第619話:デミアンの至急クエスト
――――――――――一三〇日目。
「ぐむう?」
朝、目は覚めたけど起き上がれない。
いや、布団が恋しいとかそーゆー系じゃなくてさ。
身体がメッチャ重いんだけど?
何だこれ?
初めての経験だな。
「ユー様、どうしました?」
「何だかとっても体が重くて切ないの。恋かしら?」
「あはは、きっと食べ過ぎですよ」
「そーだったかーって、一瞬納得しそうになったわ!」
食べ物はすぐパワーに変換されるわ。
イッツ美少女精霊使いクオリティだわ。
じゃあ何だ、これ?
「カゼですか?」
「いや、美少女はカゼ引かないって言うから」
「美人薄命とも言いますよ」
「大変だ、命が死んでしまう!」
こら、笑うな。
しかしどういうことだろう?
頭もカンも働くし、病気の感じはしない。
とゆーことは……?
「正体わかんないけど状態異常っぽいな。クララ、悪いけど『キュア』かけてくれる?」
「えっ?」
「クララの『キュア』は割と何にでも効くから」
精霊の白魔法は特別なのか、あるいはレベルが高いからなのかはわからない。
けど本来基本八状態異常にしか効果のないはずの治癒魔法が、クララだと結構色々効く気がするんだよな。
「えへへー、いきますよ。キュア!」
おーやっぱり効く。
素晴らしい。
まだちょっと頭重いかな。
「もう一発お願い」
「はい、キュア!」
「よーし全快! 美少女精霊使いふっかーつ! ありがとうクララ!」
さて、今日は楽しい凄草株分けの日だ。
「おっ、ユーちゃん御機嫌だな」
「カカシもわかる? 今日焼き肉パーティーの日だからさあ」
「え? 魔物退治って言ってなかったかい?」
「別名は魔物退治だね」
風もないし天気もいい。
実に焼き肉日和だわ。
さっさと作業を終えて朝食をいただき、さあ出発だ!
◇
「サイナスさん、おっはよー!」
「やあ、いらっしゃい。持ってるのが例の空箱だな?」
「うん、サイナスさんも試してみてよ」
灰の民の村のサイナスさん家にやってきた。
クエストで得た宝箱の空き箱もだ。
鮮度が落ちにくい不思議な箱のような気がするので、うちでも実験中なのだ。
「アレクは?」
「もう来るんじゃないかな」
今日は輸送隊員の貴重な実戦機会という側面もある。
レベル的に人形系の魔物以外は苦戦したりしないだろうが、経験とゆーものも必要なのだ。
あ、来た来た。
「輸送隊として働いてるからか、ひ弱なキノコってイメージはなくなったねえ」
「自分がひ弱なキノコというイメージだったのは知らなかったけど」
「自分のことはなかなかわかんないもんだ。あたしは自分が可憐な花を咲かせる植物というイメージだってことは知ってるけど」
「果敢な食獣植物だよ?」
アレクが笑う。
まったく失礼な。
草食魔獣は大体美味いから、食獣の部分は否定しない。
「明日、緑の民の村行こうよ。サイナスさんにも了承取ってるから」
「いよいよ札取りゲームの印刷?」
「うん。いい技術があればいいなあ。完全版の試作品を作ってヨハンさんに見せたい。流れで緑の民族長家とヨハンさんの和解に持っていけたら最高」
アレクが少し考えたように言う。
「緑の民か。ユー姉にしては辛抱して物事進めてるよね?」
「でしょ? だからドラマチックな展開が欲しくなるんだけれども」
「おいおい、かき乱すのはやめてくれよ?」
サイナスさんからストップがかかった。
小心者め。
もっともあたしもここから強引に行くと面倒になる気はしている。
「行こうか」
転送石碑のある緩衝地帯へ。
◇
「おおう、たくさん集まってくれてるねえ」
「ハハッ。君の出資のおかげで日当も出るしな」
日当出るのは実際に働く人だけだろ。
それ以外はたっぷりお肉で満足しろ。
……あれ? あの目立つ黄色いマントは?
「デミアンじゃん!」
「やあユーラシア。悪くない。今日はよろしく」
『ジーニアス』の固有能力持ち、天才冒険者デミアンだ。
何故こんなところに?
「『アトラスの冒険者』のクエストで来たとのことだ」
「あ、フェイさん。紹介は終わってる?」
「ああ」
「悪くない」
あんたら意思疎通できてるか?
「石板クエストなんだ。『クー川右岸魔物退治:至急』という。悪くないだろう?」
「至急? デミアンが派遣されるほどの?」
どーゆーことだろう?
「あらかじめ生息する魔物の種類は調べてもらってるんだ。人形系以外は中級冒険者クラスで十分倒せるはずなんだけど?」
「吾輩にもわからん。が、かつて『地図の石板』が誤って配信された例はない」
デミアンの言う通りだ。
ということは……。
「思ったより苦戦する要因がある?」
「おそらく。悪くないだろう」
ええ?
焼き肉パーティーがお流れになったら泣けるんだけど。
「ユーラシア。ちょっといいか」
フェイさんとサイナスさんが地図を持ち出している。
「大きく二手に分ける。一隊はクー川に沿ってどんどん遡り、水をどこから引き入れるか決定する。こちらには俺が同行する」
当然だ。
フェイさんが判断するのが一番いい。
「もう一隊は平原側から大柵を設置していく者達の護衛だ。戦える者をどう配分したらいい?」
「緑の民のオイゲン族長とエルマ、それから眼帯君呼んでもらえる?」
すぐさま三人が集められる。
「オイゲンさんは何か防御力無視系のスキル持ってたかな?」
「『経穴砕き』ならば使えますぞ」
ふむ。
「デミアンは防御力無視技持ってるよね?」
「『経穴砕き』と『勁流破』だな。悪くないだろう?」
『勁流破』とは、敵単体に衝波属性強攻撃を放つバトルスキルだそうな。
さすがにいい技持ってるな。
「眼帯君は『狂戦士』っていう、魔法を覚えられない代わりに、物理攻撃によるダメージにボーナスがつく固有能力持ちなんだ。文字通り解釈すれば人形系にも有効のはず」
「つまり、人形系レアにダメージを与えられるのは、ユーラシアのパーティーを除けば、吾輩を含めたこの四人ということだな?」
「そうそう。デミアンには柵を設置していく人達の護衛任せていいかな?」
「うむ。悪くない」
高レベル者であるデミアンに至急クエストが出ているなら、何かハプニングが起きると見るべき。
倒しづらい人形系が出現して隊列崩されると、被害が大きくなっちゃうかもしれない。
人形系を倒せる人員をきちんと配分しとくべき。
平原側にデミアンがいてくれれば、何かあっても適切に対処してくれるだろ。




