第561話:悪評が広まったらどえらい迷惑
「ユーラシアではないか!」
「あっ、リリー!」
メキスさんと話してたらリリーと黒服が来た。
結構遅い時間まで塔の探索してたんだな。
「皇女殿下、御機嫌麗しゅう」
「畏まるのはやめて欲しい。我は身分を捨て、今はドーラ人だからの」
「は」
メキスさんがあっさり引き下がる。
「ユーラシアは何しに来たのだ?」
「メキスさんに会いにだよ」
「ほう?」
「これからのドーラがうまくやっていけるかの、キーマンの一人なんだぞ? リリーも気にかけててよ」
「うむ、能力にも信義にも欠けるところのない男だとは知っておる」
リリーの褒め方はストレートだ。
メキスさん嬉しそう。
黒服も軽く頷く。
メキスさんがどういう人か知ってるんだろうな。
「これお土産だよ。ドーラ産のお茶の発酵度の高いやつ」
「おお、すまんの」
「またあとで感想聞かせてよ。それから枝変わりで出た、すげえおいしいお茶ってのを教えてもらったんだ。ただし繊細で淹れ方がメッチャ難しいの。今度持ってくるから」
「楽しみにしておるぞ」
よし、塔の村での用は全て終わり!
スッキリした。
「じゃ、あたし帰るね」
「ん? 食堂で食べていかんのか?」
「今日はうちの子達置いてきちゃったからね。また今度にする」
「そうか。またな」
「じゃあ、皆元気でね。あいるびーばーっく!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
寝る前恒例のヴィル通信だ。
夕食前にアトムが新しい『地図の石板』を回収してきていたが、緊急ではなかったので後回しにしている。
『ああ、こんばんは』
「今日は久しぶりに魔境行ってきたんだ」
『魔境? また魔宝玉狩りかい?』
「うん、魔宝玉も目的の一つだけど、魔境のクレソン取ってきたんだよ」
『クレソン? 食草か?』
意外だったようだ。
サイナスさんはあたしが魔境で魔宝玉狩りしかしてないと思ってるのかな?
役に立つものを色々回収してきてるんだってばよ。
「食草だね。水の豊富なところなら育つ感じ。魔境のはこの時期でも繁殖するくらい寒さに強いってことがわかったからさ。なるべくあちこちで増やそうと思ってるの」
『ありがたいな。移民の食料対策か』
「重要な意味があるね。西域にあるあたしの名前がついてる自由開拓民集落と、塔の村に植えてきた」
『ハハハ、ユーラシアの村があるのか』
「昔はバボって名前だったんだけど、盗賊村として名が知られちゃっててさ。このままだと旅人が来ないから名前変えさせたら、村人達があたしの名前つけちゃった」
『盗賊村か。貧しいんだろう? ユーラシアがクレソンを植えてきた理由はわかる』
苦しいから追い剥ぎをする理屈はサイナスさんも理解してるんだな。
「自由開拓民集落美しきユーラシアには亜人の遺跡があって、洞窟コウモリがたくさん住み着いてるんだよ。洞窟コウモリは食べるとおいしいし、クララがイモなら間違いないって言ってたから種イモ置いてきたし、クレソンもあるから、今はもう全然オーケーだよ」
『うん、上々だね』
「転移石碑に使う重くて硬い石は、麗しのユーラシアで買ってきたんだよ。そのお金使ってポーションの作り方習ってこい、周りの村と交流しろって言ってあるんだ」
『ははあ、また随分世話焼いてるんだね?』
「だってあたしの名前で悪さしてくれても困るもん」
『しかし集落の名の修飾語が一々変わるのがウザい』
アハハ。
可憐なユーラシアの悪評が広まったらどえらい迷惑だからね。
「デス爺に転移石碑設置のことは話してきたから、明後日来てくれるよ」
『ありがとう。しかしあの『スライムスキン』で作る魔力取り込み用の足? かなり難しいな』
「やってみたんだ? どうだった?」
『作業としては何とかなるが、理論まではオレじゃムリだな』
「サイナスさんでもムリなのかー」
となるとドーラでわかるの一〇人もいない?
貴重な技術だから、もっとわかる人増えて欲しいのに。
「誰かが簡単な魔道の入門書を書いてくれないかなー」
『ユーラシアは以前オレが学校作りたいって言ったの覚えてるかい?』
「もちろんだよ。思えばあたしがドーラの識字率どーにかしたいって考えるようになったのは、あれからだった」
『ああ、そうだったのか』
嬉しそうじゃないか。
「魔道に関してはアレクに任せたいな。デス爺やペペさんの知識は深いかもしれないけど、他人にわからせようとはこれっぽっちも考えてないもんねえ」
『ペペさんとは世界樹の近くに住んでる大魔道士だったか?』
「うん。魔法の試し撃ちでドラゴン吹っ飛ばしまくってレベルカンストしたとか、ちょっと魔法撃ち損なって世界樹根元から折っちゃったとか、色々ヤバい人」
『ウソみたいな話だな。本当なのか?』
「本当も本当。世界樹折っちゃった時はデス爺に相談したけど、『しょうがないやつじゃな』って笑ってたよ」
笑ってはいなかったか?
「で、話戻すけど、魔境で狩った魔宝玉を、デス爺と塔の村に攻め込んだ潜入部隊の隊長に渡してきたんだ。あっちもおゼゼないから」
『降参兵に資金渡すと逆に危なくないか?』
「いや、問題ないよ。ドーラで頑張れよ帝国帰ると処刑されるぞーって、隊員全員に事細かく説明してあるからね」
『君のやってることは色々ひどい』
「ひどいのはあたしじゃなくて現実の方だとゆーのに」
メキスさんはメキスさんで、第二皇子の非情さをわかってたみたいだしな。
ドーラが見どころあるってわかれば気に入ってくれるよ。
いずれその能力に適した仕事を振りたいけどなあ。
「でもドーラでの扱いがよろしくないと面白くないだろうからさ。構ってやらないといけないじゃん? 有能集団であることは間違いないし」
『君はそういうところマメだな。畑作らせてるって言ってなかったか?』
「もう綺麗な畑になってんの。ビックリした。軍人さんって農家の次男三男とかが多いんだって」
『実に助かるな』
あっちは植えるものさえあれば大丈夫だ。
とりあえずイモ作ってもらおう。
『覚えてるか? 明日は緑の民の族長宅だぞ?』
「わかってるよ。至高にして究極のお茶を御馳走する」
『期待してるよ』
「うん、サイナスさん、おやすみなさい」
『おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は既に水出し中のお茶持っていこ。
飲んで驚け。




