第603話:『閃き』も万能ではない
感心する海の女王。
「当面の敵であった帝国相手に上手にやったのだの」
「うん、結果としては最高だった。やっぱり商売できないとつまんないからね」
帝国戦については、必要な情報を得られて先手先手を打てたことが大きい。
まあラッキーだ。
女王が読めない表情で見てくる。
「しかし……おんしが悪魔バアルに恨まれておるのじゃろ?」
「みたいだねえ」
戦争があたしのせいで肩透かしに終わったから、かの高位魔族があたしを根に持ってるかもしれないとのこと。
正直、バアルの思惑なんか知ったこっちゃないんだが。
目の前に現れて邪魔するんだったら排除したるわ。
でも考えてみればあたし達も結構なレベルの冒険者だし、わざわざ危険を冒してまで出てくるかなあ?
「悪魔バアルにも会ってみたいけどね」
「あれほど余裕ぶって憎々しげなやつも稀じゃぞ」
「そーか。肉々しげな子の方がよかったなあ」
アハハ。
バアルについては不確定要素も多い。
とゆーか完全に向こうの出方待ちだ。
準備はしておくが、どうなるだろうな?
「ごちそうさまっ! お腹一杯だー満足だ!」
「うむ、ではわらわが商店街を案内しようかの」
「いいの? じゃお願いしようかな」
五番回廊を皆で進む。
◇
「陛下、この辺が魚醤ですぞ」
「うむ、すまんの」
「ふーん、魚醤ってかなりいろんな種類があるんだね?」
「そうですな。魚の種類や発酵時間にもよります」
海底ではメジャーな調味料なんだな。
魚屋さんに並ぶビンに迷う。
説明もなるほどなのだが、あたしらじゃ選べないな?
「どれが初心者向きってある?」
「特別どれがどうとは……」
「じゃあ一番量産しやすいのは?」
「魚種ミックスで発酵時間短めのやつですな。年中作っておりまして季節で味も変わりますが、逆にフレッシュでいいという者も多く、人気商品ですよ」
「うん、じゃあそれだな。一本ちょうだい」
「へい、毎度!」
旬の味がある調味料って面白いな。
魚醤は暇な時研究してみよう。
帝国には既にあるものかもしれないけど、ドーラの食生活は豊かになりそうな感じだ。
「姐御、これを……」
「ん? アトム何?」
酒屋? あっ、こんな店あったんだ。
「酒は場所場所で個性が出やすぜ。珍しい海底の酒ともなれば、呑み助どもが放っちゃおきやせん」
「一理あるねえ」
アトムは自分で飲みたいだけだろうけどな。
ん? でもこのお酒どうやって造ってるんだ?
「お酒って植物を発酵させるんでしょ? 海底でもできるの?」
「海藻を原料としているのじゃぞ」
ほう、海藻酒なんてものがあるとは。
バエちゃんとイシュトバーンさんのところへも持っていってやるか。
「三本ちょうだい」
アトムが小躍りしてるけど、あんたの分は一本だけだからな?
「うん、ありがとう。今日は収穫が多かった。帰るよ」
「うむ、またの。美味い肉を心待ちにしておるぞ」
「すっかりお肉調達係だよもー」
皆で笑い、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おお、宝箱の部屋よ。今日もありがとう!」
「お礼はまだ早いですよ?」
「昨日と同じやり取りでやすぜ?」
「ラブアンドピースね」
ダンテのわけわからんラブアンドピース発言を、穏やかな心で包んでしまえるほどハッピーだ。
宝箱とは何と素晴らしいものだろう。
「よーし、クララが立札読んでる間に、銅鑼を設置するよ」
「へい!」「オーケー、ボス!」
飛空艇から盗……もとい回収してきた、杭みたいに太い釘を取り出す。
壁に打ちつければいいな。
ガッツンガッツンガッツン!
「いけるいける、刺さる刺さる!」
ガッツンガッツンガッツンガッツンガッツンガッツン!
「これでバッチリだ! 銅鑼をかけておこう」
うんうん、いいじゃないか。
銅鑼の魅惑的なフォルムはこの部屋でも映える。
「アトムダンテ、叩いてみる?」
「じゃああっしから叩かせていただきやす」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
あっ、思ったよりいい音が出る!
かなり反響するぞ、ここ。
「いいねえ、心震えるじゃないか。ダンテもいっちゃって」
「イエス、ボス!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
煩悩を払うというか魔を払うというか。
心が洗われる気がするよ。
スッキリするなあ。
「ユー様、私もガンガンします」
「何、クララも鳴らしたいの?」
「はい」
もークララったら、さっきも海の王国で鳴らしてたのに。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「姐御はガンガンいかないでやすか?」
「今日はいいや。聞いただけで満足した。いつでも叩けるかと思うと、心に余裕ができるね」
意外そうなうちの子達。
どんだけあたしが本能のままに生きてると思ってるんだ。
「さーて、宝箱開けるよー」
「「「了解!」」」
今日は五つの宝箱が並んでいる。
真四角の四隅と真ん中だ。
「一人一個ずつ開けようか。当たりは真ん中のやつね、それ以外で」
今日もうちの子達は嬉しそうだね。
三人が蓋を開ける。
「魔宝玉でやす! 翡翠珠!」
「『バロールアイ』! レア素材です!」
「リングね! マジックパワーを感じるね!」
「よーし、あたしも開けちゃうぞー」
あたしの出番だ。
今日のトリだから、きっと素敵なお宝が待っているに違いない。
たーのしみだなー。
重い蓋をでやっと外し、中にあったのは……。
「ぎゃーハズレだっ!」
何事だと集まってきたうちの子達が状況を把握し、笑う。
「魔法の葉。が、箱一杯ですか?」
「何なの? 冗談じゃないよ。精神攻撃?」
メチャメチャ不味いこと知ってから、あたし魔法の葉大嫌いなんだけど。
何故あたしとしたことが、この惨状を察知できなかったか?
『閃き』の固有能力も万能じゃないんだなー。
「でもこれだけありやすと、かなりの金額になりやすぜ?」
「かもしれないけど、あたしの繊細な心が傷ついたことはどーしてくれるんだ!」
「メニーマネーがハートを癒すね」
「何かそんな気もしてきたけれども!」
こら、笑い事じゃないぞ!
誰がザクザク宝箱の主催者か知らんけど、絶対許さん!
慰謝料を取り立ててくれる!
「ユー様、空箱も回収していってよろしいですか?」
「うん、もちろん。じゃあ帰ろうか」
「「「了解!」」
ここは天国だと思ったのに、今日は裏切られた気分だ。
真ん中に配置されていた宝箱一個を残し、転移の玉を起動し帰宅する。




