第566話:ドーラ独立の裏側・カラーズ編
聖火教の本部礼拝堂再び。
緑の民蝋燭男が持ってきた蝋燭の売買を進めている。
「確かに蝋燭三〇〇本受け取りました。代金の四〇〇〇ゴールドです。御確認ください」
「ああ、間違いない」
蝋燭男が修道女からおゼゼを受け取り、取り引き完了だ。
緑の民は高く売れて嬉しいし、聖火教徒は今日使う蝋燭を調達できて嬉しい。
これがウィンウィンってやつだ。
「定期的に蝋燭が必要なら頼まれるけど?」
「継続購入については、ワフロス様がお団子の女性の方と話をまとめてらしたようですが」
「あっ、そーだったか」
うんうん、順調だ。
インウェンはどこ行ってもお団子って呼ばれるな。
髪の毛の結い方が特徴的で可愛いけれども。
修道女は北の集落の方へ蝋燭を持っていくみたいだな。
あたし達は礼拝堂の中へ。
「ただいまー。蝋燭は外の修道女さんに引き渡したからね」
「ああ、ありがとう」
「こっちの話どうなった?」
「次回からお試しでカラーズの産物を少し買っていただけることになりました。各村が用意できればですが」
「よしよし。逆に礼拝堂北の集落で売るものを作れるようになったら教えてよ。カラーズの輸送隊使ってレイノスに売ることもできるし、カラーズで販売することもできるよ」
「おう、わかった」
ワッフーもインウェンも嬉しそう。
なるべく商売の輪を広げたいもんだ。
特に輸送隊は交易規模が大きくなるほど儲かるから。
「で、陶器の職人さん連れてきたよ」
「ではこちらへ」
ワッフーと白陶器男が話してる間、こちらも蝋燭男及びインウェンと話をする。
「ビックリするほど蝋燭が売れた。感謝するよ」
「今日明日で蝋燭が必要だったってのはメッチャラッキーだったな。聖火教徒に感謝しなよ。ところでインウェン、礼拝堂と今後の蝋燭の取り引きってどうなったかな?」
「先ほどのサンプルの一番小さいサイズのものを、五日に一度一五〇本ずつ、輸送費込みで四〇〇ゴールドでどうだ、という提案を受けましたが」
「輸送費はいくら?」
「販売価格の五%でいかがでしょう?」
「じゃ、緑の民としては、蝋燭一五〇本が三八〇ゴールドの勘定だね。それで輸送隊に頼む? それとも二〇ゴールドケチって自分で運ぶ?」
「輸送隊に任せたい」
「毎度あり」
カラーズから往復で四時間はかかる道のりだし、魔物が出ないとも限らない。
頼んで正解だろ。
少量ではあるが、仕事が増えてインウェンも嬉しそうだ。
今後聖火教本部礼拝堂との取り引きも増えるだろう。
「ところでインウェン、輸送隊で魔物や盗賊のトラブルは今までなかった?」
「魔物を見たことはありますが、襲われたことはないです。盗賊はないですね」
「まあ輸送隊の人員のレベルと装備なら問題ないとは思うけどね」
うーん、やはり魔物は道沿いにも生息しているらしい。
油断はできんな。
同じアルハーン平原西部ということで掃討戦の時と同じ魔物がいるとすると、大した強さではないけど。
蝋燭男が聞いてくる。
「輸送隊のメンバーって、魔物や盗賊と戦えるのか?」
交易に参加していない緑の民は知らなかったか。
「レイノスの警備兵の隊長はかなり強いけど、輸送隊は全員がその隊長と互角に戦えるくらいだよ」
「まさか!」
「ユーラシアさんに鍛えてもらったんですよ」
もう話しちゃっていいだろう。
「この前のさ。帝国の軍艦がレイノスを囲んで、結局ドーラの独立が認められたって事件あったでしょ?」
「ええ、私は前日にフェイ様からレイノスの様子をよく探るよう、言い含められておりましたが」
「表向き何もなかったことになってるけど、本当は戦争になる予定だったんだ。実際に帝国の潜入工作部隊が上陸して、塔の村の冒険者達に撃ち破られてる」
「「!」」
驚く二人。
インウェンはあたしが思ってたほどには、フェイさんに戦争について聞いてなかったみたい。
「直前には西が攻められることはわかってたけど、それまで潜入工作部隊がどこに上陸するかわかんなくてね。カラーズが攻撃目標になる可能性ももちろんあったから、自前の戦力が必要だった」
「だ、だから輸送隊のレベル上げを?」
「うん、まあね。勝手に戦力扱いしててごめんよ」
輸送隊も盗賊や魔物と戦う覚悟はできてたはずだ。
何も言わなくても、もしカラーズ防衛の戦いが起きたなら率先して戦ってくれたではあろうけど。
「実際にはドーラと帝国は戦争らしい戦争にならなかった。でもヤバいってことは族長クラスは皆知ってた。聖火教本部礼拝堂やカラーズが攻められることがあったら、フェイさんの指揮下に輸送隊と元冒険者の緑の民オイゲン族長、現冒険者のエルマが加わって防衛することになってたんだよ。聖火教徒がカラーズに合流した上でね」
「特殊な裏事情ですね……」
「いや、エルマって、あのエルマ? エルマ・ハニッシュ?」
極めて意外そうな蝋燭男。
まあわかる。
エルマ自身がみそっかすって言ってたくらいだもんなー。
エルマの成長を間近で見てきたあたしはともかく、緑の民には理解できないと思う。
「うん、そのエルマだよ」
「あの子じゃ何もできないだろう? 冒険者になって、魔物退治の時にあんたを連れてきたのは知ってるが」
「信じられんかもしれんけど、エルマは強いよ。特殊な固有能力持ちなんだ。成長が遅い代わりに、レベル上がりさえすればたくさんスキル覚えるっていう。覚悟さえ決めれば、今日にでも最年少ドラゴンスレイヤーになれる」
「マジか……」
絶句する蝋燭男。
マジなんだよ。
あたしが協力すればだが。
エルマの固有能力『大器晩成』は、有用なスキルを満遍なく習得するだけじゃなく、どうもステータス値の上がり幅が大きい気がする。
レベルを上げる手段さえあれば、『大器晩成』はかなり強力な固有能力なのだ。
「でも戦いの駆け引きとか立ち回りは別だぞ? エルマ自身あんまり強くなることに興味がなくて、冒険者より職人目指してるから、この話は内緒にしといてね」
「わ、わかったよ」
内緒話が内緒になるわきゃない。
こう言っとけば徐々に広まって、エルマが舐められることもないだろ。
今はエルマが高レベル者であることがバレても、特に支障はないのだ。
「器の話も終わったみたいだね。蝋燭の取り引き五日に一度一五〇本了承したって、伝えておいでよ。そしたら帰ろ」




