第570話:転移石碑設置
「アレクケスハヤテは、今年の抱負ってある?」
転移石碑設置のために、デス爺アルアさんサイナスさんアレクケスハヤテ及びうちの子達とともに、カラーズ緩衝地帯に行く途中だ。
大人数だと楽しいな。
「何なの、ユー姉。藪から棒に」
「ダンテ的に言うとブッシュからスティックかな」
「誤魔化さないでよ」
「いや、誤魔化したつもりはなかった。新年だから新しい芸風を模索しようかと」
皆が疑惑の目で見るがな。
どーして?
サイナスさんが言う。
「ユーラシアの口から今年の抱負って変だろう?」
「変じゃないわ。あたしは有言実行の美少女精霊使いだぞ? 丁寧にフラグを立ててきちんと回収するのがモットーなの」
ようやく皆があーって顔になった。
抱負だと不審がるけど、フラグなら納得するのな?
何なんだ一体。
「姐さんが真面目なこと言い出すのかと警戒したんだ」
「槍でも降るのかと思ったよ」
「どーして天変地異扱いなのかはさておくけれども」
「おいら達は地力をつける時なのかと思っているんだ」
アレクケスハヤテがやる気だなあ。
だから新年早々勉強って話になるのか。
「ちなみにユーラシアの新年の抱負は何なのじゃ?」
「抱負とは違うけれども」
またどーして全員が注目するのだ。
意表を突くようなことを言わなきゃいけなくなるだろうが。
「外国かな」
「「「「「外国?」」」」」
「ドーラも独立したんだからさ。今後は帝国ばかりを相手にするってわけにもいかなくなるじゃん?」
『アトラスの冒険者』の転送先はドーラ内だけではない。
チュートリアルルーム以外でも、本の世界やヴィルの家は亜空間内に浮かぶ実空間だ。
山の集落は帝国内だった。
独立後のドーラの困りごとを解決するという視点から言うと、海の向こうに答えを求めるケースが多くなるんじゃないか?
つまり今後、外国行きの転送先が多くなる(強引な結論)。
「一理あるの」
「ドーラなんてのは人口の少ないド田舎の国に過ぎないよ。もっとこう、世界の重要国にならないと、面白イベントが巡ってくる気がしない」
「段々本音になってきたね。ユー姉はカル帝国以外の外国って知ってる?」
「一つも知らない」
笑うな。
これは当然なんだから。
今までのドーラは帝国の植民地だったから、表向き他の国との交流を許されていなかった。
ドーラで海の外の国って言えば帝国というのが、この一〇〇年間の常識だったのだ。
「もっともドーラじゃ帝国以外の外国を知ろうったって難しいんだ。地図すらロクなものが手に入りゃしない」
「しっかりした世界地図が欲しいなー」
デス爺サイナスさんアレククララが大きく頷く。
世界のあちこちを植民地にしている帝国なら、いい地図がありそう。
いや、そーゆーもんは軍事機密なのかも?
となると帝国のお偉いさんと知り合いにならなきゃいけないな。
今知ってる帝国の偉い人は皇女リリーだけだ。
結論、ムリ。
「今はまだどーにもならんな。よさげな石板クエストが出ることを期待しよっと」
さて、緩衝地帯に着いたぞ。
おお、もうたくさんの人が集まってるやん。
◇
「……我らが発展に繋がる新たなる年でありますよう、願ってやみません」
「「「「「「「「パチパチパチパチパチパチ!」」」」」」」」
族長あるいは族長代理の中で最年長である、白の民ルカ族長の開会の辞が終わる。
転移石碑設置作業が始まるぞ。
まずは穴掘り、アレクが指示を出す。
「深さは五~一〇ツカもあれば十分です。ただし広い範囲から魔力を集めねばなりません。直径四ヒロくらいでお願いいたします」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
広く大きな穴が掘られていく一方、アレクとクララが転移石碑に『スライムスキン』製の紐を溶かしつけていく。
結構興味ありげに見てる人もいるな?
魔道について勉強してくれると嬉しいんだけど。
「オーケー。ユー姉、お願い」
「任せて!」
転移石碑を持ち上げ、ゆっくり歩く。
アレクケスハヤテが紐を引きずらないように持ち、あとをついて来てくれる。
大体この辺かな、転移石碑を掘られた穴の中央に置く。
「前後を逆にするのじゃ。転移先座標は正面から一ヒロ前方になる」
「おお。さすがだねじっちゃん」
それなら注意していれば、転移先でぶつかってケガすることもないだろう。
『スライムスキン』製の紐が穴底に広げられ、大地の魔力を吸い上げ始める。
「ふむ、青ランプが点灯したな。これで転移するだけの魔力が蓄えられたことになる。これユーラシア。転移してみよ」
「わかったよ」
転移石碑の正面真ん中に触れる。
ククククッ。
視界が白くぼやけたかと思うと、もう一つの石碑の前に移動していた。
なるほど、ビーコンとして作用するだけなら、大地から魔力を吸う必要さえないんだな。
「問題ないの」
デス爺が満足そうだ。
ん? 驚いてる人が結構いるな。
初めて転移を見たからか。
「す、すげえ……」
「これが転移か」
「使いようによっては便利だな」
青ランプはすぐ再点灯した。
転移に必要な魔力はすぐ溜まるみたいだな。
再点灯までの時間をチェックしていたアレクもホッとしたようだ。
「ユー姉、埋めさせてよ」
「ん」
「元の地面の高さまで埋め戻し、転移石碑を安定させてください」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
大きく開いた穴は、あっという間に元のように埋められた。
よし、これで緩衝地帯側の転移石碑設置は完了だ。
群集に向かって声を張り上げる。
「今からあたし達は、掃討戦で魔物を追い出した地域の比較的クー川に近いところに、もう一つの転送石碑を設置してきます。皆さんは灰の民サイナス族長の指示に従い、この場で待機していてください。注意点として、事故防止のために石碑とその前からは離れていてください。向こうでの作業が終了し次第、向こうからこちらへ転移で飛びます。無事成功なら今日の転移石碑設置はお終い、皆で新年を祝いましょう!」
「「「「「「「「おお!」」」」」」」」
あたしとうちの子達、デス爺、アルアさん、アレク、ケス、フェイさん以下四人の黄の民で目的地へ飛ぶ。
ちなみにハヤテは自分で飛んでついて来ることになった。
サイナスさん?
だって飛行魔法で連れてこうとすると嫌がるんだもん。
緩衝地帯にも転移石碑の理屈をわかってる人、一人は必要だからね。




