第556話:ドーラ帰還後初めての魔境
――――――――――一二一日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、おっはよー」
「ゆ、ユーラシアさん? いらっしゃいませ。御無事でしたか!」
久しぶりに魔境へやってきた。
おお、我が心の故郷よ。
「うん、元気だよ。オニオンさんも元気そうだね」
「ワタクシは、いえ、まあ、はい」
「すげえ。全然元気だかそうでないんだかわからねえ」
アハハと笑い合う。
「どうやらユーラシアさんがドーラに帰ってきているようだ、という噂は聞きました。それ以上のことは何も」
「戻ってきたのは八日前なんだけどさ。あたしも色々忙しくて」
まず生活を整えるために肉狩りと凄草の株分けが必要で。
次にカラーズと聖火教本部礼拝堂の様子を確認しなければならなかった。
カトマスのヨブノブはイレギュラーな案件だったけど、数日遅れたら一人の『アトラスの冒険者』がクビになるところだったのだ。
軽視はできなかった。
その後はほぼ、ほこら守りの村の幼女占い師マーシャの言うことに従って行動している。
ギルドや魔境の優先順位は低いから、こっち来るのが遅れただけだ。
エルフの族長アビーから鳳凰双眸珠持ってこいの依頼を請けたんで今日は魔境に来たけど、さもなくばもっと先だったと思う。
「八日前ですか。ということであれば、半月ほど帝国に?」
「うん。聖火教大祭司ミスティさんの出身地である、山の中の聖火教徒の集落にいた。今はその集落の住人は転移で全員ドーラに連れてきたけど」
オニオンさん頷いてるな。
この辺はソル君辺りに聞いてるっぽい。
「何故半月も向こうに?」
「ドーラにいると何故って思うかもしれんけどさ。向こうであたしが暴れてりゃ、ドーラの戦いが楽になると考えてたんだよ」
「二正面作戦は愚策という観点ですね? ずっと帝国で寝泊まりしていたんですか?」
「帝国の魔道技術がどんなもんかわかんないからね。山岳地帯の不逞の輩とドーラが関係していることを感付かれるわけにいかないじゃん? ドーラが独立できても帝国との関係が悪くなるかもしれない」
「そこまで考えていらしたんですか」
「あたしはドーラをいい国にしたいんだよ。円満独立が一番いい」
帝国の魔道技術は侮れない。
実際魔道レーダーなんてえっらい広範囲の探知技術を見せつけてきたしな。
転移をブロックされるのも怖かった。
「帝国との関係がギクシャクすると、ドーラの未来がないと」
「まあねえ。ちょっと貿易が滞っただけで、困ってる人レイノスでは多かったじゃん。独立が大事なんじゃなくて、人が豊かに幸せになることが大事なんだからさ」
「人が豊かに、幸せに……」
ま、そんなことより。
「あたしは向こうで頑張ってたのに、ドーラは砲撃すらなかったって話じゃん? どーゆーことだ。ボーナスを寄越せ!」
「ハハハ。新聞では独立戦争などとは一言も書かれていませんでしたよ。ただ帝国の友好国として独立と」
「正解だねえ」
多分反帝国感情を起こさせないためじゃないかな。
「ユーラシアさんはどうして今日は魔境へ?」
「新しいクエストがエルフの関係でさ。エルフの族長から鳳凰双眸珠持ってきてくれっていう依頼受けたんだ」
「エルフ? 森エルフですか?」
「そうそう、森エルフ。クエストで飛んだ先で知り合ったの」
オニオンさんが難しい顔をする。
「鳳凰双眸珠と言えば世界の秘宝です。生半可な対価じゃ釣り合わないですけれども」
「これ、どう思う?」
『ウォームプレート』を見せる。
「パワーカードですか?」
「森エルフで独自に発展したやつなんだ。起動してみてよ」
「はい。あ、温かい? 武器じゃないんですね」
「温まるだけのカードだよ」
「……つまりカイロ代わりのカードということですか?」
「燃料切れを起こさないでいつまでも使えるカイロだね」
「なるほど! これはいいですね」
オニオンさんがにこやかな顔になる。
「反対に涼しくなるカードっていうのもあるんだ。夏用だね。これらの製作法と交換ってことにした」
「製作法? ユーラシアさんはパワーカード製作もやるんでしたっけ?」
「いや、もちろんカード職人さん連れてって教えてもらうんだけどさ。これは誰もが欲しがると思わない?」
「思いますが……」
まだ腑に落ちないようだ。
「帝国とドーラの貿易が活発になると、どうしてもドーラから売るものが少ないでしょ? これなら作れば作っただけ売れる! 大儲けだ!」
「あっ!」
「それに触発されてパワーカード職人が増えたら、変わったカードも生まれるだろうから、あたしも万々歳だよ」
「ははあ、生活に使えるパワーカードという考え方ですか」
「パワーカードはドーラにしかない技術だからね。こういうカードもあるんだよ」
『遊歩』を起動し、身体を少し浮かせる。
「『フライ』の魔法ですか?」
「ペペさんが開発した、機能限定の代わりに消費マジックポイントを少なくした飛行魔法を常時起動して、マジックポイント自動回復と合わせてノーコストにしたカードだよ」
「なるほど、これもまた戦闘とは直接関係ないカードですか」
「残念ながらこれはレベル二〇以上の人が装備しないと使い物になんないから、さほど儲けにはならないんだけどね。日常系パワーカードは売れると思うんだ」
「ユーラシアさんの視野は大変に広い……」
ハッハッハッ、尊敬したって何も出ないぞ?
でもまたおっぱいさんとの会食はセッティングするからね。
「ペペさんと言えば、以前オニオンさんにもペペさんオリジナルの『大魔道士の祝福』って魔法を見せたじゃん?」
「支援魔法でしたよね。星が降るような光に包まれる、美しい魔法でした」
『精霊のヴェール』もだけど、全体支援魔法の類は奇麗なんだよな。
しかし……。
「でもユーラシアさん、使う機会ないですよね?」
「正規の用途ではね。どう使ったらいいかと思って」
奇麗ではあるけど、範囲が狭いのだ。
『精霊のヴェール』みたいに空に撃ち上げてもな?
せっかくペペさんがあたしのために作ってくれたんだから、有効利用したいじゃないか。
「御自分の威厳付けとか愛し合う二人を祝福とか」
「なるほど!」
愛し合う二人を祝福っていいな。
聖女なあたしっぽい。
「オニオンさん、ありがとう! 行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ」
ユーラシア隊出撃。




