第563話:再び緑の民族長宅へ
三日前に会って、商売について考えた方がいいんじゃないのってあたしが煽った緑の民だった。
「緑の民も店出すんだ?」
「ああ、族長からオーケーが出てな」
「ガッチリ儲けるんだぜ」
「うん、頑張ってね」
始動が早いな。
やる気に満ちている。
長老ズも同じと見た。
「精霊使いはどこ行くんだ?」
「この前あんた達と会った時と同じだよ。オイゲンさんのとこ」
「そうか、じゃあな!」
「またねー」
てくてくてく。
耐え切れなくなったか、ケスが話しかけてくる。
「な、なあ姐さん。今の緑の民に注意しなくていいのか?」
「何を?」
「あれ、売れないだろう?」
「売れないねえ」
販売してるのが紙と蝋燭なのだ。
一つ二つは売れるかもしれないが、あんまり需要のあるものじゃない。
「ケスは偉いな。欲しがる人がいないから売れないことに気付いたか」
「助けてやらなくていいのか?」
「何で売れないか、考えるのも勉強だからね。帰る時困ってそうだったら、聖火教徒を紹介してあげてもいいかな。紙は……まだ難しいね」
いずれ大きな需要ができるだろうが、識字率を上げてからの話になる。
今売るならば読み書きと別の需要を作らなきゃいけない。
「ボクは紙欲しいけど」
「あんた達は欲しいかも知れない。でも一般に読み書きできない人は、筆記用具すら持ってないからな?」
「おいらにあの紙を売る案がある!」
ほう、ケスは何か思いついたか?
「よし、あとでケスの案を売ろう。いくらで売るか考えておくんだよ?」
◇
「こんにちはー」
緑の民族長宅へ到着した。
「はいよ、どなただい?」
「精霊使いユーラシアのパーティーとその他四名でーす」
「……」
「おやおや、待ってたよ。こちらへどうぞ」
サイナスさんのツッコミがないぞ?
だったらアレクがツッコんでくれればいいのに。
年の瀬なのにエンタメ成分が足りないわ。
この前の広い部屋に通された。
オイゲンさんと長老ズ三人がいる。
「灰の民族長のサイナスです。明日に迫った転移石碑設置の、正式な報告に参りました」
「そちらの三人は初めてですな。一人は精霊ですか?」
オイゲンさんが水を向けてくるので、あたしから説明する。
「こちらがアレク、灰の民前族長の孫で、明日の転移石碑設置において地中から魔力を吸い上げる装置を担当するよ」
アレクが頭を下げる。
「真ん中の子がケス。白の民ルカ族長の養子で、アレクの親友」
ケスも頭を下げる。
「あちらが疾風の精霊ハヤテ。オイゲンさんは知ってると思うけど、緑の民の村『精霊の森』に住んでる精霊だよ。時々灰の民の村に遊びに来るんだ。この三人がこの前見せた、ドーラの識字率を上げる札取りゲームの開発者でーす」
「まだ子供だろうに……」
「精霊とか」
……少し侮られてるか?
まあいい。
挽回の機会はいくらでもある。
「お土産のお肉と、お約束していた超すごいお茶でーす。まず飲んでみてくださいな」
量が量なのであたしとうちの子達は遠慮する。
「「「「「「「「!」」」」」」」」
「どうかな?」
驚愕している一同に声をかける。
うんうん、わかるよその気持ち。
「こ、これは……」
「す、すごいべ」
しばらく余韻を楽しんだ後、オイゲンさんが言う。
「いやあ、堪能させていただきました」
「これがおそらく、現時点で世界最高の茶葉の究極のパフォーマンスだよ。未だここにいるあたし達一二人しか飲んだ者がいない」
感動の海に浸れ、揺蕩え。
「この前ちょっと話したけど、これ多分全量が帝国への輸出品になっちゃうんだ。ドーラには販路もないし、出回らないと思う。だからあたしの手持ちの茶葉を少し分けてあげるね」
「それはすまんの!」
「ありがたや!」
おーおー、ものすごい食いつきようだね。
「この茶葉はひっじょーに繊細で、普通の淹れ方すると普通のお茶になっちゃうんだ。正しい淹れ方を説明するよ」
「うむ」
「ぜひ」
「まずは水。このお茶が広まらなかった最大の理由なんだけど、井戸水を使っちゃダメなの」
「な、何?」
「そ、それはいかなる……」
実によくわかる反応だ。
飲み水を井戸以外からどうやって手に入れる? って話になっちゃうからな。
説明を続ける。
「井戸水には微量な混ざり物があるんだ。だから井戸水を使うと、このお茶の最大の強みである風味が死んでしまう」
「じゃあどうやって淹れればいいんだい?」
「魔法の水は混ざりものがなくてピュアなんだ。アレク、お願い」
「うん」
アレクが『プチウォーター』でガラスの器を満たす。
あたしがやってもいいんだけど、アレクの株を上げとかないとな。
ちょっとはアレク達を見直してちょうだい。
「器も金属製のものはダメ。金属が水に溶け出すんだと思う。ガラス製が最高だな。ショップで赤の民がガラス容器を販売しているから、手に入れておくといいよ」
長老ズとオイゲンさんが頷く。
「茶葉はこれくらいかな。一二~一五時間も放置すると飲み頃だよ。夏だともう少し水出し時間が短くてもいいかもしれない。それ以上になると若干苦味が気になるよ」
「なるほど、特殊ですな」
「お湯ではいかんのか」
「お湯だと一部成分が飛んじゃうみたいなんだ。お湯で淹れても水出ししてから温めてもダメ。ただでき上がってから冷やすのは大丈夫だよ。夏の飲み物としてベストだと思う」
長老ズがえらい真剣な顔でガラス容器を見つめている。
お茶の味がわかる人ほどおいしく飲みたいだろうからなあ。
「オイゲンさん、緑の民に水魔法使える人はいるかな?」
「ふむ、心当たりはないですな」
「だったらエルマに『プチウォーター』のスキルスクロールを買ってきてもらうといいよ」
引退したオイゲンさんは知らないだろうけど、今はチュートリアルルームで『プチウォーター』のスクロールを買えるからね。
「エルマとはあの子だね。時々族長の元へ来ている」
「オイゲンさんのところへ来てるんだ? 彼女は冒険者であたしの妹分だよ。他の緑の民の誰よりも世の情勢を知る立場にあるんだ。可愛がってあげてね」
オイゲンさんのところへはヨハンさんの手紙を届けに来るんだろうが、まあしらばっくれたろ。
エルマが自由に動ければ、緑の民が対レイノス交易に参加するのも早くなりそうだから。
「じゃ、余興はここまでにして、明日の転移石碑設置の打ち合わせしちゃおうか」




