第553話:転がしたくなる
「まあ、こんなにたくさんの魔宝玉が?」
エルフの里まで戻ってテラワロスを『レイズ』で正気に戻し、族長宅に案内させる。
何で蘇生魔法が必要なんだって?
あたしも『キュア』でよかったような気もするが、クララは何となく『レイズ』にしたそうだ。
それだけ哀れに思えたんじゃないかな。
クエストについてはアビーが喜んでくれてよかったよ。
いい仕事ができて満足だ。
「ロック鳥がくれたんだよ。なかなか話のわかる子だった」
「そうでしたか。ではロック鳥を食卓に乗せるわけにはいきませんねえ」
「ユーラシアさんと発想が同じ……」
テラワロス黙ってろ。
あたしはまずそーなロック鳥なんか食べたくないのだ。
残念だけど食べることを諦めるとゆースタンスのアビーとは、根っこが違うだろーが。
「これだけ魔宝玉があると転がして遊びたくなりますねえ」
「……」
何をバカなこと言ってるんだと理性は囁くんだが、アビーの発言には幻惑されるなあ。
どーゆーわけかあたしも転がしたくなってきた。
「族長、大事な魔宝玉ゆえ、遊びに用いるのは御容赦を。あとで木の玉をたくさん作って差し上げますから」
「あらカナダライさんたら。女心がわからないのね。遊べと言われても遊びたくないものなんですよ」
「カナダライさん、大変だなー」
女心に何が関係あるんだって説もある。
でも乙女心を持ち出すタイミングがあたしとほぼ一緒ってのが嫌だなあ。
アビーの言うことには魅力があるのだが、有能でも有益でもないので始末に終えない。
ヒラヒラと飛び回るアゲハチョウの気まぐれみたいなもんだ。
重厚なカブトムシたるカナダライさんがいないと、マジでエルフの里は困る気がする。
カナダライさんが言う。
「謝礼は『クールプレート』と『ウォームプレート』四枚ずつでよろしかったですかな?」
テラワロスに聞いてたみたいだな。
「うん、ありがとう。十分だよ」
「当面、魔宝玉の流通量として問題ないとは思うが、取引量が多くなるに連れ、また足りなくなってくることは予想される。その時はまた依頼してよいだろうか?」
「いや、テラワロ君が人形系レアの倒し方知ってるみたいだよ?」
「本当か、テラワロス!」
まああたしが『経穴砕き』の使い方を教えたんだが。
テラワロスの商売の邪魔をしても何だからな。
飛行魔法で死にそーな顔になってたのはあたしも可哀そうだったとは思うから、少しお金儲けに協力してやんよ。
「ええ、まあ」
チラッとこっちを見てくるテラワロス。
貸しだぞ?
一気に人形系レアの倒し方が広まって魔宝玉インフレ起こすより、有料情報にしとくのがいいだろうし。
「もし黄金皇珠や鳳凰双眸珠とかの高級魔宝玉が必要になるんだったら依頼してよ。あたし達の十八番だからね」
「いやいや」
カナダライさんが苦笑しながら首を振るが、アビーは違ったことを考えていたらしい。
「ユーラシアさんの見た中で一番美しいと思う魔宝玉を転がしてみたいですねえ」
まだ転がすネタを引っ張るのかよ。
……あたしも転がしてみたい気がするな。
どーしてアビーの言うことはあたしの感性を刺激するんだろ?
「聖地母神珠ってのが一番素晴らしいけど、これ魔境の奥深くに一体だけいた未知の人形系レア魔物のドロップなんだ。また遭えるかわかんないし、出現しても逃げられない地形に追い込めないと倒せないから、ちょっと難しいかな」
「ほう、ウィッカーマン以上の人形系レアということですかな?」
カナダライさんはウィッカーマンを知ってるんだな。
やっぱ長生きしてるエルフともなると、どこかで見聞する機会もあるんだろうなあ。
「ウィッカーマンのドロップは、コモンが黄金皇珠、スーパーレアが鳳凰双眸珠なんだ。ウィッカーマンまでは倒せるんだけど、問題の未知の人形系魔物はウィッカーマンの三倍くらいのヒットポイントを持ってるの。ダメージ与えると逃げようとするから、よっぽど運がないと倒せないよ」
「ウィッカーマンも理論上倒せないと、ノーマル人ドラゴンスレイヤーに聞いたが……」
「普通じゃムリだねえ。今のところうちのパーティーでしか倒せないから、御用向きがあればどーぞよろしく」
宣伝しとこ。
エルフも一つくらい飾っておきたいと考えるかもしれんし。
魔宝玉クエスト以来、高級魔宝玉を狩る機会はなかなかないからな。
「ではその鳳凰双眸珠を一個、欲しいですねえ」
「アビゲイル族長!」
カナダライさんが大声をあげる。
「鳳凰双眸珠はカル帝国の宝物庫に一つだけ保管されているという、世界の大秘宝ですぞ!」
表向きはそーゆーことになってるが、あるところにはあったりする。
全部魔宝玉クエストであたしが持ってきたやつだけど。
これからエルフとの付き合いも重要になるだろうから、アビーになら一つくらいあげてもいい。
ただアビーは高級魔宝玉の価値を軽く見てるんじゃないかって不安があるから、バッチリ対価はいただきたい。
それにしてもカナダライさん、ノーマル人側の情報にもよく通じてるな。
大したもんだ。
「鳳凰双眸珠獲得を依頼しても、我が里には交換できるものがありません。どうか、お考え直しを」
「ユーラシアさん、『クールプレート』と『ウォームプレート』の製法ではいかがですか?」
「製法? あっ、製法教えてくれるなら交換でいいよ」
「ゆ、ユーラシア殿?」
真っ当な取り引きで手に入れた製法なら、エルフに気兼ねなく製造販売できる。
一般のパワーカードと違い誰もが欲しがるであろう『クールプレート』と『ウォームプレート』は、どれほどの経済効果を生むのか計り知れない。
「ちょっと納入日いつになるかわかんないけど、半月以内には持ってくるよ。いいかな?」
「ええ、お願いいたします」
「楽しみが増えたなー」
カナダライさんは心配そうな顔をしてるし、テラワロスは我関せずだ。
族長の言動に無関心ってどうなんだろ?
もうちょっと教育しときなよ。
「じゃ、あたし達帰るね」
「さようなら。奇麗な魔宝玉を転がすのを楽しみにしてますので」
どんだけだ。
何だかあたしも楽しみになってきたんだけど。
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
これ石板クエストだったな。
ムダになってる経験値が悲しい。




