第601話:笑って解散
『遊歩』のパワーカードは飛べるってだけでワクワクする。
パラキアスさんみたいなあちこち行く人にとっては、移動手段としてすげえ有益だろ。
「使用上の注意点が二つあるよ」
「うむ、聞こう」
「飛行魔法はレベルが高いほどコントロールが難しいんだ。イシュトバーンさんはスイスイ飛べると思うけど、パラキアスさんは最初戸惑うと思う。練習は外でやってね。ペペさんが屋内で使って、もんのすごい勢いで天井に頭ぶつけたって聞いた。でも何分か使えばコツを掴めるよ」
「もう一つの注意点は?」
「パワーカードに共通する注意点だよ。武器や防具、マジックアイテムの効果と干渉することがあり得るんだ。何が起きるかわかんないから、『遊歩』で飛んで空中戦とかは考えない方がいい」
「わかった」
パラキアスさんも嬉しそうだ。
これまで移動に使ってたムダな時間が、一〇〇分の一くらいに短縮されるもんな。
「他の輸出品として、あたしは服とか本とか考えてるんだ」
「服ってあれか、青の民の別嬪さんの」
「そうそう。帝国にはないだろう、機能的で目新しいファッションだからね、当たれば大きいって考えてる」
セレシアさんの服のメインターゲットは、上流階級のお嬢さん向けだ。
ドーラ自体の地位を上げないと、田舎国のファッションなんてと見向きもされないおそれがある。
かなり扱いが難しいけど、どー考えてもドーラより帝国の方がお客さんが多いと思う。
売り込み方にかなりの注意を要す。
「本とは?」
「オレの画集だぜ」
頭に疑問符をこさえるパラキアスさんとオルムスさん。
これも説明が必要だな。
「以前、イシュトバーンさんの絵が載った新聞が売り切れたことがあったんだ」
「ああ、あの艶めかしい女性の!」
オルムスさんは知ってるみたいだ。
「つまり女性画の画集を作って売るということだね?」
「オレもさっき頼まれたんだ。腕が鳴るぜ」
「イシュトバーンさんの前傾姿勢が止まらないんだよ。企画倒れにさえならなきゃ、爆発的に売れると思ってる」
値段と印刷技術次第なんだけど、新聞に載せた絵でさえメッチャ売れたっていう実績があるからな。
画集にしたらそりゃあもう大変なことになっちゃうわ。
「確かに画集なら字を読める読めないは関係ないな!」
「そゆこと。字の読めない人でも本屋に来るきっかけになると思う。ところで帝国本土の識字率ってどのくらいなんだろ?」
「二割以下だな」
「ドーラと似たようなもんか」
「帝都メルエルのような都会は識字率高いが、農村は一割に全然届かないところが多いんじゃないか」
マジでドーラに似た状況だな。
「今、遊んでりゃ字を覚えられるゲームを作ってもらってるんだ。今年早い内に出せるから、これも輸出できるかな?」
「君、どれだけいろんなことやってるんだ!」
皆で大笑い。
あたしがやってるんじゃなくて、頼んでやってもらってるの。
いやあ、いい雰囲気になって良かった。
「ユーラシア君の方から聞きたいことはあるかい?」
「あるある! 移民は優先すべき人を選べるかな?」
「ん? どういうことだい?」
「畑は用意できても、蒔く種が足りないんだよ。特に穀物の。種をたくさん用意できる人、春までに来て欲しい」
「なるほど、了解だ。早速手配する」
「それから新任の帝国の在ドーラ大使、実務的な人中心に人選進んでたのが白紙になったって聞いたんだけど、どういうことか知らない?」
あれ、パラキアスさんとオルムスさんが困惑気味ですね?
「今朝の速報だが、第四皇子ルキウス殿下が派遣されてくることに決まった。一〇日以内だ」
「あっ、ラッキー! 次席執政官の人だよね? 第四皇子優秀だからチヤホヤしよう!」
パラキアスさんが驚く。
「君知ってるのか?」
「塔の村に攻め込んだ潜入工作兵の隊長が、元々情報畑の人なんだよ。その人に教えてもらったんだ。今の皇帝は長くない、注目されてないけど第四皇子は次の皇帝に向いてると思うって」
「メキス中佐か。私には込み入ったところまで話さなかったが、君はよほど信頼されたんだな」
「こいつは懐に入り込むの得意だぜ?」
パラキアスさんが腕を組む。
「……とすると、主席執政官である第二皇子ドミティウス殿下は、皇位継承権一位であっても病弱な第一皇子ガレリウス殿下をライバルとは見ていない?」
「仮にガレリウスが皇位に就いたとしても、ドミティウスは摂政を兼ねるだろう。皇帝の権力と変わらんと考えているんじゃないかね?」
「自堕落な第三皇子セウェルス殿下には大貴族や国民の支持がない。カレンシー皇妃の皇子達は年若。地味だが実力のあるルキウス殿下をライバルと見てドーラに飛ばした……」
「繋がったね。構図が見えた」
パラキアスさんとオルムスさんが腑に落ちたような顔をする。
「チャンスじゃん! 第四皇子に実績を上げてもらって、第二皇子を追い落とそう!」
追い落とすことはムリでも、第二皇子を掣肘する立場にまで第四皇子を押し上げることは可能なんじゃないか?
「どうやって?」
「ぶっちゃければいいじゃん。第二皇子はドーラ侵攻を企てた張本人だから、次の皇帝になるとドーラにとって都合がよろしくない。よって第四皇子に味方することに決めたから、協力できることは何でも言ってくれって」
目を丸くするオルムスさん。
含み笑いするパラキアスさん。
そしてえっちなイシュトバーンさん。
「さほど時間もないと思われる。手っ取り早く信頼関係を築くには、こちらの立場を明確にしておくのもいいかもしれんな。その役目、君に任せていいだろうか?」
「うん、任された!」
さすがにドーラ新政府の人間が、主席執政官として帝国政府を事実上仕切っている第二皇子を挑発するような発言はまずいだろうからな。
ぶっちゃける役は、無位無官の美少女冒険者たるあたしが務めろとゆーことだ。
「じゃ、あたし帰る」
「やあ、ユーラシア君。僕も何かサッパリしたよ」
憑き物が落ちたようなオルムスさん。
「お土産置いてくね。これウインドスライダーっていう、空飛ぶ軍艦に積んでた非常用脱出装置。こっちは積んでた爆弾」
「随分物騒なものを置いていくんだな」
「爆発力自体も相当物騒なんだよ」
「精霊使いの存在が何より物騒なんだぜ?」
「可憐な美少女に何てことを!」
笑って解散となる。




