第604話:イコールお給料に影響しない
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「うん、こんにちはー」
あたしの住んでいるところでも雨はやんでいる。
クララが御飯の用意を、アトムとダンテが空宝箱を灰の民の村に運んでる間に、あたしはチュートリアルルームに来た。
「新人さんは?」
「まだ来てないのよ」
「チュートリアルルームに一度も来ないまま、『アトラスの冒険者』の資格剥奪ってこともあり得るんだよね?」
「もちろん。私がここに赴任してからは、そういうケースは一度もないけれど」
バエちゃんも心配そうだ。
「まあ、一ヶ月余裕があるんでしょ? まだ二日目だし」
「で、でも今まで全員初日に来てたから」
「たまたまバエちゃんが初日っ子に当たってただけだって」
つーかあんな怪しい転送魔法陣に、全員初めての日に足踏み入れたのかよ?
むしろそっちのがビックリだわ。
「昼御飯食べてから損害賠償請求しに来てくれる方が安心する」
「もーあたしのことは忘れてよ」
いつまであたしの新人時代のことを引っ張るんだ。
といってもたったの四ヶ月前のことなのか。
しかし落ち着きのないバエちゃんは鬱陶しいな。
「どんだけソワソワしてるんだ。大丈夫だから深呼吸でもしなよ」
「う、うん。本当に大丈夫かしら?」
「根拠のある大丈夫だぞ?」
「根拠? どんな?」
「新人が最初の転送魔法陣に入ってくれるかくれないかなんてのは、バエちゃんの能力に関係ないじゃん。つまりこのまま一回もチュートリアルルームに来なくて脱落ならば、バエちゃんに責任はない。イコールお給料に影響しない」
鱗の落ちた目をしながらポンと手を叩くバエちゃん。
「ユーちゃん頭いい!」
「安心した?」
「したした!」
いつも通りのバエちゃんに戻ってよかった。
ソワソワされるとこっちも気が急くからな。
……バエちゃんも新人の選定には関わってるはずだ。
何で転送魔法陣に入らないようなやつを『アトラスの冒険者』に選んだ、とゆー責任からは逃れられないと思うけど、言わんどこ。
「ところでピンクマンは今日来てた?」
「昼に様子を見に来たわよ。サフランさんと一緒に」
「よしよし、いい感じだね」
「ユーちゃんはあの二人をくっつけようとしているの?」
「必ずしもそーゆーわけじゃないんだ。けどくっつくのが自然かなと思ってる。お似合いだと思わない?」
「思うわ。カールさんの方がその気じゃないんだっけ?」
「まあね」
ピンクマンはロリ専だからね。
「今日は帰るよ。明日も様子見に来るから」
「わかった。またね」
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後、寝る前恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「族長会議はどうだった?」
『全く問題ないな。やはりクー川上流から水を引くから、君と輸送隊の都合のいい日に魔物退治をお願いしようってことになった』
「あたしは天気さえ良ければいつでもいいよ。予定決まったら何日か前に教えてよ」
『わかった。クー川中流~上流域に生息する魔物の情報はいるかい?』
「必要だね」
『掃討戦で出現した魔物に加え、突進熊を筆頭とする魔獣系、モンスターイーターを筆頭とする植物系、グロウビートルを筆頭とする昆虫系、ヒットポイント四までの人形系ということだ』
「……人形系がヤバいね。輸送隊じゃ対処できない。緑の民のエルマも呼んでおいてよ。人形系が群れてても一撃で倒せるスキルを持ってるんだ」
衝波属性の全体に五〇ダメージずつ与えるバトルスキル『ストライク五〇』だ。
輸送隊に緑の民は参加してないから、エルマが参加すること自体に各村のバランス上意味がある。
『了解だ。緑の民オイゲン族長に話を通しておこう』
「クエストっぽくていいなあ。突進熊は割とおいしいんだよ。終わったら焼き肉パーティーしない?」
『ハハハ、まあ提案はしておくよ』
賛成者なんか多いに決まってる。
楽しみが増えたぞー。
『レイノスの新政府はどうだったんだ?』
「全然問題ないなー。最初オルムスさんがテンパってたけど、結局レイノスだけちっちゃくまとめて、移民にお金かけようってことになった」
『目論見通りだな?』
「うん。でもパラキアスさんも同じこと考えてたみたい。イシュトバーンさんの説によると、オルムスさんにへそ曲げられるとレイノスすら機能しなくなるから、あたしが来るのを待ってがーっと説得するつもりだったんだろうって」
『なるほどな』
「方針さえ決まればパラキアスさんが動くだろうから、西域のバルバロスさん以外は大丈夫だな」
『『西域の王』か。バルバロス氏はどうなんだ?』
「会ったことないからわかんないよ。でも西域に回すおゼゼないから別にいいな」
レイノスがかっちり治まっていて、貿易と移民の受け入れさえしっかりやってくれれば当面オーケーだってばよ。
塔の村はデス爺が押さえてて発展途上なんだから、西域街道の人流物流だって活発化するのだ。
「面白いことがわかったよ。今度在ドーラ大使として赴任してくるのが、帝国の第四皇子なんだ。現皇帝は病が篤くて亡くなりそうなんだけど、この第四皇子が次期皇帝のダークホース的存在で、しかもドーラにとって都合がいい人だから協力して功績挙げさせよーってことになったの。でも新政府が表立って帝国の主席執政官第二皇子には逆らえないじゃん? で、あたしが任された」
『君、帝国の皇位にまで干渉しようとしてるのか?』
「干渉なんてできないよ。でもこのままだと、ドーラに戦争吹っ掛けてきた第二皇子が摂政か皇帝になっちゃうんだって。第四皇子が大使になったのも、帝国の中央政治から遠ざけられて飛ばされたんだろうってことだから、一泡吹かせたくなるじゃん?」
『ははあ、君の好みの展開にしたいってことだな?』
「そうそう、愉快な方向に転がしたい」
『ほどほどにしておけよ?』
「この件は全力で行くよ」
ドーラの今後を左右する、一番重大な案件かも知れないからな。
新大使の第四皇子は一〇日以内に来るってことだった。
どんな人だろう?
「じゃ、サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はどーしよ?
まずギルド行って魔法の葉を処分するのが先か。
まったくこんなもんが大量にあると始末に困る。




