第572話:必ず騒動になる(断言)
アレクが緩衝地帯に転移していった後、ケスがボソッと呟く。
「アレクは……すげえ」
「うん、いろんなことをよく知ってるよねえ」
「おいらもアレクみたいになれるかな?」
「アレクみたいにならなくてもいいんだなー。大体アレクは修行して知識を身につけたわけじゃないぞ? 図書館にこもってひたすら本を読むことが好きな子だったから」
何かをしようと考えて覚えた知識ではない。
今になって役立ってるのはラッキーではある。
「ケスはケスでいいとこあるよ。昨日の紙飛行機は最高だったぞ?」
「姐さん、ありがとう」
ハヤテが聞いてくる。
「ユーラシアさんはケスがまだまだいろんな折り方知ってることがわかってたみたいだが、どうしてだか?」
「何となくわかるなー」
「姐さん、あれはおっかなかったぞ。おいらの何を知ってるんだと思ったぜ」
おっかなくはないってばよ。
ああいうのは経験して覚えるもんだ。
ケスも試行錯誤して紙飛行機を考えたに違いないし、ならば派生品はあるだろうからね。
「ケスの商売の才能はアレク以上だと思うよ。ハヤテはハヤテで飛んだり転移したりできるから、持っている技を生かすといいねえ」
ケスもハヤテも嬉しそうだ。
ハヤテにはいずれ、精霊親和性の高い海の一族やエルフを紹介してやろう。
あ、誰か緩衝地帯から転移してきたな。
「いらっしゃーい」
「あっ、精霊使いか。ここが転移先?」
「そゆこと。東へ一五分も歩くとクー川だよ」
「ん? 立派な建物があるじゃないか。もう開墾が始まってるのか?」
「黄の民が米とゆー穀物を作ろうとしているんだ。あれはその前進基地だよ。水さえ豊富なら、ドーラでも米を作れるからね。おっと、また誰か来たよ。いらっしゃーい」
◇
無事、転移石碑の設置が完了し、喜びの中解散となる。
三日後に黄の民族長宅に集まり、転移先の利用と開墾についての会議があることが、今日緩衝地帯にいた全員に伝えられた。
会議には各色の民数名ずつと輸送隊のメンバーが参加する。
なお、転移石碑は開墾が本格化するまでは自由に使ってよいので、新年の暇な内にクー川を見物しに行こう、ピクニックに行こうという話もチラホラ出ていた。
頼むから迷子になってくれるなよ。
「ユーラシアさん!」
「あれ? インウェン」
輸送隊の副隊長のお団子ちゃんだ。
昨日会ったところなのに、何か用でもあったかな?
「レイノスとの交易って、年明けはいつから始まるんだっけ?」
「四日後からですね」
「じゃあ昨日が年末で一回お休みになっただけなんだ?」
「はい。それでフェイ様のことなんですが」
昨日、フェイさんにしては歯切れの悪い言い方で、何かを話そうとしてやめたということがあったのだ。
あれはちょっと気になる。
黄の民の事情に首を突っ込まなくてもいいだろうって?
あたしが突っ込んだのと違うわ。
インウェンが相談に来たんだわ。
「何かわかった?」
「実は縁談が……」
「おめでとう」
「えっ? いえ、私ではなくてですね……」
何々?
フェイさんが立派に族長の仕事をこなしているため、この際病気がちの現族長は隠居してフェイさんに族長を譲る。
フェイさんもよい機会だから身を固めよとのことらしい。
「昨日の今日なのによく調べたね?」
「母親から聞きました。ラブい話に間違いないということだったので鎌をかけまして……」
「誘導して聞き出すなんてあたしのやり方だけどな。インウェンが段々悪い子になっていくよ」
顔を赤らめるところも可愛いよ。
しかしまだ秘密っぽい話を母親が知ってるとゆーことは、インウェンの家も黄の民では結構な有力者なんだろう。
「何でフェイさんの縁談なのに、インウェンのところに話が来ないの?」
「えっ、いえ、私など……」
「いいから、全部話しなさい」
インウェンの家よりも格上の二家があり、ともに妙齢の娘がいるとのこと。
しかしインウェンだってしっかりした教育を受けているし、フェイさんに信頼されて輸送隊の要になってるくらいなのだが?
「黄の民は家格をとりわけ重んじるところがありますので」
「ふーん。変だな?」
「えっ、何がです?」
フェイさんはほぼ何でも自分で決められる人だ。
パートナーとしてしっくり来るのは副官タイプの女性だろう。
これだけカラーズ全体が大きく変わろうとしているのに、家格に拘るというのがフェイさんらしくない。
いや、フェイさんの意思じゃなくて、族長家や件の二つの名家の思惑と考えるのが正しいか。
名家のお嬢達がどういう人か知らんけど、インウェン以上に使えそうな人が今まで表に出てこないってあるか?
そもそも黄の民内部のことなのに、あたしに話そうとした理由は何だ?
基本的にフェイさんは悪いやつだから……。
「……ちょっとわかってきたな」
「本当ですか!」
「うん。インウェン、この話絶対に素直に収まらないよ。必ず騒動になるから、何かあったら教えて」
「は、はい」
「お姉さまっ!」
「あっ、エルマ! 久しぶり」
「御無事でよかったです!」
エルマも独立後初めて会うんだったわ。
「二人が顔合わせるのって、輸送隊レベリングの時以来かな? 紹介がまだだったね。こちらは交易輸送隊副隊長の黄の民インウェンだよ。で、彼女は緑の民の冒険者エルマ。あたしの妹分で、パワーカード職人見習いでもあるんだ」
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
二人が握手する。
あ、ついでだから一応聞いとくか。
「つかぬことを聞くけど、二人は絵のモデルとか興味ある?」
「「は?」」
『えっち』を『セクシー』に言い換えて、スケベジジイがかくかくしかじか。
「イシュトバーン様には御馳走になりましたし、せ、セクシーな絵というのもやぶさかでないです……」
「いや、描く時脱げって話じゃないからね?」
「わたしもイシュトバーンさんに会ってみたいと思ってました!」
あれ、思ったより好感触だな?
じゃああたしも動いてみるか。
「これまだイシュトバーンさんに通してる話じゃないんだ。そういう話がある、くらいに思っててね。もし本決まりになったら頼みにいくから」
「「わかりました」」
「インウェン、じゃあね」
「はい、また」
さて、行くか。
「今からアルアさんを工房まで送りにいくんだ。エルマも来る?」
「はい、ぜひ」
クララの『フライ』であたしん家へ。




