第58話:金の力で解決したったという充実感
「じゃ、夕御飯の用意よろしく。あたしはバエちゃんとこ行ってくる」
ほこら守りの村からの帰宅後だ。
疲れていることは疲れているが、思うところあってチュートリアルルームに行きたい。
「明日は宴会ですかい?」
あたしは首を振る。
「いや、三日前にお邪魔したばかりだし、食事会は次のクエスト終えたらにしよう。今日は報告と、それから『経穴砕き』のスクロール買って覚えてくるよ」
思うところとはこれだ。
今日参道で踊る人形二匹がいっぺんに出た時、一匹逃してしまったのだ。
逃げたタイミングからして、あたしが『経穴砕き』を習得していたとしても倒せはしなかった。
しかし経験値君こと踊る人形が二匹同時に出ることがあるのは確定。
一ターン目で両方叩ける体制だけは作っておきたい。
謝礼で懐が潤っているしね。
おゼゼがある時に買わねば。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃーい」
「五つ目のクエストクリアしたから報告しに来たよ」
「ほこら守りの村の怪だっけ。どんなのだった? やっぱりホラー?」
「クエスト自体はホラーだったな。最後にオチがついたけど」
「オチ?」
肥溜めの件で大笑いされたわ。
「いやでもマーシャは実際大した子だったよ。ごにょごにょ二号って呼ぶ暇もなく名乗られたもん。将来楽しみ」
「ユーちゃんがそう言うなら大した子だったんでしょうね。でもハゲ子二号って言わないで」
「言ってないってばよ」
久しぶりだな、このやりとり。
バエちゃんもハゲ子呼びは気にしてたのだろーか。
「『経穴砕き』のスキルスクロールを買いにきたんだった」
「やっぱりスキル買うことにしたの?」
「この『経穴砕き』、ダンテは扱えるんだけどね。とりあえず二人は使い手がいないと、儲かるレアモンスターに遭遇した時の機会損失が大きくなっちゃうんだよ。今日二体同時に出てくる場面があってさ。買っておくことにした」
「熱心ねえ。はい、一五〇〇ゴールドね。毎度あり」
封を切ってスクロールを開く。
魔力が高まり、あたしはバトルスキル『経穴砕き』を習得した。
「ふーん、スキルスクロールから覚えるのってこんな感じなんだ」
「好きな感覚ではなかった?」
「いや、金の力で解決したったという充実感がある」
「趣味わるーい」
二人でアハハと笑い合う。
「ところでソル君どうなってるか、聞いてる? アイテム集めだったっけ?」
「大分コツを掴んだって言ってたわよ。五日あればクリアできるだろうって今日言ってた」
「頑張ってるなあ」
ソル君ももう少しでギルドに到達するな。
アンセリに会ったら教えてやろ。
「でもユーちゃんは、いつもクエスト一日で終わらせるよね?」
「たまたま短期で解決可能なクエストが回ってきてるだけじゃないかな。それにあたしにはうちの子達がいるし」
あたしには最初からクララがいた。
今ではアトムもダンテもいる。
ソル君と違って一人じゃないのだ。
「ユーちゃんは謙虚よね。もっと自慢してもいいと思うけど」
「あたしの手柄じゃない部分だからなー。ボケとツッコミ両方いけるところなんかは自慢できるんだけど」
バエちゃん、こーゆーのスルーするなよな。
悲しくなるから。
「ところで明日は御飯食べに来るの?」
「いや、ちょっと先かな。次のクエストクリアしたら来るよ」
「今度来る時、一日前に教えて。カレーライスを御馳走するから」
「かれえ、らいす? らいすって米?」
「そうそう。本来カレーはライスとセットなの」
米、それは穀物の一種だ。
ふっくら焚き上げた時のもちっとした食感は、他の穀物の追随を許さない美味さだという。
食べたことないけど。
単位面積当たりの収量もなかなか優秀で、帝国本土の平野部では盛んに作られるらしい。
食べたことないけど。
ただし作るのに大量の水を必要とするため、温暖ではあるが水の不足しがちなドーラでは一般的でなく、ごく一部でしか生産されていないらしい。
食べたことないけど。
灰の民の村のずっと東にある大河クー川の水利が実現したら、米作が広まるんじゃないかと聞いたことがある。
食べたことないけど。
「楽しみにしてるよ。米、食べたことないんだ」
「うん、期待してて」
さすがにバエちゃんでも、あたしの心の中のボケにはツッコめないか。
どんだけ食べたことないかを教えてあげたい。
「じゃあね、またね」
転移の玉を起動して家へ帰る。
◇
最近、狩りやクエスト行った日の夕御飯には、ステータスアップの薬草を使った料理が出る。
初心者の館の研究者は、食べれば効果あるって言ってたけど、あんまり実感できないんだよな。
ギルドカードで確認すると、確かに上がってる時もあったけどそうでない時もあった。
まあ濃さにもよるんだろ、四人で分けてるしな。
継続は力なり > おゼゼは力の大小関係を信じ、売りたい気持ちをぐっとこらえて今日もいただく。
「姐御の『雑魚は往ね』は効くなあ」
「装備が充実するとより使えると思うんだ。うちのパーティーの特長だから生かそう」
「ミーの出番がないね」
ダンテが不満げだ。
確かに盾役アトムや回復役クララと異なり、ダンテには明白な役割が振られていないからなあ。
ヤバい状態異常攻撃のある魔物に先制攻撃したり、経験値君を退治したりするのも重要なんだが。
ぶっちゃけ『雑魚は往ね』による一掃が何らかの事情で不可能になっても、ダンテの全体攻撃魔法があるというだけで保険になる。
「ダンテ、あんたはいるだけで安心」
何か嬉しそうだ。
ちょろいな。
「ユー様、明日どうします?」
「どうしようかな」
ちょっと迷ってるのだ。
当たり前の考えなら、大量に手に入れた素材をアルアさんとこで換金し、新しいカードを手に入れ試闘するのが筋だろう。
レベルアップに伴い覚えたスキルのテストも兼ねてね。
ただかなり薬草や魔宝玉などのアイテムを持っているので、ギルドで売ってくるのが先って気もしてる。
アンセリにソル君のことも伝えたいし。
少女霊リタにもらった新しい『地図の石板』があるから、次のクエストにいきなり行くのもあり。
一日骨休めの日があったっていい。
さてどうすべきか?
「マネー大事ね」
「素材の換金を先にしやしょう。何のカードと交換できるか確認するだけしておいて、ギルドへ行けばいいでやすぜ」
「よーし、そうしよう」




