第548話:あたしだって時と場合は考えるわ
長老連もほぼ交流交易に賛成の気配になってきたじゃないか。
ヨハンさんを認めることはないみたいだけど。
もう一押ししといたろ。
「個人的な意見だけど、他所と関わり持たないのはおいしいもの面白いものを無視しちゃってるのと同じで、人生の損失だと思うねえ。ヨハンさんと関わりたくなくても、やり方なんていくらでもあるよ」
「うむ、よくわかった」
「でしょ? 手始めに緩衝地帯でのショップを再開してはどうかな? あれはヨハンさん全然関係してないよ」
「他色の民との商売ということじゃの?」
「ついさっきも、灰の民のショップに買いに来てくれる緑の民二人組に会ったんだ。話聞いてたら、商売やりたいみたいな意見だったぞ?」
「早急に検討しよう」
オーケー、問題なし。
オイゲンさんの喜ぶまいことか。
もーサイナスさんったら、あたしがその二人組を煽ってたんだろって目で見てくるけど、いいじゃないか。
枝葉のことは。
重要なのは最初の一歩なのだ。
サイナスさんが言う。
「数日中にクー川近傍と容易に行き来できる転移石碑が設置されることになると思います。その際に黄の族長宅に集まって会議を行い、開墾についての方針を決定します」
「会議より前に一度遊びに来るから、超すごいお茶期待しててね」
「待っているぞ!」
長老ズ三人が手をブンブン振る中、帰途に就く。
オイゲンさんもついて来てくれるようだ。
「今日のユーラシアは大人しかったんじゃないか?」
サイナスさんが聞いてくる。
何だそのいつものあたしはもっと狂暴だろみたいな言い方は。
あたしだって時と場合は考えるわ。
戦略的にゴリ押すわ。
「今日緑の民の村に来て、オイゲンさんの立場が思ったより弱いとわかったからね。長老さん達が納得できるメリットだけ提示しといて、実務をオイゲンさんが担当する体制なら、動き出すのが早いかなと思ったんだ。レイノスとの交易はともかく」
「いや、助かりました。精霊使い殿の手腕には敬服いたしますぞ」
「あたしとしては消化不良もいいところだよ」
「こらこら。オレもオイゲン族長もせっかく感心していたんだぞ?」
三人で笑い合う。
「今後どうする? ヨハン氏との関係は深めづらくなったんじゃないか?」
「いや、理屈のわかんない人達じゃなかったじゃん。儲けたりレイノスのものを手に入れたりするのには交易に参加するのがいいって、すぐ気付くよ」
問題は長老ズがヨハンさんの何を恐れているかということだが。
「要するに、ヨハンの血筋の正統性ですな」
「やっぱそーなのか」
ヨハンさんは緑の民先々代族長の長男家と次男家のハイブリッドだ。
血統から族長たることを主張したら、賛同者も出るだろうと恐れているのか。
心配はわからんでもないけど、ヨハンさんの意見がこれっぽっちも入ってないのがな?
普通に考えりゃ、バリバリの商人が田舎村の族長なんかやりたがるわけない。
「で、どうするんだ?」
「あれ? 丸々あたしに振られるのか」
今日働いたから、あとは休みにしてくれりゃいいのに。
「どうにでもなるけど、ドラマチックな場面作ったほう.が面白いかなあ?」
「エンターテインメントはいらない場面だぞ?」
サイナスさんは勘違いしてるんじゃなかろうか。
エンターテインメントより優先しなきゃいけないことって何だ?
「エンターテインメントは何より優先すべきだって考えてるだろう?」
「すげえ、サイナスさんエスパー?」
「ハハハ、今は待ちでよいですかな?」
オイゲンさんの機嫌がいい。
「うん。もう少しすると住民から要望出てくるはずだから、それに乗っかるのが自然でいいんじゃないかな」
「あっ、君、住民から言ってくるのを狙ってあの二人煽ってたのか?」
「あの二人とは?」
オイゲンさんが聞く。
「さっきちょっと話に出ましたけど、灰の民のショップに買いに来ていた緑の民がいたのですよ。村が動かないなら個人で店を出す手もあると、ユーラシアが煽っていたんです」
「上の方針と下のやる気の方向が一致してるとやりやすいんだってば。あたしは尻に火をつけて目の前にエサぶら下げただけだよ」
「言い方がひどい」
「いやいや、精霊使い殿の配慮、痛み入りますぞ」
ハハッ、オイゲンさんは気持ちよく褒めてくれるなあ。
サイナスさんも見習え。
あたしは褒められるほど調子が出てくる子だぞ?
「ところで次回のお茶は、言われるほどに素晴らしいものなのですかな?」
「控えめに言って天上の美味だよ」
「大上段に振りかぶるなあ。聞いてるこっちがヒヤヒヤするんだが」
多分あの超すごいお茶は冷たくして夏に飲むのが最高だろうな。
「ただ繊細なだけに淹れ方が難しいんだ。どうしたら上手に淹れられるか、色々試してるところなの」
「ふむ、正直わしも楽しみです」
次はいつ頃緑の民の村に行くかなあ。
とゆーか転移石碑の状況、今どーなってるんだ?
そっち聞くのが先っぽいな。
クエストで素材を手に入れたら、挨拶兼ねてアルアさんとこ行くか。
「サイナスさん。何で緩衝地帯に食べ物屋がないんだろうねえ?」
「確かにあれば流行りそうではあるな」
冬だから食材が少ないってことが影響してるかな?
灰の民の小麦粉でパンでも焼いて売ったらいいのに。
「では、わしはこの辺で」
「わざわざお送りいただき、ありがとうございました」
「オイゲンさん、さようなら」
サイナスさんとともに灰の民の村へ帰る。
「君、これからどうするんだ?」
「灰の民の村で何か食べてくよ。午後はエルフの里行くんだ」
「ああ、クエストって言ってたな。エルフって精霊親和性高いと聞くけど、実際のところどうだったんだ?」
どうなんだろ?
うちの子達喋ってなかった気がするけど。
「精霊親和性は皆高いと思います」
「でも『精霊の友』レベルじゃねえでやすぜ」
「マアマアね」
「ふーん、まあまあくらいなんだ」
「テラワロスは『精霊の友』でやすぜ」
「よっぽどコケシに可愛がられたのかなあ」
精霊親和性の高い人が精霊に関わってると、バエちゃんみたいに『精霊の友』になる人がいる。
これは慣れが大きいんだろうな。
「サイナスさんは午後何かあるの?」
「特に予定はないな」
「じゃあこっちに何もなければ、今日の夜のヴィル通信はなしね」
「ああ、わかった」
灰の村が見えてくる。
お腹減ったわ。




