第562話:今年最後の日
――――――――――一二二日目。
落窪の月、所謂一二の月の最終日。
ユーラシアとドーラにとって様々なことがあった年の最後の日。
◇
「うん、完璧だ!」
昨日の夕食後から水出ししてあった超すごいお茶の味見をしてみたのだ。
クララが言う。
「今の時期だと一二~一五時間くらいが最適のようですね。夏で水温が高いとまた違うのかもしれませんが」
「夏だともっと短時間でいいかもしれないな」
時間が長過ぎると苦味が強くなるというのも実験済みだ。
おいしいはおいしいけどね。
「姐御、味見し過ぎるとなくなりやすぜ?」
「ほんとヤバいおいしさなんだけど」
「ナッシングになると意味ナッシングね」
油断してると、今日持っていく分がなくなってしまうわ。
油断とは言わないか。
今の寒い時期でさえこうだもんな。
真夏の喉渇いてる時の冷茶だったら、お土産分がなくなるのわかってても飲んじゃいそうだわ。
「よし、行こうか」
「「「了解!」」」
◇
「サイナスさん、おっはよー」
「ああ、来たか」
灰の民の村のサイナスさん家にとうちゃーく。
あれ? アレクとケスとハヤテがいる?
「ケスも輸送隊お休みなんだ?」
「姐さん、年末年始で輸送隊自体がお休みなんだぜ」
「レイノスもほとんどの店が年末年始休業だから」
「そーなの?」
何だよ、サイナスさん。
夜の通信で言っといてよ
「この三人も緑の民の村へ連れていくんだ。構わないか?」
「あたしはいいけど、向こうに迷惑じゃない?」
「連絡はしてあるんだ」
アレクケスハヤテに経験させるつもりかな?
あたしの許可なんかいらないじゃん。
まあ向こうの族長宅は広いし問題ないだろ。
「ちょっと確認するけど、アレクは『プチウォーター』をどれくらい器用に使える? この容器に水一杯にしろって言われたら、壊さずこぼさずできる?」
お茶の入れてあるガラスの器を見せる。
「できるよ」
「じゃ、アレクとケスでこれ持ってくれる?」
ガラスの器と冷凍コブタ肉を渡す。
「何で『じゃ』なんだか、話が繋がらないような気がするんだけど?」
「気のせいだよ。乙女には色々事情があるの」
腑に落ちない顔いただきました。
「あんた達、輸送隊の隊員であることは言わないでね。まだデリケートな問題だから」
「ユー姉の口からデリケートって言葉が出てくるとは」
「うん、やっぱりスパッと言われた方がいいね」
以前ピンクマンが言いよどんだ挙句、ユーラシアの口からバリケードならともかく、デリケートという言葉が出てくるとはって白状したことがあったが、テンポがよろしくない。
エンタメにはテンポも大事な要素なのだ。
「行こうか」
まずは緩衝地帯に向けて出発。
◇
道々皆と話しながら進む。
「今日はヴィルはいないの?」
「ヴィルかー」
あちこちに紹介したいのは山々なんだが。
「輸送隊の面々に見せた時の反応を見ると、慎重にならざるを得ないね」
「ユーラシアがそんな配慮するのは珍しいな」
「いや、偏見で見られるとヴィルが可哀そうなんだよ。ヴィルは好感情を欲しがる子じゃん?」
必要性がある時やテンション上がっててオールオーケーの時に紹介したい。
あたしに信用があってうちの子だぞーで通用しちゃえばいいんだが、残念ながらあたしの信用度はまだ期待できるほど高くない。
「黒の民は大歓迎してくれるけどね。それ以外にはボチボチだな」
「ふうん」
「ユーラシアさん、面白いことはないだか?」
「あれ? ハヤテまでエンタメを欲しがるようになったか。なくもないよ」
皆が期待してるわ。
ごそごそ。
「じゃーん! 『遊歩』のパワーカード!」
「「「「『遊歩』?」」」」
「一人用の飛べるカードだよ」
使って飛んでみせる。
「便利だね」「すげえ!」
アレクとケスの感想が対照的だね。
「これまだ一般には出回ってないけど、販売開始したら紹介するよ。多分二〇〇〇ゴールドくらいになる」
『サイドワインダー』程度の値段になるんじゃないかな。
「「二〇〇〇ゴールドか」」
奇しくも二人の声がハモる。
「レベル二〇くらいあれば使えるはずなんだよ。使ってみそ?」
あたしとクララが『遊歩』のカードを貸す。
「……何だ上手いじゃん。つまらん」
普通にスイスイ飛んでる。
「クララの『レイズ』の出番がないじゃないか」
「『レイズ』って蘇生魔法だろう? そんなに危ないと思っていたのかい?」
「制御が難しめなんです。レベルが高くない方が制御はしやすいようですねえ」
「ハヤテは自分で飛べるからいいねえ」
「あい」
サイナスさんが聞いてくる。
「レベルが高いと却って難しい?」
「コントロールしにくくてものすごいスピード出ちゃうんだよ。サイナスさんなら悲鳴上げるくらいの」
クララの高速『フライ』を思い出したか、嫌そうな顔をする。
降りてきたアレクとケスに聞く。
「どうだった?」
「「楽しい!」」
「まあ大儲けしたら考えなよ」
楽しいだけで必要性を見出せないなら、二〇〇〇ゴールドはちと高いしな。
そうこうしてる内に緩衝地帯へ。
「黒の民が買い取り屋をオープンしたぞ」
「買い取り屋はありがたいな。カラーズのショップも段々便利になるねえ。せっかくだから、買い取り屋にちょっと寄っていい?」
手持ちがちょっと寂しいのだ。
昨日得た魔宝玉を少し売っておくか。
買い取り屋へ。
「こんにちはー」
「おう、精霊使いか」
わかりづらい買い取り屋だな。
接客の時は黒フード取ればいいのに。
「これいくらで買ってくれる?」
「ほう、透輝珠か。一五〇〇ゴールドでどうだい?」
うん、アイテム鑑定も値段もしっかりしてる。
「あんたは『道具屋の目』の固有能力持ちなのかな?」
「ああ、今まで呪術グッズ工房で役立てていた力だが、レイノスに若干高く引き取ってくれる店があるのを輸送隊の連中に教えてもらってな。差益で儲けることにしたんだ」
「いいねえ。レイノスに自分で店出せるともっといいけどね」
「ハハッ、まあでもリスクもあるだろ? まずは欲張らずにやるんだ」
いい傾向だなー。
「毎度。魔宝玉は差益が大きいからありがたいぜ。また売ってくれよ」
「うん、じゃーねー」
ギルドも儲けさせてあげないといけないから、そうは売れないんだけど。
「さて、行こうか」
おゼゼもできたことだし。
あれ、あんなところに新しい店かな?
くすんだ緑の髪色からするとこの前の……。




