第539話:最高の淹れ方
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後寝る前に、ヴィルを通してサイナスさんに連絡を取る。
『ああ、こんばんは』
「最近こうやってサイナスさんと夜にお話するのがパターン化してるじゃん?」
『してるね』
「あたしの睡眠に好影響を及ぼしている気がするんだよね」
『気がするだけっていうオチか?』
「やっぱサイナスさんもそー思う?」
『えっ? 何でオレに聞くんだ?』
いや、新しい芸風を求めて聞き返してみただけなんだけど。
これ面白くないな。
不採用、と。
「ドーラ産のお茶手に入れてきたよ」
『もうか。早いな』
「産地はザバンっていう、カトマスから強歩三、四時間くらいの自由開拓民集落なんだ。色々面白い情報を仕入れた」
『ほう、何だ?』
「ザバンはサトウキビの産地でもあるんだけどさ。搾りカスで紙作ってるんだって。その紙はレイノスで売ってる新聞になってる」
サイナスさんが考えているようだ。
『搾りカスが紙に……。価格勝負はできないということだな?』
「緑の民が紙を売り出すなら、中級以上のものじゃないとダメとわかった」
『本にできる品質だといいな』
「本が売れるためには紙だけ安くてもなー。どーしても識字率が問題だわ」
となるとアレク達が作った例のゲームを、早く販売できる形にしたい。
黄の民の木工技術は信頼できるけど、緑の民の印刷がどの程度のものかわからん。
いや、識字率関係ない本なら、安くて需要があれば売れるんじゃないか?
何か閃きそう。
『緑の民の村に御機嫌伺い行くか?』
「明日雨なの。明後日午前中どう?」
『わかった』
よしよし。
緑の民長老連へのお土産のお茶も手に入れてるしな。
手懐けたろ。
「ザバンの話の続きね。今のところ売り物にできない、すんごいおいしいお茶飲ませてもらったの。でもそのお茶、ザバンの水じゃないとおいしく淹れられないらしくてさ」
『ほう? だから売り物にできないのか。もったいないな』
「でもうちの子達が混ざりけのない水? 例えば魔法で出した水とかなら大丈夫そうっていうから、今実験中」
『楽しみだな』
「淹れ方のコツがわかれば重要な輸出品になると思うんだよねえ」
『輸出品か』
ドーラが独立したとなると、今後重要になってくるのは移民と貿易だ。
円満独立ってことは、帝国と仲良く貿易する余地がある。
「貿易が活発になると、どうしても帝国からものがたくさん入ってくると思うからさ。ドーラも売るもの作っとかないとビンボーになっちゃう」
『確かにな』
いずれは帝国で栽培しにくい、暖地性の作物を輸出したい。
でも大量移民の関係で、食料品は当分輸出できないだろう。
「カラーズでは何かあった?」
『輸送隊が進発したくらいだな』
「白の民と灰の民の酪農品・農作物もヨハンさんお任せなんだ?」
『ああ。元々ヨハン氏は自由開拓民集落の作物を取りまとめていたろう? 食料関係に強いからな』
「なるほど」
レイノス東の自由開拓民集落とも交流できるだろうし、いい傾向だな。
現時点のカラーズ~レイノス間交易の問題点は、緑の民が不参加ってことだけ。
「あたし最近、冒険者っぽいことしてないなー」
『ハハハ、まあいいじゃないか』
「いーのかなー。あたしが魔宝玉狩りしないと、重要輸出品がなくなってマジでドーラがビンボーになる気もするんだけど?」
『え? 結構な大事なんじゃないか?』
慌て気味のサイナスさん。
ジョークだってばよ。
魔境でデカダンスやクレイジーパペットを倒せるのはうちのパーティーだけじゃないし、塔の村からの魔宝玉もあるだろうしね。
「まーいーや。サイナスさんおやすみ」
『よくはないけどおやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は焼き肉のタレを持って海の王国だ。
◇
――――――――――一一八日目。
「雨降っちゃう雨降っちゃう!」
「だからユーちゃんよ、もう少し早く起きなって」
「寝る子は育つって言うから」
「もう成人だろ?」
「おっぱい育たないかなー」
どんよりとした落ちてきそうな曇り空の下、畑番を務めている精霊カカシと話をしながら、凄草の株分けをしている。
前回の株分けからまだ五日と、いつもの六日サイクルより短いのだが、前回株がかなり大きかったとのことで今日なのだ。
「最近クララの勧めで、起きる時間は厳密に決まってるんだよ。七時三分に」
「その三分ってのにムダな抵抗を感じるぜ」
もう三分あと三分っていう、布団内外でのせめぎ合いがバレてしまったか。
あたしが起きないとパーティーが動き出さないとゆーことはわかってるので、素直に起きることにしているけど。
「でもユーちゃんがおっぱいに拘るの、意外だな?」
「そお?」
「性格的に全然気にしない感じなんだが。セクシーなのがいいのか?」
「いや、無敵感がいいんだよねえ。男だったらクマみたいな大男が無敵感あるけど、女ならおっぱいでしょ」
「……わかる気がするな」
「でしょ?」
あ、いけない。
今日は二株ずつ食べるんだった。
間違えて余計に植えてしまった。
「依頼受付所のおっぱいさんとあたしじゃ、セクハラで訴える! って言った時の説得力が違うんだよなー」
「ユーちゃんは実力に訴えりゃいいじゃねえか」
「それもそーだ」
アハハと笑いながら作業終了。
さて、朝御飯と昨日の水出し茶のチェックだ。
◇
「……」
言葉が出ない。
何って昨日のお茶のことだ。
「……エクセレントね」
「うん、エクセレント」
素晴らしい、ただただ素晴らしい。
魂が宙を揺蕩うような圧倒的な多幸感に支配される。
皆があっという間に大きめのグラスを空にしたが、余韻にいつまでも浸っていられる。
「ちょっと濃かったですかね」
「茶葉半分くらいでよかったかな」
次回は茶葉減らすか。
さて、もう一つ確認しておかねば。
「プチウォーター!」
「「「?」」」
飲みきった両手持ちの大器をもう一度水で満たす。
「ははあ、出し殻でもう一杯飲めるかの実験でやすね?」
「夜になったら味をチェックしよう」
「ベリーゴーヨクね」
「強欲ゆーな。何事も検証が必要なんだわ」
簡単に最高の淹れ方を会得できてよかった。
あとは冷たくしてもおいしいか、熱したら本当にダメなのかの確認だな。
水出しの最適な時間も知りたい。
「さて、コブタ肉狩って海の王国行こうか」
「「「了解!」」」




