第595話:それはバアルの能力
「小生達は一旦失礼する」
「さようなら」
「行ってらー」
ピンクマンとサフランが転移の玉を起動し、ホームに飛ぶ。
ギルドでイチャイチャをからかわれてこいニヤニヤ。
「今日は新人さん来ないかもしれないわねえ」
「まー来るの遅いことだってあるでしょ。慎重な子なんじゃない?」
一旦冒険者になったなら、慎重な子の方が続くような気がする。
転移の玉と装備品をもらえるアドバンテージが大きいから、チュートリアルルームには早めに来といた方がいいと思う。
が、それは『アトラスの冒険者』の内情を知ってるから言えることだろうしな。
「さて、あたしも帰ろうかな」
「せっかく来てもらったのに、悪かったわねえ」
「バエちゃんの顔を見られたからいいんだぞ?」
「ユーちゃんハンサムっ!」
出ました高速クネクネ。
「クエストがあるから行ってこなくちゃ。あとでもう一度様子見に来るよ。じゃあねー」
「わかった。またね」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「ただいまー」
「お帰りなせえやし!」
「灰の民の村はどうだった?」
「アイシンク、しばらくはモーマンタイね」
「村人総出で解体して肉にしてやすぜ」
「よーし、『氷晶石』があれば冷やしてもおけるし、イケるだろ」
一応、夜のヴィル通信で確認すればよし。
「チュートリアルルームはどうでしたか?」
「新人さんのところに『地図の石板』は届いて、転送魔法陣の設置までは確認されてるんだけど、まだ来てないんだ。ザクザク宝箱のあとでもう一度顔出してくるよ」
いきなり魔法陣で飛んで来るような人ばかりじゃないから、こればっかりは仕方ない。
「ヨブノブのクエストが進んでないかも知れないんだよねえ」
アトムが渋い顔になる。
「怠け癖でやすかい?」
「調査とか勉強か、他の理由かも知れないけど……」
「アンビリーバボーね」
「まーね」
どうせあの地上性オオナマケモノヨブ君がサボっているに違いない。
ナマケモノはともかく、弟ノブ君はやる気のある子だから贔屓してやりたいのに。
早くギルドまで来ないかなあ。
クララが苦笑する。
「『アトラスの冒険者』への取り組みには、各々でスタンスの違いがあると思いますよ。一ヶ月で失格というのは知ってるはずですし」
「うーん、でも美少女精霊使いがわざわざ訪問したにもかかわらず、再び怠け癖を再発したんだとしたら、まったくもって面白くないね」
あたしを何だと思ってるのだ。
ま、確認が先か。
「サフランさんの固有能力を調べると、仰ってませんでしたか?」
「『抑圧者』って能力だった。自分の敵のマジックポイントを使用する魔法やバトルスキル、魔道具の使用を禁止するんだってよ」
うちの子達が顔を見合わせている。
「変わった固有能力だよねえ。掃討戦の時に知ってれば、すげー簡単にデカダンス倒せたと思うけど」
困惑するうちの子達。
何なの?
「ボス、『抑圧者』はメイビー、バアルの能力ね」
「えっ? あ、なるほど!」
サフランの固有能力だったから、掃討戦の記憶が浮かんじゃってたわ。
確かにバアルの能力は、ミスティさんや海の女王の話を聞く限り、魔法やバトルスキルを使えなくするものだった。
「マジックポイント使用のスキルを使えなくなるけど、『薙ぎ払い』を使えたという女王様の発言にも符合します」
「よし、決めた! バアルは『抑圧者』の固有能力持ちか、その効果を発現できる魔道具か何かを持っている」
アトムが腕を組む。
「しかし、対策は難しいでやすぜ」
「逃げないんだったらどうにでもなるけど……」
『抑圧者』の能力自体を無効化できる術があれば……。
「ま、ヒバリさんが持ってたという、聖属性の乗るパワーカードの入手が先か」
バアルがいくら強くても、魔境中央部の最強魔物ほどのヒットポイントを持ってるとは思えん。
聖属性攻撃できるパワーカードがあれば、ウィッカーマンをワンターンキルできるうちのパーティーの敵ではない。
「そうね。バット、ザクザクトレジャーボックスへゴーね」
「おっ、ダンテも侘び寂びを理解したようだね」
ワビサビワッツ? って面持ちのダンテをスルーして一言。
「宝箱取りに行くぞー!」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
今日もまたノルマの『ザクザク宝箱! アイテム長者は君だ!』の転送先にやって来た。
「おお、宝箱の部屋よ。今日もありがとう!」
「お礼はまだ早いですよ?」
クララが立札をじっくり見ながら言う。
「この斜め縞の床でさえも愛おしいものに思えてきたね」
「そうでやすか? 床はまあ。あの四つ並ぶ宝箱に対しては、あっしも心躍るものがありやすけれども」
ハハッ、アトムも宝箱の魅力には勝てないらしい。
「みっつぎっものっ! みっつぎっものっ! みっつぎっものっ!」
「スーパーハイテンションね」
しかしダンテも楽しそうだ。
「宝箱だよ? テンションも上がるよ。海の女王のところにある銅鑼、あれ買ってきてここに備えつけてさ、心ゆくまでガンガン鳴らしたい」
あれ、皆頷いてるぞ?
「こらっ、あんた達がそんな浮ついててどうする!」
「姐御がそれ言いやすか?」
「役割ってものがあるでしょーが。あたしはいつもこんなもんだ!」
ちょっと背筋を伸ばすうちの子達。
いいんだよ、言ってみただけだから。
「銅鑼のことはひとまず置いといて、宝箱開けるよー」
「「「了解!」」」
えーと、一番楽しげな宝箱は右から二番目と。
「当たり宝箱が一番楽しげに見えるのは困ったもんだ。だから開けたくなっちゃうんだよなー。これもトラップの一種なのかな?」
「どれが開けてはいけない宝箱ですか?」
「右から二番目だね。それ以外の宝箱を、あんた達一人一個ずつ開けてみなさい」
おーおー嬉しそうに。
三人が蓋を開ける。
蓋は結構重いけど、ダンテ大丈夫か?
ああ、イケそうだね。
「剣でやす! おそらく魔法剣!」
「コモンの素材ですが、箱一杯に入ってます!」
「フルートが入ってるね! マジックパワーを感じるね!」
「よーし、今日も大漁だ! 帰ろう」
「あっ、ユー様。空箱も持って帰りましょう」
空箱も? 何で?
「冷蔵用の箱にピッタリです。丈夫ですので、箱自体にも価値があると思います」
「採用! クララ偉い!」
「えへへー」
箱までムダなく役立てるという考えが気に入った。
哀愁の漂う宝箱一個を残し、転移の玉を起動して帰宅する。




