第602話:肉々しいやつ
「昼飯食っていけよ」
「ゴチになりまー……あっ、今日ダメなんだった!」
行政府では大変有意義な話し合いができたと思う。
イシュトバーンさん家までの帰り道でのこと。
ごちそーになりたいのは山々なのだが。
「海の王国行くんだよ。女王と食事するの」
「あんたはあっちこっちに行けて羨ましいぜ。ウミウシの女王ニューディブラだったか?」
「そうそう」
「どんな人だ? 画集のモデルになるのか?」
「女王か。考えてなかったけど、いいかもしれないな」
ドーラ発の美人画集なら、亜人も含んでの方が特徴が出て面白い。
帝国に輸出した時のことを考えると、ウケがいい気がするな。
「イシュトバーンさんの感覚で美人かどうかわからんけど、魅力的な人であることは間違いないよ」
「そうか。楽しみだな」
あれっ?
美人であることより魅力的な人であることの方が優先順位が上なのかな?
「夜はどうだ?」
「ダメだなー。昼目一杯食べる予定だから、夜中途半端にしか入らない」
「腹具合いが行動を決定するのかよ。理屈が精霊使い過ぎる」
アハハと笑い合う。
「明日の夜行っていいかな? お肉お土産で」
「おう、待ってるぜ」
「正体のわかんないアイテムが手に入ったんだよね。持ってくから何だか教えてよ」
「ん? 帝国で手に入れたのか?」
「いや、今請けてるクエストで手に入れたの。まだ継続中でさ。どんどんお宝がいただけそうなビッグチャーンス!」
「ほう?」
だからそのえっちな目やめろ。
「あんたのクエスト、ビッグチャンスが多くねえか?」
「多いねえ」
魔宝玉クエストも大儲けだったしな。
今回も主催者を破産させるくらいの意気込みで臨まねばならない。
「かなり変なクエストなんだ。明日ゆっくり話すよ」
「おう、オレもあんたに言っておかなきゃいけないことがあるしな」
「えっ? お迎えが近いの?」
「違えよ!」
「画集急がないと!」
お付きの女性達が笑う。
イシュトバーンさんが言っておかなきゃいけないことって何だろう?
気にはなるが、ちょっと見当がつかないな。
「今日行政府で言いたい放題だったじゃねえか。今まで以上に」
「そーだったかな? 帝国本土で結構な仕事やらせといて、敢闘賞も殊勲賞も技能賞も出ないからイラッとしてたかも」
しかしあたしもドーラのスポンサーになった。
やりたい放題やるぞー。
さて、イシュトバーンさん家見えてきたし。
「じゃ、あたし帰るね」
「おう、明日な。飛ぶパワーカード忘れんなよ」
「わかってるって」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
コブタマンを狩って海の王国に来た。
お肉のストックはまだあるんだけど、ここへ来る時はたくさん持ってきた方がいいしな。
「さて問題のこいつだ。ワクワクするねえ」
言わずと知れた魅惑の銅鑼だ。
叩けと言わんばかりの素敵なフォルム。
「たまにはあたしもじっくり聞く側に回ろうかな。ガンガン鳴らしたい人!」
「「「はい!」」」
おお、皆やりたかったのか。
最近の言動からそんな気はしてたけど。
精霊にも通用する銅鑼の魅力。
「ジャンケンで決めて」
あ、クララが勝った。
嬉しそうだな。
「アトムダンテは次その次があるさ。さあ、クララ、いってみようかあ!」
「はい、いきますよお!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
女王が転げ出てくる。
「肉々しいやつだな?」
「肉々しいやつだよ!」
「いやっほお!」
だから何で女王が真っ先に出てくるの?
海の王国は警備体制見直せよ。
衛兵達が台車でコブタマンをえっちらおっちら調理場へ運んでいく。
「おんしらも食べていくのかの?」
「うん、今日は御馳走になるよ」
「さようか。皆で食べる方がより美味いでの」
女王嬉しそうだな。
普段はいつも一人で食べているんだろう。
「あの銅鑼って売ってもらえないのかな?」
「銅鑼? 警報用のか。どうしてじゃ?」
「すげえいい音するからさあ。気に入っちゃって」
「商店街で販売もしているが、ちょうどここに予備のが一つあるから進呈しようぞ」
「えっ、いいの?」
「構わぬ構わぬ。いつも肉をもらっておるからの。心苦しく思っていたのじゃ」
「やったあ! ありがとう!」
早速ザクザク宝箱の部屋に取りつけてガンガン鳴らそう。
ここほどじゃないと思うけど、あそこでも結構響くと思うんだよね。
気兼ねなく何度でも鳴らせるし。
「あ、料理来やしたぜ」
「今日は趣向を変えた調味料を用意しておる」
ほう、楽しみだな。
「見た目は醤油に似てるけど、臭いは違うな」
海底の調味料だけに、魚っぽい感じがする。
焼き肉につけて、と……。
「おいしい、けど……」
「悪くないの。じゃが……」
「お肉の脂とケンカする感じだねえ」
「うむ。この試みは失敗じゃったか」
肩を落とす女王。
失敗ってほどでもないと思うが。
「何なの? この調味料」
「魚醤という。魚を塩に漬け込み発酵させたものじゃ」
ふうん?
「これ、商店街で売ってるのかな?」
「ん? もちろん売っておるが」
「買っていくよ。旨みが強いところはとてもいい。ちょっと研究したい」
魚料理には問題なく使えるだろうし、野菜との相性も良さそう。
酢と合わせるのもありなんじゃないか。
「おお、地上で売れる見込みがあるのかの?」
「うーん、独特の魚臭さがあるから、ドーラで売るのは難しいかな。でも帝国は魚食に抵抗ないから、あっちには売れるかもしれない」
「帝国か。ドーラの独立の仕方が上手かったとはおんしから聞いたが、そううまくいくのかの?」
女王が首をかしげる。
「説明が難しいんだけど、帝国が対ドーラ戦で考案していた二つの作戦計画があったんだ。それを裏で潰して帝国に何もできなくしたから、表向き平和裏にドーラは独立したことになってるの」
「ほほう、ということは?」
「帝国はドーラの独立を鷹揚に許してやった、とゆー体裁なんじゃないかな。だから断交なんてことになると理屈に合わなくて、帝国政府が反対派にガンガン言われて苦しくなっちゃう」
「面白いの」
「移民と貿易も復活する見通しだよ。海の王国からも輸出できそうなものがあったら教えてよ。ガンガン輸出して大儲けするんだ」
貿易額が大きくなるほど、関税なり手数料なりでドーラ政府も潤うしな。
となれば直に、オルムスさんの思い描いている社会も実現できるかもしれない。




