第596話:ドーラの在り方
「サイナスさん、こんばんはー」
楽しい夕御飯の時間を過ごした後、寝る前恒例のヴィル通信だ。
チュートリアルルームにも行ってみたが、今日は新人さんは来なかったとのことだった。
あたしにムダ足を踏ませるとはいい度胸だと言ったら、何度もユーちゃんが来てくれると嬉しいわよ、とバエちゃんが笑った。
だから今日のところは勘弁しといてやる。
『ああ、こんばんは。今日は御苦労様だね』
「掃討戦跡地の開拓は任せたよ。上手に皆をこき使ってね」
『言い方がひどい』
「もーあたしは高みの見物することに決めたんだ。美少女精霊使いは一ヶ所に足を止めたままでいることが許されないの」
『言葉だけは格好いいなあ』
そんなことないわ。
姿形も精神も行動もカッコいいわ。
『ユーラシアが文無しになるってのは、このことだったんだな?』
「まーね。新政府の方にも資金供与だね。あっちもおゼゼがないから」
新政府の方こそおゼゼがないと何も行動を起こせない。
行動を起こせないことで支持率が下がったりすると、国民の不信を招くからな。
あたしの目指す豊かなドーラの実現が遠くなってしまう。
『ユーラシアはいいのか?』
「構わない。あたしはドーラが芽を出し、育ち、大樹になるところが見たいんだから」
『今のも相当格好良かったね』
「あたしもそう思う。『精霊使いユーラシアのサーガ』がこういうエピソードで埋まればいいのに、執筆依頼を請けてるダンって言う冒険者は、面白いことしか書こうとしないんだよ。困ったもんだ」
アハハと笑い合う。
『明日、カラーズ各村との族長会議がある』
「揉める要素ないよね?」
『ああ、君が資金出してくれたから、うちの発言権が大きいだろうしな』
揉めた場合はサイナスさんが収めろってことだぞ?
わかってるのかな?
『具体的には水路をどこに通すか、井戸をどこに掘るかってことだろう。それも現地を見ながらじゃなく、地図上でアバウトに決めるだけだ』
お願いしまーす。
「水路さえしっかり引けちゃうと、あとが楽なんだよねえ」
『ああ。やはりクー川上流から水を引こうと思うと、資金のある時しかできない。魔物退治はユーラシアに任せることになりそうだから頼むぞ』
「任されたぞー。一応どんな魔物が出てくるのか教えてくれると嬉しいな」
『おっ、慎重だね?』
「あたしは慎重派なのだ。敵を知り己を知れば鬼に金棒だ」
『そんな言い回しは知らない』
すげないなー。
平野部と山に近いところでは生息している魔物が異なるはずだ。
あたし達だけなら何とでもなるが、他の人を危険に晒せない。
強くはなくとも動きの早い飛行魔物が多くいるなら、非戦闘員のいるところに回り込まれたりすると被害が出ちゃうしな。
「『氷晶石』はどう?」
『便利だな。肉も長持ちしそうだ』
「今日あれからクエストででっかい宝箱ゲットしたんだ」
『ふむ?』
「随分としっかりとした作りでさ。ほぼ隙間がないから、外にほとんど冷気逃がさなくていい感じなんだよね。一個あげるから使ってよ」
『君、宝箱の中身だけじゃなくて空箱まで働かせるのか?』
「使えるものは何だって使うよ」
サイナスさん、やるじゃないか。
『空箱まで働かせる』って表現は気に入った。
『明日はレイノスへ行くんだったか?』
「パラキアスさんとオルムスさんに呼ばれてるの。総督府だった場所、今は行政府って呼ばれてるんだって」
『頼りにされてるね』
「うーん? あたしが立場的に一番自由に動けるとは思うけど」
役職とか給料に縛られると、人間動きづらくなるもんだからなー。
あたしは不自由なのあんまり好きじゃない。
自由に自分のやりたいことをやってるのが一番いい。
『ユーラシアはドーラの在り方として、どの辺が落としどころと見てるんだ?』
「おっ? 首脳会談っぽい会話だね。逆にサイナスさんはどう思う?」
『オレか? レイノスはレイノスだけ面倒見てりゃいいんじゃないかと思ってる』
どゆこと?
『今までと同じさ。上級市民達に帝国市民権に代わる特権を与える代わりに、税金を取る。税金を政府の運用資金にする』
「今まで帝国が総督府を通じてやってた統治の、頭だけ挿げ替える感じ?」
『ああ』
「現実的だねえ」
『君の言い方を真似ると、それが一番おゼゼのかからないやり方だろう?』
「賛成ではあるんだけど」
『何か違う考え方があるかい?』
「サイナスさんの言う通りにすると、レイノスは以前のままってことになるから、ドーラに渡ってきた移民を丸々こっちに放り出すことになるじゃん?」
『ははあ、つまり移民とカラーズの負担が大き過ぎると?』
あと聖火教徒の負担もね。
さすがにサイナスさんは理解が早い。
「掃討戦を企画したパラキアスさんとデス爺は、最初からこっちに仕事押しつける気だったかもしれんけどさ。あたし達ばかり苦労するのは割に合わないから、レイノスも苦労しろって方向に持っていきたいの」
『苦労させるために活動資金を提供する、と?』
「うん。で、あたしがおゼゼ出すんだから、当然あたしのやりたいようにやるんだ」
『ふふっ』
その含み笑いは何だ。
尊敬してる時に出る笑いじゃないんだけど?
『よくわかった。資金の出し方からすると、アルハーン平原~レイノスのホットラインを考えているんだね?』
「移民の受け入れがこっちだもん。どかーんと比重かけないとやってられんわ」
『西域はどうなる?』
「基本的にスルーだな。でもドーラの人口自体が増えるんだから、個々には発展する自由開拓民集落も出てくるんじゃないの?」
西域の実力者バルバロスさんの思惑もイマイチ掴みきれないからな。
正直わからん。
ただレイノスからの輸出が増えるならば、潤う自由開拓民集落も出てくるんじゃないか。
そーゆー嗅覚を働かせて個々に発展を目指すことを期待したいけど、西域は魔物も多いっていうからどうなんだろ?
バルバロスさんに会ってみたいもんだなあ。
『わかった。明日の話を楽しみにしているよ』
「えっ? 楽しみにされるほどのエンターテインメントになるかはわかんないよ?」
『期待してるぞ』
期待されてしまったぞ?
「じゃ、サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日は行政府だな。
何時頃に行こう?




