
「では版画屋に案内しましょうかの」




