第567話:邪道
「ただいまー」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
「お帰りー」
「姐さん、何で自分で『お帰り』って言ったんだ?」
「いや、あんた達答える気力がないみたいだったから、気を使って」
聖火教の本部礼拝堂から帰ったら、緑の民ショップは死屍累々だ。
アレクとケスとハヤテはまだ動けるみたいだが。
「ユー姉、気を使うんだったら、もう少し手加減しておくれよ」
「せっかくケスがいいアイデア出してくれたから、全力で協力しちゃったよ」
アハハ。
おいこら、皆恨みがましい目で見るな。
チャンスは一度掴んだら最大限に生かすもんなのだ。
「紙は完売か。よかったねえ」
「よ、よかったですけれども」
「喜んでくれ! 大蝋燭三〇〇本売れただけじゃなくて、小サイズの蝋燭を五日に一度一五〇本納める取り引きが決まったんだ」
蝋燭男が報告すると、緑の民の皆が喜ぶ。
「今は小さい商売だけど、聖火教徒の移民は今後たくさん来ることが見込まれているんだ。品質さえ落とさなければ、段々大きな取り引きになるよ。頑張ってね」
「おう」「任せとけ!」
インウェンも白陶器男も足取り軽く帰っていったし、今日はまずまずの仕事だったな。
さて、こっちも仕上げだ。
突っ伏している緑の民諸君に声をかける。
「はい、復習するよ! 最初全然売れなかった紙が全部売れたのは何故ですか?」
「何故って……」
目を見合わせるショップの店員達、そして長老達。
「これ理解してないとまた売れなくなるぞ? 今度は手伝わないぞ?」
慌てる緑の民達。
疲れてるだろうけど、頑張って頭使え。
「ええと、ケス君のアイデアが良かったから売れた?」
「正解。あれ何だ? 皆が遊んでる、欲しいって思わせたから売れたんだよ。じゃあ蝋燭が売れたのは?」
「……聖火教徒が必要としたから」
「その通り! ものは欲しい人がいるから売れる、必要な人がいるから売れるんだよ。値段と品質は比較の考慮材料でしかない。いいね? いくらいいものでも、べたっと並べてぼーっと見てるだけじゃ売れない。手を抜いても売れるのは、生活必需品と並べて様になるものだけ」
真剣に聞く緑の民達。
これ似たよーなミスを黒の民もやってたな。
「蝋燭は聖火教徒の機嫌を損ねなきゃ安定して売れるよ。逆に何かをしたからメチャクチャ売れるというものでもないので、時間で信頼を勝ち取ってね。蝋の生産力があるなら、蝋燭じゃないものでどうしたら売れるかを考えてもいいと思う。問題は紙」
ぐるりと一同を見渡す。
蝋の生産力や需要なんて知れてる。
でも紙は材料を色々変えれば生産力を上げられる。
じゃあ需要を作れば大儲けだ!
「緑の民は紙を何に使ってるの?」
「メモ取ったり絵を描いたり。あとはものを包んだり何かの下に敷いたり……」
「はい、ストップ。紙を生産していない他色の民は、紙を本の材料、せいぜい字を書ける人が使うものくらいにしか思っていません。こうやって使うんだよっていう展示がないと買いません。わかるね?」
頷く緑の民。
「今日のケスのアイデアは一発ネタに過ぎないよ。何度も通用するものじゃないけど、まだ他の紙飛行機折れるでしょ?」
「え? うん」
「紙飛行機じゃないアイデアもあるでしょ?」
「あ、ある」
こらケス、脅えんな。
あんたの価値を上げているのだ。
「ケスからアイデアを買えば、何度か仕掛けが利くよ。手に取ってもらう、馴染んでもらうことに関して有効。何度か仕掛けたところで、折り方百科の本を出す手があるかな。字の書いてない、絵だけでわかる本ね」
「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」
「それから紙は販促に使う手があるねえ。紙工作品を付録やおまけにする手段だね。あるいは広告紙を紙飛行機にして飛ばして手にとってもらうとか」
感心する一同。
「でもやっぱり最終的には印刷物にするのが常道だね。本を売るためには識字率を上げなきゃいけない。アレク、ケス、ハヤテの札取りゲームが有効だな。来年早い内に売り出そう。緑の民も印刷で協力してね」
「あ、ああ。わかった」
印刷代サービスしてくんないかな。
ちょっと話題を変える。
「ところで、レイノスで一番売れてる紙って新聞なんだよ。でもここに食い込むことは考えないでね」
「ど、どうしてじゃ!」
お、長老ズもマジになってきたね。
「レイノスの新聞の紙は、サトウキビの搾りカスで作ってるんだよ。原料が本来捨てるべきゴミの上に、一括で安く買い上げてるの。価格勝負では絶対に勝てないな。もちろん品質では勝ってるけど、読み捨てる新聞に品質は必要ないじゃん?」
憮然とする緑の民達。
「心配いらないでーす。今日売ってた紙を見る限り緑の民の紙も品質はいいから、本にするなら勝てるよ」
「しかし……本はさほど売れるものではないじゃろう?」
「さあ考えるべきはそこだ。何故本は売れないか?」
戸惑う一同。
サイナスさんもアレクも考えろ。
あたしは本の売れる世の中にしたいのだ。
「本がエンターテインメントじゃないから、これに尽きるね。あたしなんか本を枕にしか使ってないよ。識字率を上げて、安く面白い本を提供すれば絶対に売れる。ドーラで評判になれば帝国にまで売れる」
サイナスさんやアレクが何か言いたそう。
わかってるってばよ。
「現在の本は、知識や経験を収めたものでしかない。知識を残しておくという意味でもちろん必要だよ? でも数が売れないからどうしても高価になっちゃう。当然紙の量も捌けない。悪循環だよね? 緑の民の皆さんには、皆が見たがる読みたがる本を考えてもらいたいねえ」
サイナスさんが挙手する。
「具体的にユーラシアが考えてる売れる本って、どんなのだろう?」
「イシュトバーンさんっていう元商人さんがいるんだけど、その人が描いた女の人の絵って何故だかすごくえっちになるんだよ。青の民セレシア族長の店がレイノスでオープンした時、こんな服のデザインできますで新聞の一面に載って新聞が完売。セレシアさんの店もその効果で品切れ起こしたくらい。だからイシュトバーンさんの美人絵の画集を発行したら絶対売れるな」
「邪道……」
おっとアレクから褒め言葉いただきました。
「具体的には五〇ゴールド以下で販売できて、かつ売れる本を考えようか。考えるだけはタダだからね。本日はこれまで!」




