第591話:ドーラのヒロインの仕事
「……頼りになる兄貴分といったイメージです。フェイ新族長の就任にお慶びを申し上げます」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
族長クラスの中で最も年若である、青の民族長代理ディオ君の挨拶が最後だ。
これで会議に先立って行われた、フェイさんの黄の民族長就任披露式も終わりとなる。
カラーズの各村の垣根が低くなったからこそ、こういう会を開くことができたと思うと、隔世の感があるねえ。
歴史的かつ象徴的な瞬間とも言える、なんちゃって。
「引き続き、東の掃討戦獲得地の開墾についての会議を行います」
議長格である白の民ルカ族長の宣言とともに開始された。
さて、どんなもんかな?
まずは人々の意見に耳を傾けようじゃないか。
「一万人以上の移民が来るという。放置してもおけまいが……」
「しかし我が民にメリットがない」
「面倒を抱え込むのは……」
「潜在的な……」
「しかし負担も……」
「あーだ……」
「こーだ……」
サイナスさんがコソっと話しかけてくる。
「精霊使い殿はえらく静かだね?」
「もうどういう方向に持っていくかは決まってるから、出尽くすまで意見は言ってもらった方がいいよ」
「しかし大体予想通りの意見だろう?」
「まーね。もうちょっと意表を突くことを考えてくれないと」
「ユーラシアのエンタメのための会議じゃないからな?」
移民に対して手を貸すことはやぶさかでない。
でも見返りがないから積極的に首を突っ込みたくはない。
掃討戦跡地ほどの面積を開墾となると大変な事業だが、無給じゃ捗るわけがない。
大体そんな論調だ。
フェイさんはニヤニヤしてるしなー。
あたしが何か言ったら乗ってくれるんだろうけど。
「大体話し合いも煮詰まってきたんじゃないか?」
「うん、ボチボチ頃合いだね」
要するにどこの村も積極的に参加したくはないってことだ。
何故ならカラーズには移民に構う余裕がないから。
いや、カラーズじゃなくても大規模開墾の余裕なんてないけれども。
つまり何らかの起爆剤が必要とゆーことだ。
「この辺で美少女精霊使いの出番かー」
「うむ」
これ以上の議論は進まないようだ。
あたしは挙手する。
「灰の民ユーラシア殿!」
発言を促される。
お、注目されてるね。
美少女はツラいよ。
「これで開墾しよう!」
机の上にドンと荷物を置く。
「それは?」
「三〇〇万ゴールドあるよ」
「「「「「「「「三〇〇万ゴールド!」」」」」」」」
マルーさんから巻き上げた資金の一部だ。
場が騒然とする。
「出資するということか?」
「そゆこと。見返り寄越せなんて言わないから、いいように使って」
「これなら労働力は出せる」
「しかし何故……」
なおも喧騒が収まらない出席者たちを制し、話を進める。
「今年だけで一万人くらい移民が来ちゃいまーす。これは決定事項ね」
しんと静まる。
関わりたくない人も多いみたいだけど、大量移民があることまでは決まっているのだ。
嫌でも関わらざるを得ないことは受け入れてください。
「ドーラでその数の移民を受け入れるだけの余地があるのは、掃討戦跡地だけだよ。これも変えられない事実、いいかな?」
頷く皆さん。
素直でよろしい。
「想像してみようか。海の向こうから知人もいない地にやってきて、何もない地に放り出される。魔物はいないとしても生きていけるか」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
ヒソヒソ声が聞こえ、首を振る人たちが見える。
難しいことは皆も感じているのだろう。
「どう考えても餓死者が出ちゃうよ。でなくても治安は確実に悪くなる。盗賊団なんか作られたら、カラーズだって被害を受けるんだぞ?」
ならず者が増える可能性には初めて気付いたか、不安そうになる一同。
「今のは移民が敵になっちゃうケースね。逆を考えようか。友好的な人達がたくさん住むことになるとします。どうですか?」
「……こっちのものを買ってもらえる?」
「はい、商売人っぽい意見が出ましたね。向こうのものも買えます。新しい技術を教えてもらえるかもしれない。素敵な人がいるかもしれない。いいことばっかりです。さあ、来たるべき隣人は敵がいい? 味方がいい?」
「そりゃあ、まあ……」
「ねえ?」
一同が互いに顔を見合わせる。
答えなど決まっているのだ。
りくつとりえきをちらつかせるせいれいつかいのことばよ、まよえるめんめんのしこうをせいれつさせよ!
「最終的には、クー川からこっちの掃討戦獲得地の部分だけで数十万人が住むことになるよ。数十万人の敵か数十万人の味方か。味方にして大儲けするぞっ! 原資はここにある!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「大量移民を受け入れるノウハウのない今年は確かに厳しいぞ。だが来年以降は今年の移民も味方だ。どんどん楽になるぞっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「まずは耕地と水の確保! 各族長の指示に従い開墾するぞーっ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
よーし、カラーズ全ての民が移民受け入れに前向きになった。
こんなもんだろ。
「ふむ、金があるとなれば精霊使いの意見に従い、整地・開墾を進めるのが道理と思われる。皆さんの見解はいかがかな?」
フェイさんの言葉に族長クラス全員が頷く。
「精霊使い殿、この資金はもらってしまっていいのか?」
赤の民族長カグツチさんが聞いてくる。
「もちろんだよ」
「どう使えばいいかな?」
「必要な器具を購入するなり労働した人の賃金にするなり、族長クラスの皆さんの合議で決めてよ」
「君は関わらないのか? 金出してるのに?」
「ユーラシア殿の意思が反映されないのでは……」
気を使われてるみたいだ。
でも基本的にあたしはカラーズから出てる人間だし、面倒なことはやってられないよ。
「冒険者のお仕事はここまでだよ。あとは指導者の皆さんのお仕事」
「出資は冒険者の仕事ではないと思うが……」
「冒険者じゃなくて、ドーラのヒロインの仕事だったか」
アハハと笑い合う。
決して冗談ではないけどね。
あたしにはドーラをいい国にしたいとゆー思いがあるから。
「結構でーす。族長さん達の手腕に期待しまーす」
丸投げしたった。
おゼゼがあればどうにでもなるだろ。
白の民ルカ族長の声が響く。
「では、これにて閉会いたします。皆さん、ありがとうございました」




