第600話:手間はかけるよ
パラキアスさんが聞いてくる。
「バルバロスはどうだ?」
「知らない。会ったことないから、どんな人だかわかんない」
ドーラの実力者とされるパワーナインの内、船団長オリオンさんと『西域の王』バルバロスさんには会ったことがない。
オリオンさんはパラキアスさんオルムスさんの与党らしいので、問題になるのはやはりバルバロスさんだな。
パラキアスさんとオルムスさんが、声を揃えて『『鬼だ』』と評する人だ。
一度会ってみたいものだが。
「バルバロスは保留でいいだろう。それより君、西域をどうしたいんだ?」
「どうもこうも。今は移民が来る掃討戦跡地をどうにかしなきゃいけないから、西域におゼゼなんかかけられない。基本現状維持」
「……もっともな意見だな。ならばバルバロスと対立することはあるまい」
西域の自由開拓民集落は自分で頑張ってちょうだい。
これはバルバロスさんの掲げる『自主自立』に通じるんじゃないの?
三人が頷き合う。
「おゼゼはかけられないけど、手間はかけるよ」
「「「え?」」」
「最初に出した超すごいお茶だけど、あれ西域の自由開拓民集落で栽培してるんだ。輸出品として最適だと思わない?」
「思うぜ。あれはいい。貴族向きだ」
そうだろうそうだろう。
「西域で特産品があったら掘り起こしたいんだよねえ。ドーラで使えるものも輸出できるものも」
西域でもカトマスに近い東部は、上手くやってる自由開拓民集落が多いと思う。
であってもザバンのお茶のような惜しい産物がある。
貧しい西部にも何かあるかもしれない。
となると西域を知ること、知らせることが重要かな。
「人口が多くなると、西域の人の行き来も自然に多くなるからさ。新政府でこの集落は安全だっていうお墨付き出せばいいと思う」
「待て待て、話が飛んだぞ? 端折るなよ」
イシュトバーンさんが口出してくるけど、あんた旅商人だったんだからわかるだろうに。
「リリー皇女がドーラ来た時に絡まれたところもそうなんだけど、今でも追い剥ぎ村盗賊村があるらしいじゃん? 西域って」
「……つまり?」
「移民で人口増えた頃を見計らって、西域ガイドマップみたいなのを新政府で発行するの。半年ごとくらいの頻度がいいかな」
「ははあ、金出した自由開拓民集落をガイドマップに載せて優遇する。さらにそれを買う旅人や商人からも金を取るっていう、阿漕な商売だな?」
阿漕じゃねーよ。
知見とゆーものはおゼゼになるんだよ。
「しかし……簡単に金を出すものだろうか?」
おや? オルムスさん、『新政府に信用がない』って言ったの引きずってますか?
「パラキアスさん、お金出してくれそーな自由開拓民集落に心当たりない?」
「ある」
「あたしもあたしの名前がついてる自由開拓民集落なら、おゼゼ出してくれると思う」
「あんたの村があるのか?」
「そこ元盗賊村だったんだけど、今は更生してる」
へえ、という顔だね。
「行政府がガイドマップ出せば、微々たるものながら収入になるし、信用にも繋がるよ」
「君、貿易についてはどう考えてるんだ?」
「ガンガン輸出してお金儲けしたい。逆に輸入した物品を優先してレイノスに融通しないと、税金取られる上級市民は納得しないだろうし、とにかく貿易を拡大することが必要」
「賛成だ」
「輸入したいものは一杯あるんだろうから、輸出したいものを取り揃えていかないとダメじゃん?」
だから西域の特産品の掘り起こしを進めたいのだ。
個々の自由開拓民集落の経済的自立にもドーラの発展にも繋がる。
これはバルバロスさんの考えとも対立しないだろ。
頷く三人。
「お茶以外だと輸出品として有望と、ユーラシアが考えているものは?」
「これはどうだろ?」
「……カード?」
「パワーカードだな」
あ、オルムスさんはパワーカード知らなかったか。
やっぱ知名度がないんだなあ。
「これねえ、温かくなるカードなの」
「それだけの効果なのか?」
「燃料もなしでずっと温かいと思うとすごくない? 火も出なくて安全だし」
「「「!」」」
ようやく価値がわかったか。
日常使用のパワーカードは有望だと思うよ。
職人の数が欲しいもんだ。
「……なるほど、面白い」
「パワーカードはドーラの独占技術だしな」
「エルフが独自に発達させたカードなんだ。今度作り方教えてもらえるの」
「ほう」
三人がしげしげと眺めている。
「逆に涼しくなるカードもあって、そっちも作り方教えてもらえることになってるんだ。でもパワーカード職人が少ないんだよねえ。手先器用でやる気のある人いたら紹介してよ」
「うむ、武器ではないパワーカードか……」
「こーゆーカードもあるんだ。パラキアスさん買わない?」
『遊歩』を起動し、身体を少し浮かせる。
「飛行魔法か!」
「普通の『フライ』と違う、ペペさん特製の飛行魔法だよ。『フライ』と違って効果は自分だけだけど、代わりに消費マジックポイントが少ないっていう。で、カード自体にマジックポイント自動回復がついてるから……」
「まさかコストなしで飛べる?」
「うん、便利でしょ?」
三人とも食いついてくる。
「便利なんてもんじゃない! 革命的な装置じゃないか」
「犯罪に使えることを考えると、あまり普及させたくないものだな」
「おい、精霊使い。オレにも売れ!」
三人の反応が違ってて面白いなあ。
「いや、欠点もあるの。飛行魔法はレベル依存なんだよね。だからこれ使うにはレベル二〇は必要。逆にパラキアスさんくらいのレベルがあれば、ここからカトマスまで一〇分で行けるよ」
レベルの足りないオルムスさんが残念そうな表情になったけど、パラキアスさんとイシュトバーンさんは興味津々だ。
「この飛行のパワーカードはどこで購入できるかな?」
「ドワーフのアルアさんの工房で注文できるし、ドリフターズギルドでも取り寄せできるよ。パラキアスさんはすぐ必要だと思ったからこれ売るけど。二〇〇〇ゴールドだよ」
「うむ、買おう!」
「ズルい! オレにも売れ!」
「仕事で使う人が先だってばよ。でもパラキアスさんとイシュトバーンさんは欲しがるのわかってたわ。既に二枚注文してあるの。今日届く予定だからあとでね」
「おう、さすがだな!」
子供みたいに喜ぶイシュトバーンさん。
ハハッ、女神のような叡智のあたしに感謝するがいい。




