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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第626話:あたしの知らない事情

「サイナスさん、こんばんはー」


 軽く夕食を取ったあと、恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは。今日は御苦労だったね』

「お肉おいしかったし、すごく楽しかったよ。一つ難があるとすれば……」

『ユーラシアは何を難と考えているんだろうな? 興味はある』

「夕御飯があんまりお腹に入らないんだよね。夜は具だくさんスープでした」

『やっぱり具だくさんなんだな』


 具だくさんスープはうちの名物なんだよ。

 根菜多めでした。


『どう思った? 今日の急な大型魔物の出現は』

「でっかい魔物を倒すというのは、エンターテインメントとしての要素が強いねえ。ナイスイベントでした」

『え? そういう感想を聞きたかったわけじゃないんだが』


 どーゆー感想が聞きたかったんだろ?

 儲かってよかったねってことかな?

 

『いや、皆確かに盛り上がっていたな』

「でしょ? もしまた出たら呼んでよ」

『まだあんなのが出現するかもしれないのか?』


 サイナスさんの声のトーンが低くなる。

 心配だったか。


「多分大丈夫。あたしに嫌がらせしたいだけだと思うから」

『どういうことだい?』

「今日現れた大型魔物は、魔境みたいな魔力の濃いところじゃないと生きられないようなやつばっかりなんだよ。誰かが召喚したんだと考えられるの」

『ああ、それで』

「召喚術としてはお粗末なんだなー。魔力のムダがすげえ多いんだ。でも逆にあんなやり方ができるんだとすると……」

『まさか高位魔族か?』

「おそらくね」


 サイナスさんが沈黙する。


「あたし、バアルって悪魔に恨まれてるんだって。そいつ帝国とドーラの間の戦争を画策してたやつでさ。あたしが空飛ぶ巨大軍艦落としちゃったから、戦争らしい戦争になんなかったじゃん?」

『あの帝国とドーラの争いには魔族が裏にいたのか?』

「うん。あたしも帝国に行った時点では知らなかったんだけど、あとで聖火教ルートで知って、塔の村に攻め入った潜入工作兵の隊長さんに詳しく教えてもらった」

『何と……今日の大型魔物も悪魔バアルのせいなのか?』

「疑問形が多いね。あたしはバアルの仕業だと思ってる。だって他にそんなことをやりそーでやれそーなやつがいない」


 驚いてるけど。


「どうってことはないね。今日のイベントはあたしが大喜びで倒して、オーディエンスの皆さんも大盛り上がりだったじゃん? 悪魔なんてこっちの悪感情が欲しいだろうに、こっちを喜ばせただけだった。召喚するのにどえらい魔力使ったにも拘らずだよ? 割に合わないから、二度とこんなことしないな」

『理屈がひどい』

「悪魔は契約にうるさいらしいよ。損得には敏感だと思う」


 バアルの性格は知らんけど、損を許せるならあたしが飛空艇壊したからって恨んだりしないわ。


「サイナスさんには全部話しとくよ。帝国の皇帝がもう長くないってことは話したよね? 皇位継承順位一位の皇子は病弱、二位の皇子は浪費家で貴族や重臣の支持がない。三位の皇子はまだ年若なんだそーな。側室の子で皇位継承順位は正室の皇子達より下だけど、第二皇子ってのが辣腕で主席執政官を務めてる。で、この第二皇子がバアルとズブズブ」

『……第二皇子がドーラに兵を送ったんだな? 君が大使として来る第四皇子に功績挙げさせようって言ってた理由がこれか』

「まあね。このままいくと第二皇子は摂政か皇帝になっちゃう。ドーラに兵を送るような人に最高権力者になられると面倒だから、第四皇子に協力するんだ。第四皇子は次席執政官を務めるほどにはできる人。やっぱり側室の子だけど、第二皇子と同母ではない」

『第四皇子の人となりは知ってるのか?』

「知らないけど、敵の敵は味方だね」

『なるほど、シンプルだ』


 納得していただけたようだ。

 第四皇子がいい人だといいなという、希望的観測。


『もし第二皇子が最高権力者になると、帝国とドーラの関係は悪くなるのか?』

「うーん、実はわかんない。第二皇子がバアルに操られてるんだったら、レイノスは艦隊から砲撃されてたと思うんだ。バアルは負の感情が欲しいんだから。でも勝ち目なくなったら鮮やかに艦隊引かせたからな?」

『ドーラと手を組む方が得と考えれば、考えを変えるかもと?』

「理屈としては。でも独立したドーラにいい感情を持ってないだろうから何とも」


 第二皇子はもっと食えない人のような気がする。

 潜入工作部隊のメキスさんも抜け目なくてドライだって言ってたし。


「わかりやすく手を組める人の方がいいな」

『ふむ、悪魔バアルの方はどうなんだ?』

「お仕置きしたいねえ。でも結構厄介な能力持ちなんだよね。まーあたし達のレベルくらいわかってるだろうから、今日みたいにちょっかいかけてくるくらいしかできないんじゃないかなと思う」

『ちょっかいで片付けられないだろう。大事件だったぞ?』

「そお? バアルもやり切っただろうし、あたし達もオーディエンスも楽しかったからウィンウィンじゃないかな?」

『人間サイドが楽しんでちゃウィンウィンにならないだろう。相手は悪感情を好む悪魔だぞ? 君だってさっき、バアルは割に合わないから二度とこんなことしないって言ってたじゃないか』

「ごもっとも。あたしが楽しい時は大体ウィンウィンだから勘違いした」


 悪魔面倒だな。

 うちのヴィルみたいないい子だったらいいのに。


「緑の民の村にラルフ君連れてっていいかってオイゲンさんに聞いたら、意外なほどスムーズにオーケー出たんだよ」

『随分と話が飛んだな。じゃあ明日、緑の民の長老さん達に話してみるんだな?』

「もちろん話すつもりではあるけど、何か変じゃない? もっと切り込みにくい案件だと思ってたんだよ、これ」

『君が信用されてるんじゃないか?』

「ええ? 納得いかないなあ」


 あたしの知らない事情があるんじゃないかって気がする。


『黄の民フェイ族長の方は?』

「ラブ話は進展なかったな。でもあたしの得意分野が期待されてるみたいだから」

『この場合の得意分野って何だ?』

「何だろ? 溢れ出る慈愛?」

『そんなのが得意って初めて聞いたけれども』


 サイナスさんが笑う。


『では明日朝、待ってるよ』

「うん。サイナスさんおやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日は緑の民の村だ。

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