第623話:デリケートな問題じゃなかったの?
何かを考えるように視線を宙に彷徨わせるオイゲンさん。
「……ヨハンの息子はラルフと言いましたかな。わしは会ったことがないのです。『アトラスの冒険者』だとは聞いておりますが、どんな男です?」
「あたしを師匠と慕ってくれてるの。鮮やかな緑髪で、やや背の高いイケメンだよ」
「ふむ、いいでしょう。わしは会ってみたいですな」
あれ? 『威厳』のこと話す前にオーケー出たぞ?
デリケートな問題じゃなかったのかな?
「じゃあそのセンで明日、長老さん達に水を向けてみていいかな?」
「お願いいたしますぞ」
オイゲンさんが去って行く。
……イマイチ納得いかないが、まあ支障があるわけじゃなし。
このことはラルフ君と、できればヨハンさんにも話を通しておきたいな。
「ユー姉」「姐さん」
「アレク、ケス、今日は御苦労様」
「一番働いてたのユー姉だろう?」
「かもしれんけど、あたしは何とかしてお腹減らそうって考えてただけだし」
「腹具合のことは言わない方が、『精霊使いユーラシアのサーガ』に相応しいエピソードになったと思うよ。言った方が本は売れると思うけど」
「困ったなー、こんなところで究極の選択だよ」
皆で笑う。
「白の民の落とし穴大会はどうなってるのかな?」
「全員脱落しちまったんだ」
「ええ? もう?」
まだ半分以上期間が残ってるじゃないか。
想像以上にクオリティが低かったらしい。
「で、姐さんに白の民の村に来てもらいたいんだが」
「子供達に言い聞かせりゃいいんだね? わかった。明後日の午前中でどうだろ?」
「じゃあ、じーさんにそう伝えておく」
「札取りゲームの試作品、印刷が間に合わなかったなー。ま、いいか。紙製の試作品があるから」
アレクが興味を示す。
「あれ持っていくんだ?」
「ケスは今、こんなのに関わってるんだよーって例だし、読みの勉強になるゲームの紹介もどこかでしとかなきゃいけないし。いい機会でしょ」
「確かに。客予備軍かもしれない」
「明日緑の民の村行くんだ。聞いてる?」
「聞いてない。札取りゲームの印刷のことで?」
「そゆこと。あんた達がいた方が先方に詳細が伝わりやすいから来てよ。ハヤテにも伝えといて」
「わかった」
アレクもケスも嬉しそう。
販売が近付いてきたもんなあ。
もうちょっと喜ばせてやるか。
「帝国本土の識字率って二割以下らしいんだよ。完成したら帝国にも輸出するぞ」
「「えっ?」」
「もうパラキアスさんやオルムス知事には言ってあるんだ」
スケールの大きい話を聞かせてやったらノリノリになるかと思ったら、そーでもなかったな。
あんたら戸惑うなよ。
「ドーラとは人口が違うからメチャクチャ売れるぞー!」
「で、でも姐さん……」
「こら、今更尻込みすんな。ドーラからの輸出品が少なくて困ってるんだ。協力しなよ」
アレクが言う。
「輸出品? ははあ、輸入ばっかりして輸出しないとビンボーになるという、いつものユー姉理論だね?」
「あたしの賢い理論は置いといてもさ。多分ドーラから輸出するものが少ないと、ビンボーになるのを防ぐために、輸入品にたっかい税金かけるか輸入自体を絞るかすると思うんだよ。自由にものを手に入れられるような、あたしの理想とする世の中ではないんだな。何のためにうまいこと揉めずに独立したんだかわかんなくなっちゃう」
輸入品に対する優先権を根拠に税金取られてるんだろう、レイノス市民の不満が高まる。
大体帝国とウィンウィンの関係にならない。
「だからドーラからもドッカンドッカン輸出するよ。輸出品の量と品目を増やすのが今の目標」
頷く二人。
「姐さんの言うことはわかりやすいぜ!」
「でしょ? あたしは今度来る帝国の在ドーラ大使を丸め込んで、貿易になるべく制限かかんないようにするから」
「ユー姉はそんなとこに関わってるの?」
驚くアレク。
「必然的に関わることになるな。新大使は帝国の第四皇子なんだ。割と行政手腕がある、次期皇帝の有力な候補の一人ね。帝国内のもっと有力な第二皇子に警戒されて、ドーラに飛ばされたって感じ」
「「ふむふむ」」
「で、第四皇子は結構ドーラにとって都合のいい人だから、次の皇帝になって欲しいの。だから応援して功績立てさせたい。とゆーか第二皇子はドーラと戦争しようとした人なんだ。そんなんが次期皇帝だと迷惑じゃん」
「第四皇子が重要なのはわかった。でも何で姐さんが必然的に関わるんだ?」
「……つまりカル帝国次期皇帝が定まらない中で、ドーラ政府が皇帝候補の内の誰かに直接肩入れするわけにいかない。何故なら裏目に出た時致命的だから。で、ドーラ政府と無関係に動けるユー姉に白羽の矢が立ったと?」
「ピンポーン! アレクは賢いね」
唸るアレクとキョロキョロするケス。
「ドーラにとってみれば移民と貿易がスムーズならばオーケーだし、これは帝国にとってもメリットなんだよ。国内の不満分子をドーラに追い出せる、欲しい魔宝玉を輸入できるとなればね。だから新大使とは協力できるんだ」
「姐さん、新大使の皇子はいつ来るんだ」
「正確にはいつだか聞いてないな。七日以内だと思うけど」
二人とも難しそうな顔してるのは何でだ?
第四皇子の人物によっては対応変えなきゃいけないあたしが面倒なのはわかるけど。
「こっちはこっちで面白くなりそーなところなんだ。あんた達はあんた達で頑張ってね」
「うん」「おう」
「じゃ、明日ねー」
ハヤテを含めたあの三人は優秀だから、今後楽しみだよ。
ドーラの希望。
どんどん新しいものを生み出して欲しい。
「ユーラシアさん!」
「ああ、インウェン。今日はいい日だねえ。もうお腹一杯だよ」
「悪魔のヴィルちゃんが倒れてしまって……」
「えっ?」
皆に可愛がってもらってたと思えばどこに?
急いで突っ伏して倒れているヴィルの元に。
周りの人達も心配そうだ。
「あっ、大丈夫だわこれ」
「どうしちゃったんですか?」
「ヴィルはねえ、人の好感情が好きなんだよ。で、お酒飲んで酔っぱらってる人がいると、ヴィルも酔っちゃうの」
「何だ、そうか」
「急に倒れたからビックリしたぜ」
皆さんに御心配かけて申し訳ないです。
こんなんで驚いて酔いが醒めちゃったら、さらにごめんなさいだわ。
抱っこしていくか。
いい子だね。
ほっぺたをぷにっとしてやる。




