第547話:これからずっとあたしのターン!
あれ、オイゲンさんとサイナスさんがあたしを見てくるじゃないか。
もうあたしの出番なのか?
このヘタレどもめ。
これからずっとあたしのターンだぞ?
「こんにちはー。精霊使いユーラシアだよ」
「掃討戦で大活躍したという子だね?」
「その後ドラゴンスレイヤーになったとか」
「よく知ってるね。お土産持ってきたんでどーぞ」
餌付けの時間だ。
オイゲンさんと長老ズの前に四つの筒を置く。
「これは?」
「お茶だよ」
「「「お茶!」」」
長老ズが驚く。
輸入品は手に入りにくい上に、結構なお値段になっちゃうからだろうけど。
「これは高価な、珍しいものをすいませんな」
「帝国からの輸入が細って、ほとんど入ってこないと聞いたが……」
「いや、これドーラ産なんだよ」
「「「ドーラ産?」」」
再び驚く長老ズ。
「ザバンっていう、西域の自由開拓民集落で作ってるのを見つけたんだ。緑の筒が発酵度の浅いもの、赤の筒が深いものだよ。どーぞ御賞味してくださいな」
「これはこれは。では早速失礼して……」
湯を沸かし、お茶を淹れてくれる。
緑の筒のほうだ。
うん、まあまあおいしい。
「……これは素晴らしい」
「輸入物よりずっと香り高いのう」
そーなの?
帝国は劣等品をドーラへ送りつけてるのかも。
けしからんな。
「帝国の皇女がドーラの西の果て、塔の村に来て冒険者活動してるんだ。その子に飲ませてみたら、帝国本土のものと遜色ないって言ってたんだよ」
「ほう!」
「帝国の皇女が認めるほどの茶がドーラで飲めるとはのう」
感心しきりだ。
お茶の味をちゃんとわかってくれるんだなあ。
こういう人達が多ければドーラでもお茶が飲まれるようになるのに。
「でもこのお茶、全然売れないんだ」
「な、何故じゃ?」
「お三方のようにお茶の味のわかる人が、ドーラにはほとんどいないからだよ」
絶句する三人。
もっともお茶は外貨獲得の手段と割り切れば、輸出用商品作物になるのも仕方ないかとは思う。
「何と……」
「……もったいないことだ」
「ドーラでもレイノスの上級市民はお茶を飲む習慣があるんだそーな。でも彼らは帝国産のものをありがたがっちゃうの。ドーラ産には見向きもしない」
「「「……」」」
「ドーラでお茶を作ってる一家も、これだけの品質のものを作ってるのに、年間の収入が一万ゴールドに満たないくらいらしいんだ。ひどくない?」
「口惜しい話だの」
義憤に駆られたろうか。
口を『へ』の字にする長老ズ。
「実に素晴らしい茶だがのう」
「何とかならんものか」
「なる予定だよ」
「「「えっ!」」」
三人の目が丸くなる。
「ど、どんな手法で?」
「件の茶農家なんだけど、枝変わりで超すごいお茶が出たんだ。飲むと魂が天国に飛ばされるくらいの」
「それほどのものが?」
「ドーラで売れないなら、帝国に売ってリベンジするよ。やっぱり努力してる人は報われないといけないから」
「う、うむ」
「ま、まあ評価されるところに持っていくのは当然だの」
おや、残念そうだね?
「こっちの超すごいお茶も譲ってもらっているから、今度御馳走するよ」
「ありがたいことだの!」
「今日のお茶のおいしさがわかるなら、どんだけ期待値高めても大丈夫だよ。想像をかるーく超えてくる素晴らしさだから」
おーおー、すげえ楽しみそうだね。
サイナスさんがハードル上げていいのかって顔してるけど、うちの子達見てみろ。
皆頷いてるから。
「お茶の話はこの辺にして、本題行こーか。転移石碑と開墾の話ね」
◇
「今日は楽しかったですぞ、ユーラシア殿」
「ドーラのお茶も、帝国からの移民が持ち込んで増やしたものなんだって。新しい移民が来ると、あたし達の知らないものや技術があるに違いないよ。きっとおいしいもの、素敵なものもあるはず」
頷く長老ズ。
内一人がためらいがちに聞いてくる。
「交流は……必要じゃろうか?」
よーし、かかった!
「今日のお茶でも、産地ではすげえ精魂込めて作ってるんだよ。ロクに売れもしないのに美味いって信じて」
「「「……」」」
「他所にもいいものあるよ。いいものを手に入れられれば嬉しいし、評価されれば相手だって嬉しいんだ。誰も損しないと思うけどねえ」
遠回しに伝えてみた。
納得はしているようだが、葛藤はあるみたいだな。
「……カラーズ交易に関与しておる商人がいるだろう?」
「ヨハン・フィルフョーさんだね。レイノス東に居を構え、自由開拓民集落とレイノスとの商取引で財を成した、信用のおける商人だよ。カラーズ~レイノス間の交易がうまくいってるのはヨハンさんのおかげ」
ズバッと言ったった。
どう反応するかな?
「やつの両親は緑の民族長家の出なのだ」
「さすがに優秀だねえ」
しらばっくれたろ。
こら、サイナスさん笑うな。
「過去に色々あってな、ヨハンとは相容れぬ間柄なのだ!」
「ははあ? ヨハンさん交易の交渉が始まるまで、カラーズには来たことないって言ってたけどな? ヨハンさんに会ったことはある?」
「い、いや、ないが」
「そーですか」
長老連の三人、目が泳いでるぞ?
ヨハンさん本人を知ってるわけではないんじゃん。
ここで押してもいいが……。
「まー相手の人を気に入らんってことはあるかもしれないね。交流や交易自体を否定してるのでないなら、別の方向を考えてみてはどーかな?」
引いてみた。
「「「別の方向?」」」
「例えばここから強歩二時間ほどのところに、聖火教の本部礼拝堂があるんだ。聖火教徒は蝋燭欲しがってるの。聖火教徒と商売するだけならヨハンさん全然関わんないよ」
「おお!」「なるほど」
「今灰の民の村でこーゆーもの考えてるんだけど」
札取りゲーム試作品を出す。
「これは?」
「ドーラの識字率を上げるための戦略商品の試作品だよ。ゲームで遊んでいれば字を覚えられちゃうっていうコンセプトのもの」
「「「ほう?」」」
おっと、これは皆さん興味があるようだね。
オイゲンさんまでじっと見てくるじゃないか。
「これ実際には黄の民に外注出して作ってもらおうと思ってるんだけど、印刷部分を緑の民に任せたいって言ったら請けてもらえるかなあ?」
「そりゃあ、もちろん」
「絵師も紹介できる」
「掃討戦跡地に移民が大勢来ることになるでしょ? 将来はあっちとも商売できるよ」
「うむ!」
ハハッ、乗ってきたぞー。




