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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第612話:バアルのお話

「おう、ちょっと席を外せ」

「「はい」」


 イシュトバーンさんがお付きの女性を下がらせる。

 あたしに言っておかなきゃいけないことがあるって前に言ってた。

 そのことに関してかな?


「今回の独立戦争、実際には戦争にならなかったが、裏で絵を描いてたやつがいたってことは知ってたか?」

「悪魔バアルのこと?」

「美味いぞ、この酒」


 あたしの持ってきた海底のお酒を飲みながら続けるイシュトバーンさん。


「バアルについて、誰に聞いた?」

「さっき話に出たリモネスさんに聞いたのが最初かな。ドーラに帰ってきてから、聖火教礼拝堂でミスティさんにも聞いた」

「そうか。オレも知ってたんだが、あんたに話すことをパラキアスに止められててな」

「ミスティさんも似たようなこと言ってたよ。あたしがバアルに夢中になっちゃうと困るからって。どんだけ信用ないんだ」

「事実だろ?」

「事実だけれども」


 アハハと笑い合う。

 エンタメがあると優先させたくなっちゃうのはお約束とゆーやつだ。

 ヴィルは黙ってダンテにくっついている。


「知ってるなら話は早い。あんたのことだ、バアルについても調べてるんだろ? 面白い話あったら聞かせろよ」

「一〇〇年以上前の話だけど、バアルが海の一族の内戦に干渉して、何倍もの死者が出たって女王が怒ってたよ」

「らしいな」


 これは知ってたか。

 色々調査させてるんだなあ。


「その時ヒバリさんっていう、パワーカード使いのノーマル人率いるパーティーが海の王国に助太刀して勝ったって話だよ。ヒバリさんは聖属性のカード持ってて、バアル相手に優勢に戦ってたけど、惜しくも逃げられちゃったんだって」

「ほう?」

「でさ、あたしはそのヒバリさんにそっくりなんだそーな」

「ハハハ、確かに面白え話だな」


 イシュトバーンさんがずいっと身体を乗り出す。


「オレの方からも、一つネタを提供しよう。アルハーン平原クー川右岸域の魔物掃討作戦ってあっただろ? あれ、参加者に内容知らせずにいきなり始めたのは、バアルが手を出してくる危険があったからなんだ」

「マジか」


 ビックリだよ。

 でも確かに悪魔に首突っ込まれると面倒になるって話があったわ。


「バアルの動向を注視している聖火教からの進言でな、電撃的な作戦になったんだ」

「ふーん。あたしは掃討戦楽しかったし、いろんな人と知り合えたからいいんだけどさ。悪魔の思惑に踊らされる余地があったってのは面白くないね」

「あんたはそう言うと思ったぜ」

「もう一杯どーぞ」

「お、悪いな」


 イシュトバーンさんにお酌する。

 掃討戦の時点で高位魔族にちょっかい出されてたら危なかった。

 内緒の電撃作戦にしたのは正解だと思う。

 今でこそレベルも上がってるし、ヴィルと出会って悪魔がどういうものかの理解があるけれども。


「今回ドーラで唯一戦場になった塔の村だけど」

「ああ、西の果てだな? パラキアスの言ってたメキス中佐が攻め込んだんだったか?」

「うん、メキスさんはもともと第二皇子の発案で組織された情報収集部隊の隊長で、『隠密』の固有能力持ち。で、第二皇子とバアルが直接繋がってるのを見てる。メキスさんがそれを知ったのは二年くらい前だって」


 イシュトバーンさんの顔が険しくなる。


「おいおい、皇子の功名心を利用したとかじゃなくて、ダイレクトにつるんでるのかよ? 第二皇子って次期皇帝の有力候補なんだろ? まだドーラの危機は去ってないってことか」

「うーん、でも帝国は砲撃もしないでさっさと引き上げたじゃん? だから第二皇子がバアルに操られてるわけじゃないと思うんだよね」


 バアルの思惑のみなら、悪感情を得るために砲撃させたに違いない。

 ちょっとこの辺の事情はよくわからんけれども。


「あっ、あんた第二皇子がバアルとつるんでるの知ってたから、在ドーラ大使の第四皇子をチヤホヤしようとか言い出したんだな?」

「御名答。第四皇子を送り込んでおいて、帝国がドーラに難題を吹っ掛けてくるとするでしょ? 第四皇子にヘイト集めさせようとする策に決まってるから、惑わされないようにしようねってこと」


 第四皇子が窮地に陥ることは、次期皇帝を争う第二皇子のメリットになる。

 第四皇子がドーラを嫌うようになれば、さらにバアルがほくそ笑む、ってな構造だ。

 バアルは搦め手から仕掛けてくるんじゃないかと思うが、そーは問屋が卸さん。


「全然説明が足りねえよ!」

「いやー、パラキアスさんはすぐに気付くと思うよ?」


 あの人の洞察力尋常じゃないからな。


「メキスさんが言うには、バアルがいようがいまいが、第二皇子の酷薄な性格も悪魔に魅入られやすい性質も変わらないから危ういだろうってさ。メキスさんの意見はともかく、単純にドーラに軍送ろうとした人が皇帝になるのは嫌だから、他の人にしようよ」

「……」


 呆れたような目で見んな。


「メキスさんの組織から流れてた情報がなくなるから、第二皇子の政治力の優位性はかなり失われるんだって。後継者レースにも影響が出るんじゃないかな。ってこともあって、政治手腕を警戒されてる第四皇子がドーラに島流しなんだろうけど」

「……」

「帝国本土にいる第二皇子を何とかするのは難しい。でもライバルの第四皇子に功績を挙げてもらうことも、その功績を誇張して宣伝することもできるじゃん? いや、第四皇子がいい人だったらっていう前提だけどさ」

「よくわかった。第四皇子を持ち上げる方が、ドーラにとって都合がいいんだな?」

「うん。帝国と仲良くするために都合のいい皇帝がいい」


 普通に考えりゃ皇位継承権一位の第一皇子が次の皇帝だ。

 でも病弱だって話だからな。

 第二皇子が摂政になるんじゃ状況変わんないし。


「でさ、リモネスさんやミスティさんが言うには、あたしがバアルの楽しみを潰しちゃったよーなもんだから、恨み買ってるんだってさ」

「あんたにとっちゃ、悪魔の一匹や二匹、どうってことねえだろ?」

「負ける気はしないけど、こっちのマジックポイントを使用する魔法やバトルスキルの使用を禁止する、えらい厄介な能力持ちみたいなんだよねえ。しかもいろんな属性に対して高耐性」

「よく調べてるじゃねえか」

「まあ美少女精霊使いに相応しい調査能力は発揮するよ」


 あ、ヴィルが来た。

 よしよしいい子だね。

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