第578話:どうしてここに?
輸送隊の女の子二人、インウェンとビルカに灰の民のお弁当屋を紹介した。
今日は奢りだぞー。
「野菜はおいしいよ」
「茹でと焼き以外の調理法も必要かなと思ったんだが」
「調理法を考えるなら、塩以外の調味料を導入するほうが先じゃないかな」
白の民の卵や緑の民の柑橘があると豪華になるよ。
ま、お弁当にそこまで求めてもってのはあるか。
「ウリのはずのお肉がイマイチだわ。動物の脂は冷えると固まってよろしくないなー。炙り焼きして可能な限り脂を落とした方がいいよ」
「次からそうするよ。また肉の供給をよろしく」
「よろしくされてしまった。おかしいな、余計な仕事が増えたぞ?」
「「アハハハハ!」」
大笑いするインウェンとビルカ。
あたし達がお弁当として持っていく時の定番、茹で肉とふかしイモのコンビよりはよくできてると思うよ。
品数も多いし、合格点はあげられる。
「いや、おいしかったですよ。ごちそうさまでした」
「お弁当に持っていくんじゃ、ちょっと食べにくいかなあ。何かアイデアない?」
「赤の民は、水溶き小麦粉を薄焼きした生地に具を挟んで食べます。お肉が入ってたら豪華だと思いますけど」
「それだ! サイナスさん、研究して」
一まとめになってると食べやすい。
魔境に持ってくのもお手軽なやつがいいな。
お弁当は具材や調味料に凝るよりも、食べやすさを追求した方がプロには売れる気がしてきた。
あれ? プロって何だろと自問自答。
「今日はありがとうございました」
「ユーラシアさんはこれからどうするんです?」
「黒の民の酢の製造責任者が、昨日の転送石碑設置の時姿が見えなかったんだよ。酢は好評だとは聞いてるけど、年末で輸送隊一回休みだったのに全力生産ってこともないはずじゃん? トラブルかもしれないから様子見てこようと思ってる」
「では、私はこれでおいとまいたしますね」
「うん、ビルカまたねー」
インウェンが何事か考えている。
「ユーラシアさんは細かいところまで気にしているんですね」
「いや、たまたま気付いただけだよ」
ピンクマンとサフランなんか目立つのにいないと気になるからね。
どうってことないのかもしれないけど、イベントとエンタメを求める乙女心が足を運ばせてしまうんだよ。
「私も黒の民の村へついて行ってよろしいですか? 酢は主力交易品の一つですから」
「あっ、助かるよ。サイナスさん、じゃねー」
インウェンとともに黒の民のショップへ。
ピンクマンとサフランに関する情報を持ってるだろうから。
「こんにちはー」
黒フードの男が顔を上げる。
「やあ、精霊使いじゃないか。そっちは輸送隊の子だな?」
「輸送隊副隊長のインウェンだよ」
「よろしくお願いします」
「これは御丁寧に」
和やかだな。
特に緊張感もなさそうだが、気を回し過ぎたか?
「どうしたんだ? 何か買っていってくれるのかい?」
「昨日の転移石碑設置のイベントにサフランとピンクマンが来てなかったからさ。どうしたのかなーと思って」
「どうしたと思う?」
いきなりクイズですか?
でも面白がってるところ見ると、何かあったのは間違いないみたい。
何だろ?
「ノーヒントはきついなー。さすがの美少女精霊使いでもわからん」
「肉に合う調味料の研究でな、肉を調達しに二人で白の民の村へ行ったんだ」
「ふんふん」
「白の民には有名な悪ガキがいるらしいんだな」
「え?」
白の民の悪ガキと言えばケス?
ケスが何かやらかしたのか?
インウェンもまさかって顔してる。
「……落とし穴だね? サフランをかばってピンクマンが落ちて、足をケガした。サフランが看病してる」
「正解。ドンピシャじゃねえか。たまげたぜ」
あんまり嬉しくないんですけど。
大体ケスの落とし穴なら、トリプルミックスの糞がクッションになるはずだ。
大したケガするわけない。
「バカバカしい。帰ろうか」
「酢と醤油の生産に問題がないかは知っておきたいんですよ」
うーん、ピンクマンは『ヒール』使えるから、絶対に何ともないぞ?
サフランが嬉々として世話してるから、抜け出すタイミングが掴めないだけだと思う。
イチャイチャしてる二人を邪魔したくはないんだが。
でもケスのやったことなら謝っとくべきかもしれないし。
「ケガしたの知ってて顔を見ていかないのも薄情か。寄ってこう。ピンクマンの家かな?」
「いや、醸造ラボのはずだぞ。あそこ広いからな」
「わかった。ありがとう」
インウェンと黒の民の村へ。
「酢と醤油作ってるサフランは黒の民クロード族長の姪でね。まあサフランと結婚する人が黒の民次期族長の有力候補になるわけよ。で、ピンクマンは冒険者としては優秀で、カラーズで最も高レベルの人。センスは色々おかしいけどイケメン」
「サフランさんはピンクマンさんを好いていると?」
「うん。でもピンクマンは呪われしロリの国の変態紳士なんだよ。サフランにはほとんど興味ない。でもピンクマンがよく喋る機会のある数少ない女の子だから、状況としては割と面白い」
「面白いって……」
困ったような顔も可愛いぞインウェン。
黒の民の村にとうちゃーく。
「……頭蓋骨ですね?」
黒の民の村の門前で呆れたように見上げている。
「インウェンは黒の民の村に来たことなかった?」
「はい、黒の民は常にきちんと連絡くれますので、こちらから出向くことはなく」
「そーかー。村の中ドクロだらけだよ? ヴィルカモン!」
「あの可愛い悪魔ですか?」
「うん。黒の民は悪魔好きだから歓迎してもらえるんだ」
黒の民は悪魔や天使に馴染みがあるって話だったが、天使は見たことないな?
まーあたしの人生は笑いの神様に祝福されてるから、その内天使にも会う機会があるんだろ。
「じゃじゃーん! 御主人に呼ばれてヴィル参上ぬ!」
「よしよし、よく来たね」
「ヴィルちゃん、こんにちは」
「こんにちはぬ!」
門を潜って中へ。
「……誰もいませんね?」
「黒の民はあんまり出歩かないみたいなんだよね。いつ来てもこんなもん。醸造ラボはこっちだよ」
インウェンとヴィルを連れてラボへ。
「こんにちはー」
「ユーラシアさん!」
「ユーラシア!」
「精霊使い殿!」
どーゆーわけか、ここにいるべきじゃない人がいる。
「ルカ族長じゃないの。何でここに?」
白の民族長ルカさんだ。
ケスの養い親でもある。




