第594話:『抑圧者』
焦れたようにピンクマンが言う。
「新人はまだ来ないのか?」
「あ、どうなんだろ?」
新人が来るからお世話係のピンクマンが来てるんだった。
お喋りしてたら楽しくなっちゃってて頭から抜けてたよ。
何となく、新しい新人という言葉が思い浮かんだ。
でも美しい美少女の方があたしにとっては使い勝手がよさそうだな。
どっかで使お。
バエちゃんが大きなパネルを起動する。
「……問題なく『地図の石板』は渡っているわね。転送魔法陣は設置されているわ」
「ほう、向こうの様子がわかるのだな?」
「最初の魔法陣にはこういう仕組みがあるみたいだよ」
「ふむ、知らなかった」
「やっぱ新人さんの動向は観察してると面白いからねえ」
魔法陣の周りしかわかんないみたいだけどね。
あれ、何でピンクマンはあたしを残念そうな目で見るんだ?
新人冒険者の行動は、ベテランに比べれば面白いだろ。
「あたしが新人の時、昼御飯食べてから損害賠償請求しに行こうって言ってたのもバレてたんだ」
「普段の行動原理の問題だろう。いい意味で」
「『いい意味で』って言えばいつも許されると思うなよ?」
まあどうでもいいことは置いといて。
「これ時間かかりそうじゃない? 転送魔法陣の近くにいないみたいだし」
「そうねえ。来る子はすぐ来るんだけど」
「慎重なのかもしれんな」
「カールさんはすぐ魔法陣を踏んだのですか?」
サフランの質問だ。
ピンクマンがどうだったかは興味あるな。
「『地図の石板』を手にすると、いきなり大きな音とともに転送魔法陣が形成されてな。これが『アトラスの冒険者』かと感動したものだ。当然すぐ転送魔法陣からチュートリアルルームに来た」
「ピンクマンは『アトラスの冒険者』を元々知ってたんだ?」
「知っていた」
知ってりゃそー怪しむこともなく転送魔法陣の中に入るだろうな。
「ユーラシアは?」
「その日寝坊して朝御飯抜きだったんだよ。昼御飯食べてからチュートリアルルームだったな」
考えてみりゃロクなことがなかった日だ。
一食食べ損なうわ大波被るわ何時間も部屋の片付けさせられるわ。
「あたしは『アトラスの冒険者』を知らなかったから、えらい怪しいもんが庭にできたと思ったよ」
「信頼と実績の『アトラスの冒険者』でしょう?」
「バエちゃんは未開の国ドーラの情報伝達の遅さを甘く見てると思う」
「で、でも『地図の石板』を持った時に説明されるから……」
「あたしは聞いてなかったわ」
大波食らってたわ。
あたしもよくわけのわからん魔法陣で飛んでみようなんて思ったもんだ。
「ところで暇だから、サフランの固有能力の正体調べようよ」
「えっ? サフランさんも固有能力の持ち主なの?」
「うん。かなり毛色の変わった能力だと思う。でもあたし種類まではわかんないんだよね」
「ちょっと待っててくださいね」
バエちゃんがパネルを切り替える。
「ではサフランさん、このパネルに手を当ててみてくださいね」
「はい」
サフランがパネルに触れると、多くの文字が浮かんでくる。
「魔法防御が特に高いですね。魔法力、防御力も高い。後衛向きの能力だと思いますが、他のステータスパラメーターも低くはありません」
「サフランは冒険者じゃないから、パラメーター値は割とどうでもいいけど」
「いや、能力の把握は重要だ」
おーピンクマンに関心持ってもらって、サフランが嬉しそう。
「……クエストに行くなら前衛が欲しいな」
「だから前衛が必要になるような危ない場所に、サフラン連れていこうとするんじゃないよ」
あんた前も同じこと言ってたろ。
デートだぞ?
どーして第三者が必要なんだ。
サフランとアイコンタクトを交わす。
「はい、アターシも基本的なところから教えてもらいたいです」
「む、そうか」
再びサフランとアイコンタクト。
よしよし。
「で、固有能力は何なの?」
「『抑圧者』ね」
「ほう!」
ピンクマンは知ってる能力らしい。
反応が大きいな。
結構な固有能力なのかな?
「どんなの?」
「マジックポイントを使用する魔法やバトルスキルの使用を禁止する能力だと、本で読んだことがある。パーティー全体に有効なはずだ」
「ピンクマンは博識だねえ。つまりサフランがパーティーにいると、強力な攻撃魔法は食らわないってことかな?」
「うむ、強力な固有能力だ」
「掃討戦の時に知ってればなー。デカダンスに楽勝だったよ」
「ハハハ、惜しかったな」
まあ今となれば笑いごとだけど。
「スキルだけじゃなくて、マジックポイントを使用する全ての行為が無効になっちゃうの。例えばマジックポイントを使用する魔道具の使用とかも」
「味方のスキルとかは阻害しないんだよね?」
「もちろん。対象範囲は敵対勢力だけだ」
「へー。いいねえサフラン。冒険者にとっては、いるだけでお得な能力だよ」
「ありがとうございます!」
パッシブだが、パーティーを危険にさらす確率を確実に減らす素晴らしい固有能力だ。
普段役に立つ能力じゃないところが、冒険者でないサフランにはもったいないが。
「ねえピンクマン。魔法ばっか使ってくる人形系レアにはいいだろうけど、ちょっと小賢しい魔物だとサフランが集中攻撃食らうかもしれないよ。対策はしといた方がいいんじゃないかな?」
「適当なパワーカードはないか?」
「パワーカードで考えてるんだ?」
「軽いからな」
おお、いい気遣いだね。
見直したよ。
「『シンプルガード』ってカードをギルドで売ってるよ。防御力を上げてクリティカルを無効にするから、一番確実に役に立つと思う」
「すまんな。ギルド行った時に買ってこよう」
「今から行けばいいじゃん。サフランはギルド行ったことある?」
「いえ、ないですね」
「『アトラスの冒険者』の集まる場だよ。クエスト行くならお披露目しといてもいいでしょ。皆親切にしてくれるよ」
主にゴシップ的な意味の情報を聞き出したいからだけどニヤニヤ。
ダンに絡まれてこい。
「ん? しかしここを放っておくわけにいかないだろう」
「いいよ。基本的に教育係なんて、新人さんが困った時だけ力になれればいいんだから。まだ当分来そうじゃないし」
「そうですよカールさん。何かあればギルドに連絡致しますので、必要な時こちらに来てもらえば結構ですから」
バエちゃんも察してくれたらしいぞニヤニヤ。




