第621話:ブラックデモンズドラゴン
『遊歩』でヒドラが現れたところへ急行する。
ここは人が多いからちょっと心配してたけど、デミアンがうまいこと撤退させてくれてるわ。
まあヒドラは再生力はあっても、動きはとろいからな。
毒を吐くことがあるんで風上取られると危険だけど、今日は風ないし。
「お待たせー」
「待ちかねたが、悪くはない」
余裕あるなデミアン。
「作業員を下げといてくれてありがとうね」
「ユーラシアが応援に来てくれることがわかってるなら、安全が優先だからな。悪くないだろう?」
「悪くないねえ。あたしの出番がなくなってるかと思ったんだ」
アハハと笑い合う。
木々を倒してヒドラが現れた。
デカいヒドラだなー。
「あっ? よく見たら首三本もあるじゃん。格好いい!」
「ユー様、キングヒドラです。頭部を失っても再生するという報告があります!」
「カモじゃん! 首刎ねるよっ!」
「何がカモかわからんがいいだろう。悪くない」
デミアンこそ何言ってるかわからんわ。
レッツファイッ!
『あやかし鏡』の効果で薙ぎ払い×二! 首を全部落とした!
「本当だ! 首生える! やったぜラッキー!」
「美少女精霊使いは何を喜んでいるんだ?」
「ヒドラの牙は薬の材料になるんだって。結構な高値で売れるんだよ。あたしがどんどん首落とすから、皆は牙を回収して! 大儲けだっ!」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
どん引きしてる暇があったら働け。
せっせと首を落としたがさすがに無限に再生するということはなく、三六個で満足せざるを得なかった。
「よーし、まあまあだな。キングヒドラって再生力メッチャ高くない?」
「普通種のヒドラはこれほどの再生力は持たない。悪くないだろう」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
再生スピードも速かったから、結構テンポよく首狩れたしな。
マジで悪くない。
「えーと、一つの頭に牙二本だから七二本か。一本一〇〇〇ゴールド勘定で七万ゴールド以上、ありがとうございます! 結構な収入だ!」
「……再生するヒドラを見て大喜びする冒険者は、おそらく精霊使いだけだ」
「こら、『美少女』が抜けてるぞ?」
「ああ、すまない。美少女精霊使い悪くない」
デミアンよ、呆れた顔すんな。
キングヒドラはぼろ儲けできる魔物とわかった。
でもどこかでキングヒドラに遭遇したとしても、うちのパーティーだけじゃ牙を運びきれないなあ。
今日は運が良かった。
「ところでキングヒドラの出現の仕方で何か気がついたことあった? 向こうでさっきドラゴンが現れてさ。それ見てたオイゲンさんは、召喚じゃないかって言ってたんだけど」
「吾輩も召喚術だと思う。ちょっと驚くくらいの魔力の膨張が感じられた」
「ふーん。デミアンが驚くくらいの魔力の膨張か。力任せに召喚してるんじゃ、長くは続かないんじゃない?」
「同意見だな。悪くない」
おそらく敵の召喚術師としての技量は大したことないと思われる。
魔法力とマジックポイントにものを言わせて、強引に術を発動させているんじゃないかな?
自分が姿を現さず、魔物を放り込んでくるやり方は嫌らしいが……。
「儲かるからいいか」
『御主人! 最前線に人形系レア魔物三体が出たぬ!』
「了解、すぐ行く!」
正体がわからんな?
デカダンスまでの人形系ならエルマが倒しているはず。
ということはそれ以上の人形系レアだろうか?
ウィッカーマン三体だととても倒せないから、人数で脅して散らしてしまおう。
あとでゆっくり一体ずつ倒せばよし。
万が一逃がしちゃっても魔力の足りないこの辺りじゃ、ウィッカーマンクラスの人形系魔物はどうせ長いこと生存できまい。
『遊歩』で最前線へ急行。
「あっ、お姉さま!」
「よーし、エルマ偉い!」
見たことのない黄色い人形系レア魔物だ。
エルマが殿となり、戦わずにフェイさん達を逃がしながら後退してきていた。
「すみません。知らない魔物だったので退却しました。慎重過ぎたかもしれません」
「そんなことないよ。あんたは守るのが役目、倒すのは任せといて!」
「はい!」
かなり強そうだ。
確かにパッと見デカダンスより上だぞ?
クララが言う。
「泣言地蔵、人形系の中でも特に出現報告の少ない希少種です! ヒットポイントは六〇~七〇!」
「おおう、結構な人形系じゃないか」
危なかった。
エルマの持つバトルスキル『ストライク五〇』では対応できない人形系レアだ。
エルマもヤバそうな魔物を感知できるようになってきたな。
まあ豊穣祈念から薙ぎ払いなんですけれども。
「リフレッシュ! ふいー、魔法がキツいね。鳩血珠三個と、知らない魔宝玉だな?」
「兎月照珠ですね。黄金皇珠以上に希少な魔宝玉です」
「儲かったぞー!」
「お姉さま、ありがとうございました!」
エルマが弾んだ声で話しかけてくる。
「エルマ、徐々に下がらせたのはいい判断だったよ。成長したね」
「いえ、そんな……」
照れるエルマ。
可愛いやつめ。
「ユーラシアよ、向こうの状況はどうだ?」
フェイさんが心配そうだ。
「何者かが魔物を召喚してるらしいんだ。かなりの魔力の持ち主だね」
「引き上げるべきか?」
「いや、大丈夫だよ。かなりムダな魔力の使い方して、強引に召喚してるっぽい。こんなのいつまでも続かないわ」
「ふむ。では作業の続きだ」
おお、切り替え早いね。
それでこそフェイさんだわ。
頼りになる。
「かなり強い魔物が呼び出されているようですが」
「んーまあね。不安?」
「お姉さまばかりに負担がかかるようで、申し訳ないです……」
「負担ってことないんだぞ? おゼゼになる魔物ばっかり出るから、嬉しくてしょうがないよ。次は何が出るかなあ?」
「お姉さまはいつも楽しそうですねえ」
楽しそうとはよく言われるなあ。
人生楽しんだもん勝ちだ。
『御主人! すごいドラゴンが出たぬ! 大柵と輸送隊の間だぬ!』
「わかった、行くよっ!」
おそらく最後の大物と見た。
もうこれ以上の魔物は呼び出せまい。
『遊歩』で急行、フワリと着地する。
「お、ま、た、せ!」
「いいだろう、悪くない」
「御主人、すごいドラゴンだぬ!」
「本当だ。でっかいねえ」
イビルドラゴンより一回り大きいやんけ。
こんなドラゴンがいるんだなあ。
漆黒の体躯に言いようのない威圧感を感じる。
「……ブラックデモンズドラゴンです」
クララの声も緊張を帯びる。




